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「すぎなみ学倶楽部」20年のあゆみ【後編】

人々がつないだ「公式情報サイト」の20年をつづる

2006(平成18)年に本格始動した「すぎなみ学倶楽部」。現在は、杉並区の公式情報サイトとして区民のみならず、さまざまな分野の研究者に引用されるなど、多くの人々に活用されている。行政と区民がともに作り上げてきたこの取り組みは、20年間どのようにして受け継がれてきたのか。発足当初を知るメンバーや区民ライターへの取材を通して、「すぎなみ学倶楽部」の多岐にわたる挑戦や活動などを紹介する。

▼関連情報
特集>「すぎなみ学倶楽部」20年のあゆみ【前編】

2006(平成18)年、本格始動を告知するチラシ

2006(平成18)年、本格始動を告知するチラシ

地域活動の経験者と専門家が集結して作った土台

すぎなみ学倶楽部の初期メンバーは、知る区ロード(※1)に携わるなど、専門分野での経験を生かして地域活動を行っていた人々。「”皆に見てもらえるサイトを作り出さなくちゃ”と、たくさん企画を出しました。一日10件ほど飛び込みで取材依頼をしましたよ」と話すのは、当時ライター活動をしていた野上優佳子さん。当時電通社員だった川口真史さんは「発信したものを分析して、サイト訪問者を意識したコンテンツ作りをしました。行政と民間の違いを感じることも多くありました」と当時を振り返る。地域コーディネーターの東島信明さんは、区内の小中高大生が杉並区の大人50人にインタビューした記事を作成し「第7回インターネット活用教育実践コンクール」の社会教育部門で佳作となり文部科学省に表彰された。「一緒に取材した子たちはどんな風に成長しているかな。会ってみたいです」と東島さんはほほ笑む。「杉並区にすごい大人がたくさんいることを、子どもたちに知って欲しかったんだよ」

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 ゆかりの人々>道を究める>野上優佳子さん
すぎなみ学倶楽部 すぎなみ人 とっておき物語 vol.1

左から東島信明さん、野上優佳子さん、川口真史さん

左から東島信明さん、野上優佳子さん、川口真史さん

文部科学省に表彰された記事「すぎなみ人 とっておき物語」をまとめた冊子

文部科学省に表彰された記事「すぎなみ人 とっておき物語」をまとめた冊子

ハーモニカ奏者でもある芝貞幸さんは「すぎなみ文化通信」(※2)編集長の経験を通じて培った経験や人脈を生かし、学倶楽部の立ち上げに貢献した。当時の出来事については「あまり覚えていないんです、大したことはやってないんですよ」と謙遜するが、ライターが自ら企画するその手法は、学倶楽部の原点となっている。編集及びライターを担った佐竹未希さんは、「記事全体の構想から打ち合わせさせていただいたことで、杉並区の価値を新たな視点から掘り下げることができ、とても面白かったです」と話す。「著名な人や場所などを紹介するだけでなく、区民として日頃目にはしているものの、ただ通り過ぎてしまいがちなコトにも焦点を当てる記事が初期の頃から数多くありました。ハレとケ、双方の側面があったからこそ、また、それを愉しめる区民の気風があったからこそ、20年もの間続いてきたと思います」

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 ゆかりの人々>道を究める>芝貞幸さん

    芝貞之さん

    芝貞之さん

   佐竹未希さん

   佐竹未希さん

「知りたい」が記事になる。初期の代表作「中島飛行機」

プロの手でサイトの土台が作られた後、区民がメインのライターとして記事を執筆するようになった。区民ライターによる、中期を代表する記事の一つが、第二次世界大戦中に航空機のエンジンを製造した中島飛行機の東京工場をテーマにした証言集だ。当時を知る人々への取材を重ね、地域に残る戦争の記憶と中島飛行機の存在を掘り起こした。取材は二年に及び、シリーズ化された記事は話題となり、記事をまとめた冊子の作成や区民センターでのパネル展など(※3)にもつながった。執筆したのは、区民ライターの井上直さん、野見山肇さん、佐野昭義さん(故人)。井上さんは、父から聞いた中島飛行機の話をきっかけに取材を開始。「以前取材した荻窪の炭屋さんに聞いてみたところ、上荻の御用聞き先で、中島飛行機に勤務していた人たちを覚えていて、人づてに取材を広げることができました」と振り返る。野見山さんも「当時の話を直接聞くことができるのは、インターネット上で散在する中島飛行機ネタの、当事者が語ってくれたから信じていいんだろうなという、情報の格上げということ。貴重な経験だと思います」と証言取材の醍醐味を語った。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 歴史>【証言集】中島飛行機 軌跡と痕跡
すぎなみ学倶楽部 産業・商業>記憶に残したい伝統職>炭屋

中島飛行機の記事をまとめた小冊子

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2012(平成24)年、西荻地域区民センターでの展示風景

2012(平成24)年、西荻地域区民センターでの展示風景

杉並の「今」と「昔」を伝えて20年

20年間にすぎなみ学倶楽部が公開してきた記事は1,600本を超える。区民ライターがそれぞれの興味関心をもとに杉並を掘り下げて記録してきた結果だ。「ラストエンペラーの実弟に嫁いだ侯爵令嬢」「アニメのまちができるまで」など、杉並区の歴史に迫る記事はアクセスも多く、区民をはじめ、幅広い読者に読まれてきた。また、「杉並グルメといえばラーメン」と言われるほど区内に多く存在する個性豊かなラーメン店を延べ100件以上紹介。ライターが地元住民だからこそできる情報発信として、区内寺社の例大祭日程や桜の開花状況などをタイムリーに届ける記事も好評だ。さらに「杉並名品復活プロジェクト」では、太宰治が愛した「ステッキパン」を地元ベーカリーの協力で再現。歴史や文化、食、季節の話題まで、区民ライターならではの視点で杉並の魅力を発信している。

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すぎなみ学倶楽部 歴史>記録に残したい歴史>ラストエンペラーの実弟に嫁いだ伯爵令嬢
すぎなみ学倶楽部 歴史>アニメのまちができるまで
すぎなみ学倶楽部 食>ラーメン
すぎなみ学倶楽部 特集>お花見ポイント
すぎなみ学倶楽部 歴史>杉並名品復活プロジェクト
すぎなみ学倶楽部 特集>【アーカイブ】すぎなみ学倶楽部発行物

区民ライターが選ぶ区内お花見スポットなど地元ならではの情報も

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記事をテーマ別にまとめた小冊子も好評

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学び続ける区民ライター

区民ライターの活動は、取材して記事を書くことだけではない。年に1~2回行う「ライターツアー」では、環七地下貯水施設の見学や杉並公会堂のバックヤードツアーなど、普段は見ることのできない現場を訪ね、地域の取り組みを目の当たりにして理解を深めてきた。また、定期的に開催している「区民ライター会議」では、直近の活動報告や情報交換を行い、そのほか、著作権に関する勉強会やプロカメラマンによる写真撮影講座などの研修なども実施。2010(平成22)年には、杉並区役所内の区民ギャラリーで「すぎなみ学倶楽部写真展」も開催した。
「すぎなみ地域大学」(※4)の区民ライター講座を通して継続的に新たな仲間を迎え、20年にわたり活動の輪を広げて来た。20年間の区民ライター登録者は160名を超える。まさに、杉並を愛し、学ぶことが大好きな人々の集まりである。

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すぎなみ学倶楽部 特集>災害…防災>台風やゲリラ豪雨から流域を守る!環七下の貯水施設

巨大空間を体感した「神田川・環状七号線地下調節池」

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区民ギャラリーでの写真展を記念し写真集も制作した

区民ギャラリーでの写真展を記念し写真集も制作した

取材から生まれた有志活動。地域との交流と支援

取材活動をきっかけに、区民ライターによる自主的な活動が広がることもあった。これまでの区民ライターたちのさまざまな有志活動を一部紹介する。
2010(平成22)年、「杉並区民のための青梅市ガイドブック」発行。区民ライターの編集チームが、交流自治体である青梅市とのタッグを組み制作。46ページにわたり、施設の区民特典一覧に加え青梅市の歴史や観光地の紹介、まんじゅうコレクションまで網羅された。
2012(平成24)年、東日本大震災の翌年に、交流のあった南相馬市を支援するため、なみすけグッズの製造を発注しようと数名の区民ライターが打ち合わせを繰り返した。デザイン、素材を準備して南相馬へ送り、ペンケース、体操着入れなど数百個の完成品は予約販売と店頭販売で早々に売り切れるほど大人気だった。現地からは「いやされる絵柄で作業が楽しい」「仕事ができるのがうれしい」とのコメントが届いた。

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すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>杉並の交流自治体>青梅市
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>杉並の交流自治体>南相馬市

「青梅市ガイドブック」はすぎなみ学倶楽部で培った取材力を発揮し情報満載

「青梅市ガイドブック」はすぎなみ学倶楽部で培った取材力を発揮し情報満載

郷土博物館分館で区民参加型展示を行った際のパンフレット

郷土博物館分館で区民参加型展示を行った際のパンフレット

地域の記憶を掘り起こし、新たな発信につなげる

2018(平成30)年、高井戸の「農の哲人」、江渡狄嶺の取材では、信頼関係を築いた取材先からの情報で、貴重な資料の発掘活動を杉並区立郷土博物館と共同で実施。資料のうち一般の方にも興味を持っていただけそうな旅の資料は「江渡狄嶺資料展[1924旅]」というタイトルで区民参加型展示として郷土博物館分館で公開された。
2019(平成31・令和元)年、江渡狄嶺資料収集でみつけた明治時代の洋食レシピ帳を参考に有志で当時の料理再現を行い、『関村ミキの料理帳』として書籍化した。
2023(令和5)年、区政施行90周年の5ストーリーズのテーマ「東京ごみ戦争」について取材していた筆者が式典で登壇。当時を知る内藤博孝さんの証言取材をもとに15分のミニ講演を行い、取材でご縁のあったお笑い芸人マシンガンズの滝沢秀一さんに東京ごみ戦争への所感を伺った。

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すぎなみ学倶楽部 ゆかりの人々>杉並の偉人>江渡狄嶺さん
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すぎなみ学倶楽部 ゆかりの人々>著名人に聞く 私と杉並>滝沢秀一さん

江渡狄嶺の妻、関村ミキが遺したレシピを再現・書籍化

江渡狄嶺の妻、関村ミキが遺したレシピを再現・書籍化

「東京ごみ戦争」を語る滝沢秀一さん(右)と筆者(写真提供:ごみ減量対策課)

「東京ごみ戦争」を語る滝沢秀一さん(右)と筆者(写真提供:ごみ減量対策課)

現役区民ライターが語る活動の魅力

すぎなみ学倶楽部20周年を迎えるにあたり、現役区民ライターに活動の振り返りについて取材した。これまで69本の記事を執筆した(2026(令和8)年4月現在)区民ライターの村田理恵さんは、「杉並の魅力は、杉並に並々ならない愛着を持つ人々の存在。取材者の声に耳を傾けると、そこから他者多様な杉並の魅力が立ち現れる」と語る。区民ライターの醍醐味は「取材でなければ聞けない話を聞けること」。なかでも、「杉並5ストーリーズでの原水爆実験禁止署名運動の記事の取材が一番印象に残っている。杉並の世界に誇れる活動を知り、学び、記事にした得難い経験だった」と振り返る。また、「『大奥』の作者・よしながふみさんに取材できたことは区民ライターの役得」だという。他の区民ライターからも、「地域に根ざした公共施設の存在を知った」「取材を通した多くの人々との出会い、著名人への取材など、貴重な経験を得た」などの声が寄せられた。

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荻窪祝祭管弦楽団の取材をするライター村田理恵さん(左)

荻窪祝祭管弦楽団の取材をするライター村田理恵さん(左)

2020(令和2)年、故・谷川俊太郎さんの自邸で取材する筆者

2020(令和2)年、故・谷川俊太郎さんの自邸で取材する筆者

取材を終えて

20年にわたり積み重ねてきた記事は、地域の歴史や文化、出来事だけでなく、人々の思いや暮らしを映し出す「杉並の記録」でもある。
人と話すことが好きな私にとって、取材は新たな出会いや発見に満ちた時間である。一方で、予定どおりにいかず思い描いた話が聞けないこともあれば、思いがけない言葉から特大スクープが生まれることもある。期待と緊張が入り混じる手探りの連続だが、やめられない。区民ライターの活動を通して、歴史を学ぶということは、その時代を生きた人々の思いや考えに触れることであると感じている。だからこそ、今回のすぎなみ学倶楽部20周年企画に携われたことを、大変嬉しく思う。

※1 知る区ロード:杉並区が整備した全長約36kmの散策路。日頃から歩いて避難経路や危険箇所を把握し、災害時の安全な避難路として活用することを最大の目的とした防災のまちづくり事業
※2 すぎなみ文化通信:芝貞幸さんが編集長として発信していた冊子(1988-2012)
※3 冊子の作成や区民センターでのパネル展など:これらのほかに、2010(平成22)年に杉並区主催「はじめてのシナリオ教室ー杉並物語ー」の受講者がこの記事を元にシナリオを作成。朗読劇としてプロの俳優陣によって座・高円寺で上演された際には証言者の平井さん、万田さんも招待された
※4 すぎなみ地域大学:杉並区による地域活動に必要な知識・技術を学ぶ講座

DATA

  • 取材:加藤智子
  • 撮影:TFF
    取材日:2026年06月26日、07月10日
  • 掲載日:2026年09月14日