
歌手・合唱団と共演した第20回定演。合唱団はこの公演限定で結成した(写真提供:荻窪祝祭管弦楽団)
杉並区荻窪では、例年11月にクラシック音楽を中心とした荻窪音楽祭が開催される。それにちなんだ名称を持つアマチュアオーケストラが、荻窪祝祭管弦楽団だ。活動は2026(令和8)年で12年目を迎え、年2回の定期演奏会(以下、定演)を中心に、杉並区民に音楽の楽しさを届けている。
2026(令和8)年4月29日、杉並公会堂での第20回定演では、満席の聴衆を前に、ベートーヴェン交響曲第9番が披露された。スケールの大きい曲にも果敢に挑戦する地域に密着した荻窪祝祭管弦楽団の活動について、代表の中村健次郎さん、副代表の植木佳織さん・太田典子さんに話をうかがった。
荻窪祝祭管弦楽団の始まりは、荻窪音楽祭を抜きにしては語れない。中村さんに、楽団結成のいきさつを聞いてみた。「2015(平成27)年の第28回荻窪音楽祭開催にあたり、当時私が所属していた別のアマチュアオーケストラが、荻窪法人会が主催するチャリティコンサートでの演奏依頼を受けたのですが、杉並公会堂小ホールでの演奏のためステージに上がれる人数に制限があり、楽団員全員が参加できません。それならば、今演奏会限定のオケ(※1)を作ってしまおうと、一発オケ(※2)を企画しました」。所属オケとは別の団体とし、団員はオケ専サイト(※3)や、人づてで集め、2015年11月7日に23名で演奏を披露した。「当初は一回限りの予定でしたが、演奏後にメンバーの中に、このまま地域に密着したオーケストラとして活動を続けたい、という気持ちが高まり、同日にアマチュアオーケストラ団体として正式に発足。2016(平成28)年10月1日に第1回定演を行いました」
荻窪祝祭管弦楽団の設立当初からのコンセプトは、始まりが音楽祭という地域活動だったため、「音楽を軸とした地域コミュニティ」で、大切にしているのは、団員のアンサンブルだ。「皆が同じ方向を向き、同じモチベーションを持って活動し、その結果地域と結びつくことができれば良いなと。運営は全員参加型で、団員にはアンサンブルの観点から、何らかの係についてもらっています」と中村さんは、楽団の活動方針を語る。
入団時のオーディションは、祝祭の名にふさわしくないので行わないが、2024(令和6)年に、団員が共通して持つ信条・信念や具体的な活動ルールを記したCREDO(クレド)を作成し入団希望者に渡している。「同じ気持ちで参加してもらえるか、確認しながら説明しています。団員の定着率は高く、20代~70代と幅広い年代層が参加しています。現団員は72名です。(2026年5月現在)」と植木さん。
荻窪祝祭管弦楽団は荻窪音楽祭との関係から、発足当初からプロの音楽家との交流があった。2020(令和2)年6月から音楽監督に日本フィルハーモニー交響楽団(以下、日本フィル)の常務理事で元首席ヴィオラ奏者でもある後藤悠仁(ごとう ゆうじ)さんを迎えた。また、プロの演奏家であるトレーナーが、楽器種類別に団員を指導している。
リハーサルは月に3回行われ(定演間近になると4回)、後藤さんが指揮する時は、参加者が多く演奏が引き締まるとのこと。トレーナーの指導は結構シビアで、ダメ出しされることもある。年2回の定演は大変に思われるが、団員は問題なくこなしている。「年2回のほうが、途切れることなく練習に取り組める利点があります」と植木さん。リハーサルの他にも、各パートで自主練習を行い、意欲的に技術アップを図っている。
この楽団の魅力の一つが、バラエティーに富んだ演目だ。メジャーな作曲家の作品だけでなく、一般に名の知られていない作曲家の作品も演奏されている。トレーナーでも初めて聴く曲があるそうだ。
「選曲は音楽監督の後藤さんの意向が反映されています。音楽に詳しい人との交流があるので、珍しい曲が登場します。団員にはオケ初心者もいて初めて演奏する曲が多く、メジャーな曲でなくとも演奏への違和感は少ないです。初めて聴いた曲で聴衆に感動してもらえたらうれしいです」と中村さん。
「年々、曲の難易度が上がっています。団員は簡単な曲では物足りなく感じていて、今後は、難曲をメインにして、演目の引き出しを増やしていきたいです」。ソリストと共演する協奏曲が演目に多いのも楽しみの一つだ。主に音楽祭や日本フィル関係から人選し、中村さんが出演交渉をしている。ソリストからは学ぶことが多く、良い刺激をもらっているとのことだ。
定演への道のりは、まず練習場所確保から始まる。「練習施設の予約が始まると、待っていましたとばかりにエントリーします。24回くらいの場所が確保できるよう申し込んでいます。他のオケだけでなく、弦楽合奏団や合唱団などとの練習場所の争奪戦になっていて大変です」と中村さん。協奏曲は、ソリストのスケジュールを押さえねばならないので、1年前から日時が決まっていることもあるそうだ。
演奏会場確保も重要課題だ。秋の定演は荻窪音楽祭開催中に行なうため、杉並公会堂を押さえられるが、春の定演は簡単にはいかない。「抽選では、過去の利用実績は考慮されません。2027年の春の定演は、運良くなかのZEROが当たりましたが、だめだったら八王子あたりまで行かねばならなかったかも。そうなると、お客様に来てもらえないかもしれません」と植木さん。定演での演奏の背景には、このような音楽以外の苦労もあるのだ。
荻窪祝祭管弦楽団では、「音楽を軸とした地域コミュニティー」の実践として、音楽によるボランティア活動も行っている。日本フィルが例年3月後半に杉並公会堂を借り切って開催する「日本フィル春休みオーケストラ探検」では、子どもが実際に楽器に触れる体験イベントに協力している。荻窪音楽祭を通して、日本フィルとの繋がりがあるためできる活動だ。パートごとの練習で杉並区内の小中学校音楽室を借りている関係から、部活の吹奏楽のトレーナーも務めている。子どもたちにアドバイスするだけでなく一緒に演奏し、音楽を楽しんでいる。
過去の単発活動には、区内の都立高校の記念式典での演奏や、小学校への出前コンサートの開催などがある。後者は団員の希望で実現し、子どもの反応は良かったそうだ。「団員が仕事を持っているアマチュアオケですので、こちらから仕掛けるのは難しいですが、これからも演奏依頼があれば引き受けたいです」と中村さんは地域活動にも意欲満々だ。
この楽団の別プロジェクトが、カメラータOFOだ。小編成の室内楽をやりたい有志が集まり2020(令和2)年11月から活動を開始し、楽団の定演とは別に年1回秋に演奏会を開いている。演奏曲はモーツァルトの時代(18世紀後半)くらいまでで、室内楽だけでなく小編成の交響曲や協奏曲も演奏する。その時代の弦の使い方を学べ、弦楽器のレベルアップにつながっている。
リハーサルは、オーケストラとは別に月3~4回ある。二つに所属していると、午前カメラータOFO、午後オーケストラと一日中音楽づけになることもあるが、団員は負担に感じることもなく活動している。「問題は、カメラータOFO演奏会のための丁度よいキャパシティーのホールが少なく、会場探しが大変なことです」と中村さん。ここでも、演奏会場確保が重要問題だ。
これまでの活動中の忘れられない出来事について、中村さんに聞いてみた。「杉並公会堂大ホールが初めてゲットできた2019(平成31)年4月20日の第6回定演でのことです。演目がチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番とブラームスの交響曲第1番とメジャー曲で、入場は無料でした。大ホールの定員を大幅に上回る1,500人が詰めかけ、動員最高記録を樹立しました。全員は入場できず、杉並公会堂からは注意を受けました。これを機に次の定演からは有料公演になりましたが、杉並では杉並公会堂で音楽を聴く文化が根付いているので、有料でも聴きに来てもらえています」
2026(令和8)年4月29日の第20回定演は、販売開始翌日で完売になった。「有料で満席はすごいことです」と中村さんは胸を張る。
「公演後のアンケートから、演奏会を心待ちにしているリピーターがいることがわかります。また、チケットが販売されると日を置かず購入してくれる支持者も多いです。こうした以前からのファンに加え、初めての観客も大切にして、このオケならまた聴きたいという人を増やしたいです。"杉並でアマチュアオケといえば、荻窪祝祭管弦楽団"と言ってもらうのが目標です」と植木さんは夢を語る。音楽を多くの人に届けるために、コンサートのライブ配信もしている。2020(令和2)年のコロナ流行時には、テレワークオーケストラを計3回実施し、第2回目では、杉並区新しい芸術鑑賞様式助成金を得て、地域の店・施設を各団員が訪問し、店の紹介をしながら演奏した。
最後に中村さんから杉並区民へのメッセージをいただいた。「生の演奏を聴いてもらう機会を増やし、地域のつながりを音楽で作り出したい。一度は演奏を聴いてほしいです」
※1 オケ:オーケストラの略称で、主に楽団を指す
※2 一発オケ:該当のコンサート限定で結成される単発企画のオーケストラ
※3 オケ専サイト:楽器演奏情報サイト。団員募集や演奏会情報がチェックできる