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芝貞幸さん

複数のハーモニカを使って、どこでも心地よく奏でる

複数のハーモニカを使って、どこでも心地よく奏でる

ハーモニカを楽しんでもらいたい。普及活動40有余年

芝貞幸(しばさだゆき)さんは、80代の現在もハーモニカ奏者として精力的に活動している。ハーモニカ3本、場合によっては5本を同時に扱う演奏を得意とする。
家にあったハーモニカを手にしたのが7歳。クラシック好きが功を奏して練習熱心だった会社員時代。杉並区内でのハーモニカ普及活動は、在住歴と同じく40年以上に及ぶ。ハーモニカ講師だけでなく演奏会の裏方まで担当する技術畑出身の万能選手だ。

ハーモニカを語る時、顔がほころぶ芝さん

ハーモニカを語る時、顔がほころぶ芝さん

芝さんがハーモニカについて語る時はいささか冗舌となる。
「7歳の頃から吹いているけれど、成長するにつれ他のことに興味が出て、高校生くらいからはハーモニカに触れることもほとんどなかったかな」。クラシック音楽が好きなので、曲を知るために楽譜を買って確認する時に吹いたぐらいだと言う。
転機は社会人生活が20年近くたった頃。職場で家族単位で出場する音楽会が開かれることになった。「わが家は妻がピアノ、息子はバイオリン、娘はパーカッションと担当が決まった。私はと言えば、ハーモニカでもやるしかないかなという程度。ところが当日、なんと私の演奏が拍手喝采を浴びたんだよね」
それでもうちょっとやっても良いかなと思い、自宅近くにあった教室に通うことにした。しかし初めて行った日の演奏は『中級』と評された。
「それならばと、さらに上手になりたくて、勤務先の昼休みの後半30分、5階の非常階段の踊り場で毎日練習してたよ」

その日の気分で曲調を考え、ハーモニカを選ぶ

その日の気分で曲調を考え、ハーモニカを選ぶ

あのイベントにも出演。杉並区内での音楽活動

連日の練習で腕を上げ、2011(平成23)年には高円寺びっくり大道芸の前身となった商店街でのイベントに参加しコンテストで優勝。以降の高円寺びっくり大道芸には、中国雑技芸術団など世界で活躍するプロの大道芸人に混じって5回の出演経験がある。「呼んでもらえたのは地元枠だからでしょう」と芝さんは謙遜する。
ハーモニカ講師としての活動も充実している。月に2回、ゆうゆう堀ノ内松ノ木館で教えている。「不思議なもので、生徒さんの音がだんだん研ぎ澄まされていい音になっていくんですよ。だから私は指導といっても感想を言うくらい」と芝さんはほほえむ。合奏曲は皆が知っている曲を選ぶが、発表会での独奏曲、個人への指導は生徒本人の好きな曲で行っているそうだ。
その他区内2か所のハーモニカグループの立ち上げ、育成の実績がある。

高円寺あづま通り商店会主催の大道芸大会(写真提供:芝貞幸さん)

高円寺あづま通り商店会主催の大道芸大会(写真提供:芝貞幸さん)

トレードマークの赤いシャツで演奏(写真提供:芝貞幸さん)

トレードマークの赤いシャツで演奏(写真提供:芝貞幸さん)

表から裏から日本のハーモニカ界を支える存在

芝さんは関東ハーモニカ連盟の役職に就きつつ、演奏会では音響技術担当としても動いてきた。他にも会報誌の編集、印刷、発行、発送まで中心となって行ってきた。「私は裏方の方が多くてね」と笑う。
演奏者としても、例年秋は東京都ハーモニカ協会が主催するコンサートに出演している。指導しているゆうゆう堀ノ内松ノ木館のメンバーを引き連れての演奏だ。
1997(平成9)年には、所属するハーモニカトリオで「日本ハーモニカ賞」を受賞した実績もある。数千人規模のフォークダンスや民謡を含むダンス大会に生演奏で参加したことが認められた。

3本ハーモニカの海外での反応

3~4本のハーモニカを一度に持って演奏する芝さんのスタイルは人目を引く。7歳の時ハーモニカの基本奏法をたった5日で習得してしまったという音楽センスの持ち主だからこそできる技でもある。
ハーモニカは音によって、吹いたり、吸ったりする楽器だが、メーカーに依頼すると、音の配置を変えたハーモニカを製作してくれるそうだ。芝さんのオリジナルなハーモニカがその演奏に厚みを増やしている。
観光で訪れたスペインでは、路上に立ってハーモニカを3本奏法で吹いてみたところ、大いに受けた。ボストンの公園で吹いたら、アメリカ人がお金を置いて行ってくれた。「海外では、文化芸術に対して称賛がなされる。日本にもそういう文化が根付くといいなあ」。

ボストンの公園で路上ライブ(写真提供:芝貞幸さん)

ボストンの公園で路上ライブ(写真提供:芝貞幸さん)

これぞ3本ハーモニカ!

これぞ3本ハーモニカ!

ハーモニカ最高賞を受賞して

2025(令和7)年には佐藤秀廊賞(※)を受賞した。受賞理由は、2010(平成22)年に関東ハーモニカ連盟の会長に就任し、ハーモニカ音楽の発展に寄与したことによる。佐藤秀廊賞はハーモニカ界では最高の賞といわれている。
最高峰も極めた芝さんは、「これからは裏方のお世話係は後進に譲って、純粋にハーモニカを楽しみたい」と語る。長年行っていた、会報誌の版下製作を最近やっと若手に引き継いだばかりだ。
コロナ禍以前は、歌詞をスクリーンに映して、ハーモニカによる伴奏つきの歌声喫茶のようなことを行っていた。「準備に手間がかかるけど、皆が楽しそうなので、そろそろ歌声喫茶を復活させたいなあ」と芝さんは目を細める。

佐藤秀廊賞を受賞(賞状の写真再撮)(資料提供:芝貞幸さん)

佐藤秀廊賞を受賞(賞状の写真再撮)(資料提供:芝貞幸さん)

取材を終えて

芝さんの演奏と話を聞いていると、ハーモニカ、そしてタンゴが心から好きだという情熱が伝わってくる。ハーモニカの普及のために表舞台だけでなく裏方までも率先してこなす心意気に圧倒され、取材時間があっという間に過ぎた。ぜひ、皆さんにも実際の演奏を生で感じてほしい。

芝貞幸 プロフィール

1938年東京都港区生まれ、1980年から杉並在住。大学卒業後、現NTT株式会社に入社、同社を定年退職後の2010(平成22)~2024(令和6)年度まで関東ハーモニカ連盟会長を務める。
2012~2015、2019年 高円寺びっくり大道芸に出演
2018年 全日本ハーモニカ連盟より、日本ハーモニカ賞特別賞を受賞
2019年 ニッポン・ハーモニカ・クラブ相談役に就任
2025年 佐藤秀廊賞受賞

(※)佐藤秀廊賞:佐藤秀廊は1926(大正15)年にドイツで開かれた“ハーモニカ100年祭”に日本代表として参加、世界コンテストで優勝した奏者。佐藤秀廊賞は、1999(平成11)年、ハーモニカ音楽の普及と発展に貢献、かつ社会活動に尽力した人物をたたえるために創設された 

DATA

  • 出典・参考文献:

    ニッポン・ハーモニカ・クラブ https://www.n-h-c.net/organization/

  • 取材:おおつちさとべえ
  • 撮影:TFF
    写真提供:芝貞幸さん
    取材日:2025年8月17日
  • 掲載日:2025年12月23日