杉並区立郷土博物館

杉並のおよそ3万年の歴史のあゆみが理解できる常設展示室

杉並のおよそ3万年の歴史のあゆみが理解できる常設展示室

善福寺川のそばに立つ郷土博物館

1989(平成元)年にオープンした杉並区立郷土博物館では、杉並に関する歴史と郷土資料の収集・保存、調査・研究と展示・公開を行っている。善福寺川のほど近い、大宮一丁目の住宅街を歩いていると見えてくる、かやぶき屋根の長屋門(コラム2参照)が博物館の入り口だ。
郷土博物館が建っている敷地自体にも歴史がある。この一帯は公家の家系である旧侯爵・嵯峨(さが)家の所有地だった。1937(昭和12)年、実勝侯爵の令嬢、嵯峨浩(ひろ)が、ラストエンペラーで知られる愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)の弟・溥傑(ふけつ)と軍の主導で結婚する際、この地から式場に出発した。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 歴史>記録に残したい歴史>ラストエンペラーの実弟に嫁いだ侯爵令嬢

杉並区立郷土博物館(写真提供:杉並区立郷土博物館)

杉並区立郷土博物館(写真提供:杉並区立郷土博物館)

施設案内

館内は、主に一階の常設展示室と特別展示室、二階の情報普及コーナー、視聴覚室で構成されている。このほか、敷地内に長屋門と古民家がある。

常設展示室
2015(平成27)年にリニューアルして見やすくなった常設展示室では、地元杉並の「原始・古代」から「中世」「近世」「近現代」までの様子を時代ごとに知ることができる。例えば、「原始・古代」コーナーでは、区内の各遺跡から発掘された土器や石器が見られる。「近世」に関しては、江戸時代の高井戸宿の模型を展示しており、甲州街道沿いにあった宿場町の町並みの再現が、見る者の想像を助けてくれる。また、杉並で発祥した「水爆禁止署名運動」に関する資料なども一見の価値がある。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 歴史>記録に残したい歴史>杉並で始まった水爆禁止運動

常設展示室

常設展示室

特別展示室
特別展示室では、杉並に関する事柄を広くテーマ別に取り扱った企画展・特別展が行われている。
過去には「井伏鱒二と『荻窪風土記』の世界」(平成10年)、「有吉佐和子歿後(ぼつご)30年記念特別展」(平成26年)、「上林暁展-闘病の作家その作品と生涯-」(平成22年)など、郷土にゆかりのある作家を取り上げた展示や、「甲州道中へのいざない-行き交う人・モノ-」(平成25年)、「高円寺フォーク伝説」(平成8年)、「杉並のお風呂屋さん」(平成19年)など、郷土の歴史に限らずさまざまなジャンルからの展示を行っている。
今後の展示の内容や開催期間については、「広報すぎなみ」やホームページなど、区の公式情報に発表されるのでチェックして訪れたい。

杉並区HP>イベント情報(外部リンク)

過去の図録は受付で購入することができる(一部売り切れあり)

過去の図録は受付で購入することができる(一部売り切れあり)

長屋門(旧井口家住宅長屋門)
宮前5丁目の五日市街道沿いにあった江戸時代末期の建物を、1971(昭和46)年に解体、1989(平成元)年に郷土博物館の門として移築したものである。長屋門は近世になってできた門の形式の一つで、下級武士の住宅として定着していた長屋に門を取りつけたもの。江戸幕府の統制下で、農村部では一部の村役人層の家のみが建築を許可されていて、井口家は代々名主を務める家柄だった。郷土博物館では、入って左側の蔵屋に養蚕業に関わる機織機(はたおりき)などを展示している。

長屋門(旧井口家住宅長屋門)

長屋門(旧井口家住宅長屋門)

昔の農家で使われていた機織機や糸車などの展示

昔の農家で使われていた機織機や糸車などの展示

古民家(旧篠崎家住宅主屋)
古民家は、長屋門と同じく郷土博物館がオープンした年に、下井草5丁目から移築復原。建築は寛政年間(1789-1801)頃とされる。江戸時代、区内では杉が多く植林され、高井戸丸太として江戸に出荷されていた。古民家の柱材にも杉が使われているが、土間を上がったところの柱の断面は、よくある正方形ではなく、一辺が長い長方形をしている。また、天井を走る梁(はり)に曲がったままの材木が使われているが、これには真っすぐな梁を使えるのは寺社か大名屋敷のみだったからという説がある。内部は囲炉裏や土間、かまどなど、昔の農家の生活様式が再現されている。

古民家外観(写真提供:杉並区立郷土博物館、撮影:小林弘一)

古民家外観(写真提供:杉並区立郷土博物館、撮影:小林弘一)

イベント

古民家では「年中行事」として、昭和初期頃までの農家の行事を新暦で紹介する展示が、ほぼ毎月行われている(農繁期にあたる6月と8月は年中行事がなかったので、博物館の古民家の行事もない)。例えば、10月には「荒神さま(※)のお発(た)ち」と題し、荒神さまが出雲へ旅立つのを見送る行事として、かまどに団子などを飾る。12月には、さおの先にかごをつけて玄関先に立てる、魔よけの風習「ヨウカゾ」を紹介している。3月の桃の節句の頃には、館所蔵のひな人形の展示と、区民グループによる琴の演奏、甘酒のふるまいがある。

※荒神(こうじん)さま:台所を守護する神

古民家で行われた節分の豆まきの様子(写真提供:杉並区立郷土博物館、撮影:小林弘一)

古民家で行われた節分の豆まきの様子(写真提供:杉並区立郷土博物館、撮影:小林弘一)

また、区内在住や在学の小学生から中学生を対象に「七夕馬作り(7月)」「まゆだんご作り(1月)」など、杉並の農家で実際に行われていた行事の体験イベントを開催している。大人向けには、6月と11月頃に開催される「古文書講座」がある。古文書解読のさわりが学習できると、毎年抽選になるほどの人気講座だ。特別展示室での展示期間中には、学芸員による展示についての解説日も設けられる。解説を聞くと、展示についての理解が深められ、さらに楽しめるだろう。
イベントの詳細は「広報すぎなみ」のほか、郷土博物館のホームページ、区立図書館などで入手できる「年中行事だより」などに掲載される。

地域に愛される郷土博物館へ

郷土博物館の運営や行事イベントの実施には、区内の団体やNPOも多く関わっている。前述の古文書講座は、区が所有する古文書解読に協力している「みおつくしの会」。古民家の囲炉裏への火入れと昔の農家の生活案内は「NPO法人すぎなみムーサ」。年末の古民家すす払いは「文化財保護ボランティア」などの区民団体が協力。その他、地域の有志も郷土博物館を盛り上げるために協力している。
博物館の周辺には、都立和田堀公園を始め、大宮八幡宮、済美台遺跡、松ノ木遺跡などの見どころがある。また、近くの善福寺川の側道では、散策やランニングなどをする人も多い。
博物館には、車いす対応のトイレや授乳・おむつ替えのできるスペースもあり、英語版のパンフレットも常備されているので、誰と一緒に行っても安心して過ごすことができる。天気のいい日には、弁当を持参して公園で食べ、周辺を散策し、郷土博物館で歴史の勉強をする、などという休日プランはいかがだろうか。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>公園に行こう>都立和田堀公園
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>寺社>大宮八幡宮

善福寺川と和田堀公園

善福寺川と和田堀公園

館長からのメッセージ

杉並区立郷土博物館は、2018(平成30)年3月までに45万人を超える来館者をお迎えすることができました。これも区民の皆様をはじめ、多くの方々のご支援の賜物と厚くお礼を申し上げます。郷土博物館は、これからも楽しみながら郷土への愛着と誇りを感じていただけるよう、さまざまな事業を展開してまいります。皆様のご来館をお待ちしております。

毎年ゴールデンウィーク頃に花が咲くハクウンボク

毎年ゴールデンウィーク頃に花が咲くハクウンボク

利用者便利情報

開設年:平成元(1989)年5月
設計者・設計事務所:株式会社桂設計
収容人員:-
駐車場:なし
駐輪場:あり
観覧料:100円(中学生以下は無料)

博物館外観(写真提供:小林弘一)

博物館外観(写真提供:小林弘一)

DATA

  • 住所:杉並区大宮1-20-8
  • 電話:03-3317-0841
  • 最寄駅: 永福町(京王井の頭線) 
  • 営業時間:09:00-17:00
  • 休業:毎週月曜・毎月第3木曜(祝日と重なった場合は開館、翌日休館)、12月28日から1月4日まで
  • 公式ホームページ(外部リンク):http://www.city.suginami.tokyo.jp/histmus/index.html
  • 取材:ヤマザキサエ
  • 撮影:ヤマザキサエ、TFF
    写真提供:小林弘一、杉並区立郷土博物館
  • 掲載日:2018年05月21日
  • 情報更新日:2024年02月18日