
駅前ロータリーが見下ろせる窓際の特等席
電車がホームに滑り込み、絶え間なく人々が行き交う阿佐ケ谷駅。その駅前の喧騒を眼下にしながら、時が止まったかのような静寂をたたえる場所がある。それがカフェ・ド・ウィングだ。フランス語の「Cafe de(~のカフェ)」に、英語の「Wing(翼)」を組み合わせた店名は、広げた翼の下に人が集うイメージから「憩える集合場所に」という思いを込めて名付けられたという。
1984(昭和59)年創業の店内にはジャズが軽く流れ、「昭和の香りのする昔ながらの喫茶店」そのもの。一歩足を踏み入れると懐かしい雰囲気に包まれる。
自動ドアを抜け店内に一歩足を踏み入れると、調理担当のオーナーと、ホール担当の2人が迎え入れてくれる。紳士的な魅力を持つ3人は同店に長く務めるベテランだ。
食事を楽しみながら、ふと視線を上げれば、窓一面に阿佐谷駅前のパノラマが広がっている。南口のロータリーには30mを超えるメタセコイア(アケボノスギ)が雄大にそびえ立ち、12月からはイルミネーションがそれらを彩る。そしてひっきりなしにホームへと吸い込まれていく黄色やオレンジの電車。「この視点の高さが、日常の悩みや煩わしさを少しだけ小さく見せてくれます」とオーナーの藤巻さんは自慢気に話す。また阿佐谷を舞台にした漫画『ひらやすみ』でも舞台のひとつとして取り上げられ、聖地巡礼の目的での来客もある。ホール担当の田波(たんば)さんは「誰にとっても居心地のいい空間であってほしいのでマナーの悪いお客さんにはそれとなく注意もさせてもらっています」とほほ笑んだ。
メニューには大豆を30%使用したハンバークや、野菜たっぷりのプレートなどヘルシーなものが多い。「若鶏(みちのく鶏)の胡麻風味焼き・サラダ仕立て」には意外な食材も日替わりで使われており、取材時には厚焼き玉子と大豆、うぐいす豆、パイナップルが入っていた。玉子とハムのサンドイッチもあるが、迷った時には「ミックス焼きサンドイッチ」がおすすめ。玉子とハムの他、チェダーチーズが挟まれている。
スイーツメニューも豊富で、ケーキの他にあんみつやパフェなどがある。中でもアイスクリームを添えた「昔ながらの昭和のプリン」はスプーンを跳ね返すほどの弾力と濃厚な味わいで、私たちの味覚の記憶を、かつて一番幸せだったあの日へと優しく引き戻してくれる。