
「病院の近くにいます。どこでしょーか」の答えはココ!
「巡礼のスタートは、やっぱりココだよね!」
杉並区阿佐谷の周辺を舞台とした漫画がある。のんびりお気楽なフリーター・ヒロトと、彼を取り巻く人々の日常を描く、週刊ビッグコミックスピリッツで連載中の漫画『ひらやすみ』。ヒロトのバイト先である釣り堀のモデルは、JR阿佐ケ谷駅から徒歩約3分、2024(令和6)年に創業100周年を迎えた「寿々木園」だ。手ぶらで出かけて、金魚釣りと鯉釣りを楽しむことができる。
「駅の近くにこんなのんびりスポットがあるなんて、びっくり~」
店番の鈴木惇也さんは、「『ひらやすみ』を持って来場されるお客さんもいますよ。釣ってもらって、ゆっくり過ごしてもらえたらうれしいです」と、まるでヒロトのような優しい笑顔で話してくれた。
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次にやってきたのは、阿佐ケ谷駅の南側、ビルの2階にある「カフェ・ド・ウィング」。ヒロイン・よもぎさんが、小説家・石川と話していたのが、この店の窓際の席。「ウィング」の文字が浮かぶ大きなガラス窓から、阿佐ケ谷駅の南口の風景を見渡すことができる。
代表の藤巻さんによると、『ひらやすみ』の新刊が出るたびに常連さん同士で話が盛り上がっているそうだ。
照明を少し落とした店内は、静かな音楽が流れ、昔ながらの「純喫茶」の落ち着いた雰囲気だ。アルコール類を含むドリンクの種類が多いだけでなく、デザートや食事のメニューが豊富で食べ応えもありそうだ。
「カレーやハンバーグが人気なんだって!日替わりでトッピングが変わるのも、楽しいね」
ビルを出ると、目の前が南口のロータリー。中杉通りを挟んで東側に、阿佐谷パールセンターの特徴的なドーム屋根が見える。
ヒロトの親友・ヒデキが、よもぎさんから「現実から逃げてばかり!!」と怒られていたのが、このロータリーの一角だ。中ほどに大きくそびえるメタセコイアは、テレビ局の調べによると2023(令和5)年の時点で高さ32mとのこと。夏には足元のベンチに木陰を作り、冬にはイルミネーションで道行く人を楽しませてくれる。
「ちょっと休むのにいい場所だね。本を読んでいる人もいるよ」
今度は阿佐ケ谷駅の中を通って北口へ。バスロータリーから北口アーケード街を抜けると、さらに北に向かって続くのが松山通り。
ヒロトのいとこ・なつみちゃんが、美術大学の同級生・中島さんと連れ立って歩く道だ。作中に何度か登場する「古書コンコ堂」もこの通りにある。
歩くうち、二人は言い争いになってしまうが、お互いの気持ちを分かり合い、再び仲良く歩き出す。
「駅の人混みから離れて、落ち着いた通りだね」
こんな松山通りだったから、本音をぶつけ合ったり、ふと自分のことを振り返ったりできたのかもしれない。
さらに北へと歩いた二人が前を通りかかる「八幡煎餅」はこの地で80年以上営業を続ける老舗の煎餅屋だ。店の方によると、阿佐ヶ谷姉妹がピーナッツを買いによく訪れるらしい。
「ヒロトに平屋をくれたおばあちゃんも、ここにお煎餅を買いに来たかもしれないな~」
「松山通りのすぐ東側を走る中杉通りに出て、阿佐ケ谷駅の方へ戻ろう」
阿佐谷のメインストリートである中杉通り。その早稲田通りから青梅街道の間は、道路の左右に植えられたケヤキが長いトンネルを作る、美しい並木道。アルバイトを増やして不在がちなヒロトを捜し、ちょっと寂しくなったなつみちゃんが背中を丸めて歩くのは、この道だ。
太平洋戦争の際に建物を強制疎開して設けられた防火ベルト地帯が、戦後に中杉通りとなった。1954(昭和29)年、殺風景だった通りの両脇に、地元の有志たちが119本の苗木を植えたのが始まりで、1992(平成4)年には、区民の投票をもとに杉並区が選定した『杉並百景』に選ばれた。
「ケヤキ並木は杉並区のシンボルだよね」
阿佐ケ谷駅の手前を東に折れ、5分ほど歩くと、杉並区立阿佐谷地域区民センターがある。
過労で倒れて3日後、退院したヒロトが、携帯電話に届いたなつみちゃんからの「病院の近くにいます。どこでしょーか」のメッセージに導かれ、たどり着くのが、同センターの屋上にある「杉並区立阿佐谷けやき公園・屋上部」だ。
ここの一番の魅力は、360度に空が広がる解放感。周囲に高い建物がなく、町一帯を見渡すことができる。すぐ脇を走るJR中央線の列車を上から眺めるのも楽しい。
「晴れた日には、東の方角に東京スカイツリーが見えることもあるんだって!」
「阿佐ケ谷駅まで戻って、阿佐谷パールセンターを歩いてみよう」
例年8月に開催される阿佐谷七夕まつりは、2026(令和8)年に第70回を迎える阿佐谷の風物詩。『ひらやすみ』にも出てくるとおり、阿佐谷七夕まつりでは、阿佐谷パールセンターのアーケードに手作りのハリボテ、くす玉、吹き流しがつり下がる。華やかで活気あふれるアーケードを浴衣姿のなつみちゃんと、なつみちゃんの親友・あかりちゃんが歩く背景に見えるのが、「とらや椿山」だ。
同店は、1925(大正14)年創業の老舗和菓子店。おいしさを追求するために全ての工程で手作りにこだわっている。
なみすけがお土産選びに迷っていると、店長の坂井さんが「名物の”大栗まん”はもちろん、どら焼きも人気ですよ」と教えてくれた。阿佐谷七夕まつりやすぎなみフェスタなどのイベントでは、なみすけの焼き印入りの「どらやき」も販売されている。
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「楽しかったなあ。ヒロトやなっちゃんが、その辺から出てくるんじゃないかと思えたよ」
『ひらやすみ』は、読者を温かい気持ちにしてくれる作品だ。ヒロトをはじめどの登場人物にも欠点や弱さがあるのだが、同時に根っこには優しさや誠実さ、強さを持っており、それが日常のふとした場面で浮かび上がる。人物やストーリーの描き方に加え、実在の場所が背景となっていることで、登場人物の存在がよりリアルさを増しているようだ。
2025(令和7)年11月にはNHKでドラマ化もされ、ますます盛り上がる『ひらやすみ』。作中にはなみすけらしいキャラクターもときどき登場する。
「ドラマのオファーは来るかどうかわからないけど、漫画の中のぼく、探してみてね!」
『ひらやすみ』第1巻~第9巻 真造圭伍(小学館)
「中杉通りケヤキ並木 News Letter No.1」(発行者:中杉通りケヤキ並木連絡会)
https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kensetsu/000008885
なみじゃない、杉並!中央線あるあるPROJECT
https://www.chuosen-rr.com/event/asagaya-tanabatamatsuri/