有限会社サイクロングラフィックスは、テレビや劇場用アニメの演出・企画・制作の会社。2002(平成14)年に久我山に設立し、その後高井戸へ移転、現在は西荻窪に2拠点を構える。演出家・VFXスーパーバイザーである代表取締役の加藤道哉さんに話を伺った。
映像の演出・企画・設計、CG制作など、制作全般ができることが強みです。大手スタジオと共同して長編作品に参加しながら、オリジナルのショートアニメ制作も大事にしています。
私はスタッフとの関係性を「社長と労働者」ではなく「バンドのメンバー同士」として捉えています。自分も含めて、一人一人がクリエーターです。各々が良い仕事をすることで、自ずと会社の利益も伸びていくと考えています。作品によってはフリーのスタッフが入れ替わることもありますが、長年同じチームでやっているので、成功例や失敗例が蓄積されます。それらを基に、さらに改良しながら成長していくことが可能です。
「モノづくりを自由に追求するクリエイティブスタジオ」として、豊富な経験と新しい技術を積み重ね、さまざまな映像を制作してきました。2019(令和元)年に、アニメ「ノー・ガンズ・ライフ」の美術背景をゲームエンジンの「アンリアルエンジン」(※1)を使って制作したのですが、国内外から「ゲームエンジンがアニメにそのまま使えるなんて!」と反響がありました。そのためにワークフロー(業務の流れ)をすべて変えることになりましたが、「アンリアルエンジン」の機能を活用することで制作時間の短縮につながりました。今後もひらめきを大事に、多彩なアプローチで、映像表現のより深みを目指し続けたいと思っています。
今後は、アニメ「大須のぶーちゃん」「オバケのどくろう」の続編を制作したいですね。
「大須のぶーちゃん」は、みそかつ屋「矢場とん」(本店:名古屋市中区大須)が舞台。大須は私の出身地で、非常に懐が深い街。地元への恩返しの気持ちを込めて制作しました。また、1970~1980年代ごろに放映されていた人情アニメ・人情ギャグアニメを今の子供たちに見せたいという思いもあります。
「オバケのどくろう」は西荻窪が舞台で、東日本大震災をきっかけに制作したアニメです。主人公のどくろうは「もう疲れたよ」「もうやめようよ」とネガティブな発言をするのに、結局がんばってしまう。「ネガティブになっても良い。でもがんばっていると前向きになれるよね」というメッセージを込めています。続編では、アニメを通じて西荻窪を紹介できるような工夫も取り入れたいです。
制作面では、アニメのデジタル化が進み、戦後から続いてきたワークフローがなくなりつつあるので、今の時代でも使えるようなシステムに改良し、若い世代に継承していきたい。オープンソース(※2)を用いてアニメの制作工程を管理し、各々がやっていることがすべて見える仕組みにすることにより、長い修業期間や複合的な技術の習得にかかる時間を短縮することができます。さらに、自社でやっている仕事を共同で制作している会社などにも見せ、お互いの技術をブラシュアップしていきながら、アニメ業界全体のベースアップも図っていきたいですね。
私たちの映像が、少しでも皆さまの心の糧になるように、これからも挑戦し続けるスタジオでありたいと考えています。また、制作した作品が誰かの胸に深く刺さったり、救いになったり、そのことがきっかけで映像関係の仕事に就いたり、何かしらの影響を与えられたとしたら、これ以上の喜びはありません。子供たちの前ではちょっと見栄を張りながら、これからも良い作品を作っていきたいと思います。
杉並アニメーションミュージアムには、アニメ動画制作を体験できるコーナーがあるので、ぜひ足を運んでみてください。
▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 歴史>アニメのまちができるまで>1.杉並アニメーションミュージアムの誕生
※1 アンリアルエンジン:Unreal Engine。米国企業が開発した3D制作ツール。主にゲーム開発に利用されている
※2 オープンソース:ソフトウェアを構成しているプログラム「ソースコード」を、無償で一般公開すること