5.「機動戦士ガンダム」から「この世界の片隅に」まで

サンライズ誕生

1972(昭和47)年、阿佐谷で東京ムービー(4ページ参照)が活躍を始めた頃、上井草に新たにアニメ制作会社が誕生した。旧虫プロダクション(2ページ・コラム3参照)のスタッフが設立したサンライズスタジオ(現サンライズ)である。
同年12月、東映動画(2ページ・コラム2参照)が制作した「マジンガーZ」が大ヒットし、巨大ロボットアニメがブームとなっていた。サンライズスタジオでも、1975(昭和50)年制作の「勇者ライディーン」以降、巨大ロボットアニメを多く手掛けており、1979(昭和54)年に「機動戦士ガンダム」を発表。日本のアニメ界に新たな歴史を刻む大ヒット作品となった。

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アニメ専門誌『アニメージュ』の創刊

1970年代半ばから80年代にかけ、「機動戦士ガンダム」のほか、「宇宙戦艦ヤマト」「銀河鉄道999」など青年層が熱狂するアニメ作品が登場。同時期、アニメ専門誌も相次いで創刊された。1978(昭和53)年創刊の『アニメージュ』もその一つだ。この頃、まだビデオデッキが高額だったため、多くの視聴者はテレビアニメをリアルタイムで見ることしかできなかった。テレビ局側も放映する作品を告知するメディアが必要であり、『アニメージュ』はファンと作品をつなぐ橋渡し的存在となった。
同誌編集長の川井久恵さんは、当時の「ガンダム」ブームについて次のように語る。
「それまでのロボットアニメは勧善懲悪のストーリーでしたが、“ガンダム”は敵が必ずしも悪者ではない、複雑な人間ドラマを描いた作品だったことなどから、青年層までファンを広げたのだと思います。男性向きの作品でしたが、女性ファンがついていたのも、人気の底上げにつながったようです。男女どちらにも受けないと大ヒットにはなりません。“ガンダム”は、今もストーリーが脈々と受け継がれ、世代を問わず人気の作品です。また、ファンの熱気を背景に劇場版3部作が作られ、“アニメブーム”を巻き起こした作品でもあります。ガンプラ(※1)のブームや、作品のサントラもかなり売れたと聞きます。現在まで続くアニメ周辺ビジネスの基礎を構築した作品ですね」

※1 ガンプラ:「機動戦士ガンダム」シリーズに登場するロボットのプラモデル

編集長の川井久恵さん

編集長の川井久恵さん

増版されるほど人気となった『アニメージュ』1980年3月号

増版されるほど人気となった『アニメージュ』1980年3月号

アニメタウン上井草

2017(平成29)年、サンライズは設立から45周年を迎えた。”ガンダム”は今も続く人気シリーズとなっている。
上井草では、「ガンダム誕生の地」であることやアニメ関連会社が集積していることから、地元商店街を中心に街をあげてアニメを盛り上げている。西武新宿線の上井草駅では電車の発車時に「機動戦士ガンダム」のテーマソング「翔べ!ガンダム」が流れ、駅南口ではガンダム・モニュメント「大地から」が出迎えてくれる。商店街には、シャッターにガンダム作品のキャラクターを描いた店や、サンライズ制作のアニメ「ケロロ軍曹」のパウンドケーキを販売する「レストランAOYAGI」もあり、全国から訪れるファンを喜ばせ、街の活性化にもつながっている。

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「レストランAOYAGI」で販売中の「ケロロ軍曹」のパウンドケーキ

「レストランAOYAGI」で販売中の「ケロロ軍曹」のパウンドケーキ

杉並から新たな名作の誕生

2006(平成18)年、区では世界有数のアニメ産業集積地としての魅力を発信するため、「すぎなみのアニメキャラクター」を公募。今ではおなじみとなった「なみすけ」誕生もアニメに由来したものであることは知らない人も多いのではないだろうか。
アニメ黄金期から40数年、日本のアニメ界を支え、歴史に残る作品を生んできた杉並。2016(平成28)年には、新たな名作が完成した。株式会社MAPPA(※2)制作の映画「この世界の片隅に」だ。第2次世界大戦中の広島県呉市を舞台に、主人公すずの日々の生活を描いた本作は、クラウドファンディング(※3)で制作資金の一部を集めたことでも話題となり、公開前から多くの支援者を得ることとなった。公開から10カ月以上経った現在(2017年8月)もロングラン上映を続け、観客動員数200万人を突破する大ヒット作品となった。

※2 株式会社MAPPA:2011(平成23)年にマッドハウスを退職した丸山正雄さん(2ページ・コラム4参照)が設立したアニメ制作会社。現在は、設立メンバーである大塚学さんが社長、丸山さんは会長を務める。

※3 クラウドファンディング:群衆(Crowd)と 資金調達(Funding)を合わせた造語。個人や組織がインターネットを通じて不特定多数の人から資金を集める仕組み

区公式アニメキャラクター「なみすけ」

区公式アニメキャラクター「なみすけ」

この先の100年も

2017(平成29)年7月、開館から13年目の杉並アニメーションミュージアムは、家族連れや海外からの観光客も多く訪れて、にぎわっていた。アニメシアターでは「ちびっこあつまれ!長編アニメ特別上映」として、手塚治虫原作・監修『ユニコ』を上映。1981(昭和56)年に公開された作品だが、今も古びることなく、小さな子供から大人まで楽しんで鑑賞していた。このような貴重な作品を楽しめるのも同ミュージアムならではである。エンドロールには制作協力のマッドハウスほか、小林プロダクションマジックバスの名前もあり、本作の制作も杉並が携わっていたものであった。

さて、ここまで駆け足で、2017(平成29)年までの杉並のアニメの歴史を見てきた。東京・浅草で日本人による初のアニメ作品が発表されてから100年。この先の100年も、杉並からどんな作品が誕生し、私たちを楽しませてくれるのか期待している。

「ちびっこあつまれ!長編アニメ特別上映」の様子

「ちびっこあつまれ!長編アニメ特別上映」の様子

杉並アニメーションミュージアム来館記念スタンプ

杉並アニメーションミュージアム来館記念スタンプ

DATA

  • 出典・参考文献:

    「杉並アニメ物語」大地丙太郎監修(広報すぎなみ)
    『日本のアニメ全史』山口康男編著(TEN-BOOKS)
    『日本アニメーションの力 85年の歴史を貫く2つの軸』津堅信之(NTT出版)
    『アニメーション学入門』津堅信之(平凡社新書)
    『すぎなみアニメさんぽ anipo』
    協力:徳間書店『アニメージュ』編集部、杉並アニメーションミュージアム

  • 取材:坂田、みやうちえいこ
  • 撮影:坂田、写影堂、TFF
  • 掲載日:2017年11月06日