農への関心を高める学び

震災以降たかまった農への関心

ここ数年、とくに震災以降は安心、安全なものを消費者自ら見極めたい、と考える傾向もあり農作物、また農業自体への関心は確実に高まってきている。 
また折からの不況、自然環境への憧れなど色々な理由から思い切って就農する人、田舎暮らしで自給自足の生活をする人、週末ファーマー等さまざまなスタイルで農に触れる人も増えている。
では農の基礎はどのように学ぶのだろうか。もちろん実践に勝るものはないが総合的に学べる教育機関の存在はこれから重要となる。杉並区にある都立農芸高校でお話をうかがった。

都立農芸高校 100年を越える歴史と伝統ある学びの場

西武新宿線上井草駅から徒歩10分、上井草スポーツセンターの近く平坦な建物が続く住宅地のなかに都立農芸高校はある。
創立は明治33年(1900年)、都内初の農業高校である。開校当時はまだ杉並区は誕生しておらず中野町村外13ヶ村補習学校という名目であった。
現在は園芸科学科、食品科学科、緑地環境科が設置され1学年あたり140名の生徒が学んでいる。平成24年、秋の体験入学にお邪魔し校長先生、副校長先生に話をうかがった。

「当校は<生きる力>、<将来のスペシャリスト>、<主体的な進路選択能力>この3つを教育方針としています。農業は21世紀の成長産業、関係する資格取得にも十分な支援をしており、更なる学びへのスムーズな移行、また関係業界に就職しても意義のある人材となれるよう教育をしています。」大学進学率は4年制・短期大学をあわせ24.1%(平成23年)と高い。各科在学中に取得可能な資格も科によって3種から8種もあり、学びながら職業人として第一歩も同時に踏み出すのだ。
生徒自身が進路を見出しやすいよう「実習を重視した学習、誰もが当事者となれる少人数編成の活動を基本にしている」そうだ。「実習が多い専門教科では2年生、3年生になれば準備や衛生管理など自主的に立ち働くことができるようになり、経験の積み重ねが生徒たちを大きく大人として成長させているようです。」

卒業後の課題

農業高校だが、学習の2/3は普通教科であり、部活動や地域貢献活動も充実している。
「都立高校唯一の馬術部は大会でも好成績を残しています、2頭の馬との生活は生徒達の心に大きなものを築きます。藁の入れ替え、エサやり、練習と多くの時間を共にすることをこんな都会で体験できるのです。」
また校内外を問わず社会的活動も多数行っている。
「校内の農場で収穫した青果や花を生徒自ら販売したり、地域の方と一緒に花壇の植栽を行ったりと早い段階から社会経験を積んでいます。これらはきっと社会に出てからのコミュニケーションにも役立つでしょう。」

農芸高校を卒業したからといって、農家を新たに起業することは難しい。屋内栽培の企業プラントが話題にもなっているが、東京区部では新たな農地を見つけることすらできないだろう。直接的な農業に関わりたい人は地方の農家を支援したり、教育機関の助手に辿り着くことも多いようだ。
たとえ本格的な就農ができなくても人間にとって究極の職業であり、必要不可欠な第一次産業への関心をもつ若者が増えることには多くの意義がある。
特に「食の安全・安心」は日本だけでなく世界的な課題でもある。
これからの日本の「食」を考えるとき、食品産業の礎である農業の知識と経験を持つ有望な若者達がきっと大いに活躍してくれるだろう。

区立小中学校 食育授業で養う 「農」「地産地消」への関心

現在、杉並区の区立小中学校では学年に合わせ多種多様な食育授業を展開している。地産地消はもちろん各地の農産物の違いがどのように郷土料理に反映されるのかなどご当地メニューの学習なども行っている。
またこれらの授業には区内の農家がゲストティーチャーとして招かれて指導にあたることも多い。区内北部で農家を営む森田さんは実際に畑で収穫した自慢のトマトを持参しては、スーパーで販売されているものとどう違うか、地産地消のメリットをわかりやすく説明してくれる。 
・品物の移動距離が短いので排気ガスの排出も少なくエコである
・収穫時間から出荷までの時間が短いので新鮮である
・生産者と直接会うこともできるので「顔が見える」安心感がある

都市農家のビジネスは、生産者から消費者直結が多い今では珍しい貴重なビジネススタイルでもある。それだけに重責を背負って教育活動に参加いただく農家も多い。

DATA

  • 取材:小泉ステファニー
  • 掲載日:2012年10月25日