農への関心を高める学び

震災以降、高まった農への関心

震災以降「安心、安全なものを消費者自ら見極めたい」と考える傾向にあり、農作物、また農業自体への関心が高まってきている。また折からの不況や自然環境への憧れなど、さまざまな理由から、思い切って就農する人、田舎暮らしで自給自足の生活をする人、週末ファーマーなどさまざまなスタイルで農に触れる人も増えている。
では、農の基礎はどのように学ぶのだろうか。もちろん実践に勝るものはないが、教育機関の存在はこれから重要となる。杉並区にある都立農芸高校や区立小中学校で話を伺った。

都立農芸高校ー100年を越える歴史と伝統ある学びの場

西武新宿線上井草駅から徒歩約10分、区立上井草スポーツセンターの近くの住宅地に都立農芸高等学校はある。
創立は1900(明治33)年、都内初の農業高校である。開校当時は中野町外13ケ村組合立農業補習学校という名称であった。現在は園芸科学科、食品科学科、緑地環境科が設置され、約400名の生徒が学んでいる。篠原副校長は「“生きる力” “将来のスペシャリスト”“自分で進路選択できる力”の育成を教育方針とし、食について教え、農を通して成長できるよう指導しています。日本の食料自給率が低いことを知らない人も少なくない現状において、農業の後継者を育てることで、自給への理解者も増やしていきたい」と話す。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>杉並の高等学校>東京都立農芸高等学校

実習を重視した授業、誰もが当事者となれる少人数編成の活動を基本にしている

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夏野菜として万能なズッキーニ。しっかりした形で色も鮮やか

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食に関わる分野で活躍するために

校地にはビニールハウスや畑があり、野菜や果物だけでなく、園芸植物や盆栽なども育てている。実習服を身にまとい、圃場(※1)や実習室で技術を学ぶ生徒たちの視線は、指導する教師の手元に集中し、真剣そのものだ。
実習生産品は校内の販売所や文化祭、地域イベントなどで販売し、購入者から好評を得ている。2019(平成31)年3月には、農芸高等学校で栽培されたトマトが東京都GAP認証制度(※2)において認証され、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の食材として提供された。自らが生産した品物が消費者の手に渡るまでを体験することで、生徒たちが今後の日本の食に関わるさまざまな分野で活躍してくれることを期待したい。

※1 圃場(ほじょう):農産物を育てる場所
※2 東京都GAP認証制度:東京の農業者が持続可能な農業を目指し、併せて東京2020大会への食材提供を可能にするため、農産物の生産、出荷における食品安全、環境保全、労働安全等の観点から、東京都が定めた管理基準に基づく適正な取り組みを都が認証する制度
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/nourin/shoku/anzen/gap/

圃場の様子。手前の正方形の区画は花壇のデザインを確認する場所

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「テロに遭わないよう事前には公表されませんでしたが、ここで栽培されたトマトがオリンピックに提供されました」と篠原副校長

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区立小中学校ー食育授業で養う「農」「地産地消」への関心

区立小中学校では、学年に合わせ多種多様な食育授業を展開している。地産地消はもちろん、各地の農産物の違いがどのように郷土料理に反映されるのかなど、ご当地メニューの学習なども行っている。
これらの授業には、区内の農家がゲストティーチャーとして招かれて指導にあたることも多い。区内北部で農家を営む森田さんは、実際に畑で収穫した自慢のトマトを持参しては、スーパーで販売されているものとどう違うか、地産地消のメリットをわかりやすく説明してくれる。 

・品物の移動距離が短いので排気ガスの排出も少なくエコである
・収穫時間から出荷までの時間が短いので新鮮である
・生産者と直接会うこともできるので「顔が見える」安心感がある

都市農家のビジネスは、生産者から消費者直結が多い今では珍しい貴重なビジネススタイルでもある。それだけに重責を背負って教育活動に参加いただく農家も多い。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 ゆかりの人々>道を究める>森田信幸さん

DATA

  • 取材:小泉ステファニー、矢野ふじね
  • 撮影:小泉ステファニー、矢野ふじね
  • 掲載日:2012年10月25日
  • 情報更新日:2022年08月08日