4.杉並の子供たちが体験する養蚕

区立小学校の74%が蚕の観察を実施

3年生の理科学習ではモンシロチョウやアゲハチョウの観察が取り上げられているが、杉並区立小学校43校のうち32校では蚕を育てて観察している(2014年度)。使用する蚕の卵は、蚕糸試験場の後継機関である農業生物資源研究所ジーンバンクから研究用に無料で支給されるものだ。杉並のような都市部ではモンシロチョウの卵をタイムリーに採集することは難しいが、その点、蚕の卵ならば安定して配布できる。また、蚕は新鮮な桑の葉を与えておけば逃げないので、児童にとっても育てやすく、モンシロチョウの補助教材として有効だ。
蚕は主に教室で、紙を敷いた箱などに入れて育てられる。最初は虫が苦手な児童たちも、ぐんぐんと大きくなっていく幼虫がパリパリ桑の葉を食べる様子を観察したりしながら身近で育てていくうちに、親近感を覚えるとともに成長の過程を学んでいく。支給された蚕は教育目的以外に使用しないという決まりがあるので成虫にはしない。繭になった段階で冷凍保存され、繭は糸取りや繭玉を使った作品づくりなどに使われる。

蚕の幼虫

蚕の幼虫

敷地内に植えられた桑の木を蚕のエサに利用する小学校もある(写真は浜田山小学校)

敷地内に植えられた桑の木を蚕のエサに利用する小学校もある(写真は浜田山小学校)

小学校での蚕の糸とり授業

区立浜田山小学校では、3年生が1学期の理科で蚕の飼育と観察、2学期の総合的な学習の時間で糸とり体験をしている。
2014年11月26日に行われた糸とりの様子を見学させてもらった。
児童たちは自宅から半分に切った牛乳パックと割り箸を持参。牛乳パックに熱湯を注ぎ、繭を入れる。繭を割り箸でつつくと絹糸が絡むので、それを細長い黒い画用紙に巻きつけていく。はじめは繭のまわりのフワフワした糸がいっぺんに巻き取られるので糸が太くなるが、しばらくすると、どの児童の画用紙にも透明な細い糸が巻かれていった。あちこちから「どんどん出てくるよ」「変な匂いがする」との声があがる。途中で糸が切れたり手が疲れたりしつつも、楽しい体験だったようで家で続きをするため繭を持ち帰る児童もいた。
篠原副校長にこの学習の目的を伺った。「児童たちには、繭から糸が取れること自体が驚きのようです。昔は杉並でも蚕の糸をとって、織物に利用してきました。人間が昔から自然を加工して役立ててきたことを学ぶきっかけになるのではないでしょうか。」今回糸とり体験をした児童のワークシートにも「カイコはとてもたくさんの糸を出してくれている。」という感想が見られ、自然の恵に対して感謝を抱いたようであった。

黒い画用紙に糸を巻き取っていく

黒い画用紙に糸を巻き取っていく

児童が書いたワークシート

児童が書いたワークシート

郷土博物館のまゆだんこ作り

郷土博物館では、毎年「子ども博物館教室」というイベントでまゆだんご作りをしている。昔の農家の風習を現代の子供たちに伝える心和む行事だ。
まゆだんごは、小正月(旧暦1月15日)に米粉を使って作るだんごのことで、豊作を願う気持ちが込められている。もともとは稲の花を表していたと言われるが、杉並の養蚕農家ではだんごを繭の形に似せた楕円形にし、蚕が質の良い繭をたくさん作るように祈っていた。
2015年1月12日、郷土博物館古民家に22名の子供たちが集まってまゆだんご作りが行われた。重い石臼を引いて米を粉にし、湯を加えてみんなでこねる。食紅入りの湯を混ぜた粉はきれいな桃色に染まった。これを丸めてだんご状にするのだが、「昔は畑の作物がよく実るように野菜の形も作った。」という説明を受け、子供たちは思い思いの形作りにもチャレンジ。丸いだんごだけでなく、大根やきゅうりなどの野菜や、ドーナツ、寿司といったユニークな形もできた。せいろに入れてかまどの火にかけ、蒸しあがっただんごを大きなカシの木の枝に飾っていく。紅白のかわいらしいだんごに彩られた枝は、花が咲いたようにきれいになった。子供たちもその姿を見て、「まゆだんごがどんなものかわかった。」「形作りが楽しかった。」と嬉しそうであった。
昔の農家では、飾り終わっただんごをあずき粥に入れたりお汁粉にしたりして家族で食べたと言う。この年の郷土博物館のまゆだんごは18日まで古民家に飾られ、訪れる人々の目を楽しませていた。

区内の子供たちと保護者が参加

区内の子供たちと保護者が参加

丁寧に丸められた紅白のまゆだんご

丁寧に丸められた紅白のまゆだんご

石臼に立てたカシの枝に飾る。木は枝が細かくわかれた物が選ばれ、モミジやエゴノキなども使用されるとのこと

石臼に立てたカシの枝に飾る。木は枝が細かくわかれた物が選ばれ、モミジやエゴノキなども使用されるとのこと

DATA

  • 取材:西永福丸
  • 撮影:西永福丸
  • 掲載日:2015年01月26日