街の磨き方・生かし方

杉並は、街ごとに個性的な魅力を秘めている

(中島)私は関西出身で、初めて住んだ東京の街が杉並です。東京というと、都会で、人間関係が希薄で殺伐としていて...というイメージでしたが、杉並の街は、むしろ地方的というか。良い意味でローカルな印象を持ちました。

(松原)杉並区は都会なのに緑が多くて、大きな屋敷林を持つ家がたくさん残ってますよね。以前、「後世にのこしたい杉並の屋敷林」(※5)の選考委員を務めたとき、阿佐谷、高円寺、西荻窪と、自転車に乗って屋敷林巡りをしたのですが、お屋敷の森から森へと鳥が渡っているのがわかるんですよ。それから阿佐ケ谷駅の近くには、私がひそかに「阿佐谷のバルセロナ」って呼んでいる、まるでピカソ美術館のような近代建築の邸宅があるんですが、そこの屋敷林の静寂の中から降り注いでくる鳥のさえずりやセミの声がすごくすてきで。そんな昔からの屋敷林と、個性的な飲み屋さんとかサブカルチャーのような街文化が隣り合わせで共存している地域は、都内でもなかなかありませんね。


桃園川とその支流が暗渠となり、格好の散歩道として阿佐谷北を巡っている

(中島)先ほど松原先生に桃園川(ももぞのがわ)の暗渠(あんきょ)などを案内していただいて、何げない街の風景がすごく価値のあるものに見えてくるという面白い経験をしました。街の個性として何を評価し、どう残していくべきかというのは、街づくりの大きな課題ですね。

(松原)その点、杉並区は、かなり斬新な取り組みをしていると思いますよ。暗渠イベント(※6)もかなりマニアックですが、座・高円寺に暗渠の専門家を招いて開催されました。それで私はカフェでもその続編をやったところ、お客さんがたくさん来て、そのあと細田工務店でも区が主催のイベントが行われました。「一人飲み屋さん祭り」も一例ですが、杉並区は、民間で自然発生的に起こった動きを、区がうまくサポートして街を盛り上げている事例が多いと思います。私は入りにくい店に行くという趣味があるのですが、「ぱすてる屋」もそうですけど、阿佐谷には良い意味で個性的な飲み屋さんが多い。特に北口のスターロード商店街には、昔から強烈なコンセプトを持った店主が営業する、入りづらいけれど味のある店が点在していて、独特な雰囲気があります。そういう店も少なくなってきましたけれども。


阿佐谷南の隠れ家的な店「ぱすてる屋」。松原さんが通っていた店で、地域を知る人たちのたまり場でもある

(中島)阿佐谷でも南側のパールセンター商店街の方は、刀剣屋、民芸小物の店や乾物屋さん、呉服屋さんなどがあり、自然に和のテイストを作り出していますね。

(松原)高円寺は、裏道にある古着屋さんを見ても個性的な小さな店がうまく共存していて、ゴチャゴチャした中に秩序というかルールを感じますよね。

※5 「後世にのこしたい杉並の屋敷林」:区内の貴重な屋敷林保護のため、2012(平成24)年に実施した「杉並区みどりの顕彰」のテーマ。応募のあった延べ82カ所の屋敷林の中から、外部選考委員による選考会を経て20カ所が表彰された

※6 暗渠イベント:2015(平成27)年11月、区の主催で暗渠の専門家を招いたイベント「観光まちづくりシンポジウム すぎなみ道草のススメ~下も向いて歩こう~」を開催。好評を受け、2016(平成28)年3月、第2弾「すぎなみ『道草のススメ』 桃園川と飲み屋街散歩」が細田工務店を会場に開催され、松原さんはイベントの出演者として発言した