
看板メニューは、肉のうまみあふれる「最上川ポークのキーマカレープレート」
松井店長にとって、荻窪は生まれ育った場所だ。決して駅近とはいえないこの地に店を構えたのは、「最後は地元に貢献したい」という思いからだという。「飲食店やスーパー、コンビニが少ない地域に暮らす人たちと、丁寧に向き合いたかった」とほほ笑む。
かつては大手飲食店チェーンでメニュー開発やマーケティングに携わり、現場経験を重ねた。多くの食材に出合う中で、「脂身がしつこくなく甘すぎず、赤身にもコクがある山形県のブランド豚"最上川ポーク”が一番」とほれ込み、挽き肉料理専門店を開くことを決意。「外食で不足しがちな野菜もたっぷり食べられる店」をコンセプトに、2022(令和4)年にオープンした。
「最上川ポークの肉のうまみを存分に楽しんでほしい」。この一心で、ガパオライスやハンバーグ(近隣への弁当販売や店舗の日替わりメニュー)など、多彩な挽き肉料理を提供している。中でも、昼夜を問わず人気を集める看板メニューが「最上川ポークのキーマカレープレート」だ。「挽き肉の香りを邪魔せず、昇華させる」ことを追求し、試行錯誤の末に9種類のスパイスを厳選。肉の弾力がほどよく、噛むほどにうまみが口いっぱいにあふれ出る。皿には新鮮な旬の野菜が山盛り添えられ、成人1日あたりの野菜の推奨摂取量の半分以上を摂取できるので、杉並区のヘルシーメニュー「野菜たっぷり」にも登録されている。
特筆すべきはライスのうまさだ。近所の老舗「森田屋米店」(大正15年創業)から精米したての米をこまめに仕入れ、香り高くふっくら炊き上げている。野菜ソムリエの資格を持つ松井店長は、「野菜もお肉もたっぷり食べて、幸せになってほしい」と笑顔で目を輝かせる。
店内を彩る緑の植栽や、カウンターに並ぶ手書きメニューは、店長の奥様によるもの。夫婦それぞれの役割が、店の居心地のよさを生み出している。「お客様とはよくお話ししていますね」と語る松井店長の気さくな人柄は、常連はもちろん初訪問客にとっても心安らぐ魅力の一つだろう。
売り切れ必至な夜のヒットメニュー「最上川ポークの洋風角煮」は、バルサミコ酢や赤ワイン、八丁味噌などで何時間も煮込み、ほろほろに仕上げた一品。子どもにも人気だという。
にぎやかな家族連れの隣では老夫婦が静かにワインを傾け、仕事帰りの会社員がふらりと立ち寄る。時には進路に悩む青年の相談に乗ったり、客の発案で貸し切りイベントが開かれたりすることもあるという。
地域とのつながりを大切にし、老若男女が気兼ねなくくつろげる、わずか9席の温かな空間。松井店長の「最後は地域に貢献したい」という思いは、今日もこの場所で息づいているのかもしれない。