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シライケイタさん

地域に根差した公共劇場のこれからを見つめる

地域に根差した公共劇場のこれからを見つめる

座・高円寺のセカンドステージ

座・高円寺(杉並区立杉並芸術会館)は、2009(平成21)年5月に開館した。2023(令和5)年7月に2代目芸術監督に就任したシライケイタさんは、演出家・劇作家・俳優でもある。「世の中のあるべき姿を劇場がまず実現していく」と語るシライさんに、座・高円寺での活動の手ごたえとこれからについて伺った。

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座・高円寺芸術監督シライケイタさん

座・高円寺芸術監督シライケイタさん

座・高円寺は杉並区民の誇れる場所

俳優として同業者との付き合いの中では、自分の表現追求に対するウエートが大きくなって、一生活者、一市民としての視点を忘れがちでした。
芸術監督として杉並に来てから、どうすれば演劇が区民に届き、素晴らしいと思ってもらえるのか、と改めて考え始めました。特にこの高円寺という、文化が雑多に入り混じった街に演劇を置いて、周りから演劇を見つめ直すことができたのは大切な体験となりました。
毎年、区立小学校の4年生全員が座・高円寺で演劇を見るということも就任して初めて知りました。教科書の学習では得られない考え方や感性、世の中に対する理解を深める力が文化芸術にはあります。2024(令和6)年の「夏の夜の夢」のキャスト募集に、4年生の時に座・高円寺で作品を見たという人が応募してきました。子供の時にまかれた種が、十数年後に芽を出そうとしている。この素晴らしい取り組みはぜひ続けていきたいですね。

劇場のシンボルマークも一新。座・高円寺のセカンドステージが始まった

劇場のシンボルマークも一新。座・高円寺のセカンドステージが始まった

谷川俊太郎さんの詩がきっかけで演劇人に

小学6年生の時、谷川俊太郎さんの「生きる」という詩を読み、「どうしてこういうことが書けるのですか? 俊太郎さんの心の目は僕よりも大きいのですか?」という質問形式の詩を書きました。この詩を担任の先生が俊太郎さんに送ったところ、「けいたくんへ」という詩で返事が届いたんです。
その中の「人にはできることとできないことがあります。僕はたまたま詩を書くように生まれついたのです。」という一節が心に刺さりました。では私は何をするために生まれついたのだろうと考え、そのころ興味があった演劇の世界を初めて意識するきっかけになりました。
19歳の頃、俊太郎さんと賢作さん親子のライブを観にいった際に「このお返事の詩をいただいて、今、俳優を目指して演劇学校に通っています」と話したら、俊太郎さんは「これはね、確かに僕の字で僕が書いた詩です。ただごめん、覚えてないな。そうか責任重大だね。君、これで俳優を目指したの」と言われました。

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演出家・劇作家へつながった劇団 温泉ドラゴン

俳優というのは基本的には待つ仕事。もちろんいただいた役はありがたいのですが、自分で何かを動かし何かを生み出したい、作り出したいと考えていた頃に、劇団 温泉ドラゴンに出会い、脚本を書かせてもらうことになったんです。
旗揚げ公演で「ESCAPE」を書き、第2回公演からは劇作家兼演出家となりましたが、すぐに次に何を書くべきかという壁にぶつかりました。
旗揚げから3年後の2013(平成25)年に「日韓演劇週間」に参加し、韓国との結びつきができていました。それで2015(平成27)年に新作を求められた際は、日本と韓国の国を超えた大恋愛とか友情とかの物語を書こうとしましたが、どうしても歴史問題に突き当たる。この課題に向き合うことが、演劇を通して求める私の中の社会的なテーマとなりました。
この出会いが自分にも社会性を与えてくれたし、今のこの公共劇場である座・高円寺の仕事にも自然に結びついています。

▼関連情報
劇団 温泉ドラゴン(外部リンク)

旗揚げ公演チラシ(写真提供:劇団 温泉ドラゴン)

旗揚げ公演チラシ(写真提供:劇団 温泉ドラゴン)

「世の中のあるべき姿を劇場がまず実現していく」

「戦争のない世の中」「誰も取りこぼされない社会」にしたい。なくならない戦争の対極にある「対話」を追求していくことが暴力のない世の中につながる。これが演劇そのものの本能だと考えています。演劇は対話の芸術。どこまでも言葉を尽くして伝えようとしていく芸術です。公共劇場としての座・高円寺は、演劇の本能を追求する人たちの活動のためにも、その場所を作るという役割があります。
座・高円寺には主催公演のほかに提携公演(※1)があります。これまでも提携公演は公募により募集してきましたが、今後はさらに多くのカンパニー(※2)に応募いただけるよう、より広く門戸を開いて実施し、アクセシビリティの対応を行う公演、障がいのある人がスタッフや出演者として参加している公演、主として30歳以下の若い人たちのカンパニー、東京以外の地方を拠点とするカンパニーを特に支援します。

「長生炭鉱」では、日本語・韓国語を織り交ぜ、字幕を映して舞台が進む

「長生炭鉱」では、日本語・韓国語を織り交ぜ、字幕を映して舞台が進む

座・高円寺では、2026(令和8)年度から、全ての主催公演に字幕・手話通訳・字幕タブレットなどろう者、難聴者の方への対応や、視覚障害のある方への音声描写イヤホンの貸し出しをしていく予定です。
「センサリーフレンドリー(※3)公演」と名付けた取り組みも始めました。感覚過敏で音や光の強い刺激や狭いところが苦手な人、体が動いてしまう人、声が出てしまう人には、動いても声を出してもいい。通常より音量を小さくし、暗転時以外は客席通路に明かりをいれて出入りがしやすい回となっています。2026(令和8)年6月に上演した「長生炭鉱-生きたかった」では、全13回公演のうち1回を「センサリーフレンドリー公演」としました。今後は劇場の扉を閉めない、圧迫感がないよう座席の形状を工夫する、静かに休めるカームダウンスペース(※4)を用意することなどにも取り組みたいと考えています。「誰もが垣根なく集まれる場所を」というのが大きな目指す方向です。

光・影・音・響きを確認しながら、息を合わせる演出

光・影・音・響きを確認しながら、息を合わせる演出

三つの場と三つの面を持つ「シライケイタは六面体」

演劇の場としては、大きなホールで大勢の観客に見せる商業演劇、先進的、先鋭的な表現を追求することができる小劇場、座・高円寺のような地域に根差した文化活動のための公共劇場の三つの場があります。そして私は演出家・劇作家・俳優という三つの面(顔)を持ち、商業演劇や小劇場、公共劇場という三つの場を行き来できる。
劇団 温泉ドラゴンでは新たな表現を追求し、公共劇場ではより多くの人に接続できるような社会的意義のある作品を作る。一方で商業演劇も手掛けるので、この三つ全ての場を緩やかに自分の意志で行き来して、それぞれの場所に還元し影響を与えたい。「三つの場と三つの面が重なって、全部で六面体の存在っていうのは、あまりないのでは…」芸術監督に就任する際のプレゼンでもこう話したことを思い出します。

座・高円寺が、次の世代に何を残せるか、熱く語るシライさん

座・高円寺が、次の世代に何を残せるか、熱く語るシライさん

区民のための劇場と空間、「座・高円寺」のこれから

演劇作品を作る時、アーティスト同士や制作者は、どうしても自分の表現を目指しがちですが、指定管理者(※5)も芸術監督も、この場所を任されて一時期預かって運営しているにすぎません。区民のための「座・高円寺」という空間と公演があるから、前進し広がっていくのだと考えます。次の世代にどういう財産を残せるか、どういう考え方を残せるかを前提に劇場の未来を作っていこうと改めて強く感じています。
座・高円寺は建物竣工前の準備期間を含め約20年が経過し、私が2023(令和5)年に2代目芸術監督に就任して、2026(令和8)年には劇場の指定管理者が代わりました。これまでは過渡期に立ち会っているという感覚でしたが、これからは何十年後の先を見据え、この劇場をどうしていくか、腰を据えて取り組める環境が整ったと感じています。

▼関連情報
杉並区HP>情報紙コミュかる・てくてく(外部リンク)

公演情報は、公式HPのほか文化・芸術情報紙「コミュかる」などで確認できる

公演情報は、公式HPのほか文化・芸術情報紙「コミュかる」などで確認できる

取材を終えて

忙しい時間の中、公演の休演日に監督室でお話を伺った。
静かな語り口で、言葉を噛みしめながら話をしてくださったシライケイタさん。
「座・高円寺も、自らの演劇の世界も、まだまだこれからがある」と前を見据えるまなざしには、熱い思いが感じられた。
人を育む杉並の空気に包まれて、劇場という空間・場を作る中から、社会のありかた、平和への思いを追求するシライケイタさんが、これからの座・高円寺を変えてゆく姿を見続けたい。

シライケイタ プロフィール

1974(昭和49)年生まれ。演出家・劇作家・俳優。
蜷川幸雄演出「ロミオとジュリエット」のパリス役で俳優デビュー。その後、野田秀樹 、木村光一、鐘下辰男など、数々の演出家の舞台に出演。
2010(平成22)年、劇団 温泉ドラゴン旗揚げ公演に、自らの初戯曲となる「ESCAPE」を提供。以降、同劇団内外で数々の脚本・演出を手掛ける。日本演出者協会理事長、日韓演劇交流センター会長。
2023(令和5)年7月より座・高円寺芸術監督就任。
2024(令和6)年「夏の夜の夢」演出・作詞。日本手話を演出に取り入れた。

※1 提携公演:劇場側が公演する劇団を募集するもの。これに対し劇場が主催する作品を主催公演という
※2 カンパニー:舞台・演劇の分野においては、劇団や演劇集団、または演者・スタッフを包括する組織体を指す
※3 センサリーフレンドリー:感覚への刺激を少なくする取り組み
※4 カームダウンスペース:壁や間仕切りで囲まれた静かな空間。外部からの刺激を遮断し、利用者が心を落ち着けられる
※5 指定管理者:杉並区の公共施設の多くで指定管理者制度を導入しており、施設の管理運営を民間事業者や団体に委託している。座・高円寺の指定管理者は2026(令和8)年度より合同会社syuz'gen(シュツゲン)が担う

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