
多彩なアプローチで音楽の楽しさを伝えてくれる谷川賢作さん(写真提供:谷川賢作さん)
谷川賢作(たにかわ けんさく)さんは、生まれも育ちも杉並区の音楽家だ。作曲家、ジャズピアニストとして活躍し、数々の映画やテレビ作品の音楽も手掛けている。また、現代詩を歌うバンド「DiVa」(※1)、ハーモニカ奏者・続木力さんとのユニット「パリャーソ」、父で詩人の谷川俊太郎さんとのコラボレーションなど、さまざまな活動を行ってきた。コンサートの楽しさに定評があり、杉並の音楽イベント「阿佐谷ジャズストリート」の常連でもある。
各地の公演で多忙な日々を送る賢作さんに、日本科学未来館でのイベント(※2)出演時に話を伺った。
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賢作さんは1960(昭和35)年生まれ。ピアノは杉並区立杉並第二小学校の1年生の時、母に「向いているからやってみなさいよ」と勧められたことがきっかけで始めた。中学生の時は母に反発してクラシックから遠ざかったが、高校生になって友人とロックバンドを組む時にキーボードを担当。その後、ジャズの世界に飛び込んで、日本を代表するジャズピアニストの佐藤允彦さんに師事した。「最初こそ「暗くて妙な音楽だな」と思いましたが、理論を理解し謎が解けていくと面白くて、どんどんハマっていきましたね」(「広報すぎなみ(令和7年度)10月15日号」)
カラオケがなかった時代、赤坂や銀座のクラブで歌伴奏(※3)として演奏しているうちに、CMの作曲やアレンジなどの仕事を頼まれるようになっていった。
初めての大きな仕事は25歳の時、市川崑(いちかわこん)監督の映画「鹿鳴館」の音楽の作曲だった。「きっかけは、父から監督への紹介です。父は、祖父(哲学者の谷川徹三さん)が詩人の三好達治さんに詩を見せたことが詩人としてのデビューにつながった。祖父が詩人の谷川俊太郎を発見したんですね。私も父にはいろいろと助けられました。祖父から父、父から私。恩義を感じるというか、そういう気持ちが連鎖しているような気がします」
賢作さんはその後、市川崑監督のほとんどの作品で映画音楽を手掛け、1980年代から90年代に日本アカデミー賞優秀音楽賞を3回、1995(平成7)年には第40回アジア太平洋映画祭最優秀音楽賞を受賞している。
2024(令和6)年11月に亡くなった父・俊太郎さん。賢作さんは生前の父と、詩の朗読と音楽のコラボレーションで多くの公演を行ってきた。中でも特筆すべきは、俊太郎さんの作品を中心に現代詩を歌うバンド「DiVa」の存在だ。結成は1995(平成7)年。CDの発表、各地でのコンサートなど精力的に活動する中で、「DiVa」の演奏と俊太郎さんの詩の朗読を融合させたステージも好評を博した。
「“DiVa”だけだったら30人の会場でも、お父さんが来たら300人になるよ、と人に言われて、恥ずかしいなと思ったけれど一緒にやってみたんです。ちょうど父は離婚したばかりで詩を書くのをやめていた頃で。やってみて、歌う言葉と語られる言葉は違うんだな、というのがわかりました。相乗効果があるんですよね。朗読と歌でつづるコンサートは、今でも他にあまりないんじゃないかな」
俊太郎さんの詩と賢作さんの音楽のコラボレーションはコンサートだけにとどまらない。
2009(平成21)年に俊太郎さんが自ら手掛け、日本科学未来館で上映されたプラネタリウム作品「夜はやさしい」の挿入歌は賢作さんが作曲。2026(令和8)年のリバイバル上映時、サウンドデザインの川崎義博さんとのトークイベントでは、川崎さんの「俊太郎さんに、息子の音楽を入れてと言われたんです」との言葉に、「父は身びいきが激しかったんですよ」と返し、客席を笑わせた。
2025(令和7)年10月にスタートしたBS11の番組「谷川俊太郎を歌う」では、合唱団の少年たちが歌う詩の作曲とピアノ演奏を賢作さんが担当している。
杉並区に関するものでは、杉並区立天沼小学校の校歌の作詞・作曲を親子で制作。また、2025(令和7)年からのスギナミ・ウェブ・ミュージアムの企画展「谷川俊太郎 しらないのに なつかしいどこか」では、自宅を模した二次元空間に賢作さんの音楽が流れるコラボが実現した。
阿佐谷ジャズストリートには長年出演を続けている。「これまでいろいろな形で参加してきました。尺八奏者の土井啓輔さんと何回か演奏し、“親子で楽しむジャズストリート〜Jazz for Kids〜”にも、谷川賢作 「もこもこ」(※4)として出演。“Jazz for Kids”は、家族みんなで聴いてもらえるのもうれしかったですね。ジャズという言葉でジャンルに押し込めなくてもいいと思うんです。「もこもこ」のメンバーはベースがジャズの人たちですが、曲はノンジャンルですし」
2026(令和8)年も出演が決まり、「もこもこ」初のCDも出る予定だ。「演奏するのを楽しみにしています。ジャズストリートはボランティアの方々の手助けがとても貴重で、ありがたいですね」
杉並のお気に入りの場所を伺うと「一番は、やはり東京都立善福寺川緑地です。父の晩年、車椅子に乗った父とよく川沿いを散歩しました。最近は健康のためにも、浜田山くらいまで歩くようにしています。一日7,000歩を目標に。コミュニティバスのすぎ丸も通っている道ですが、わざと乗らないようにしています」と楽しそうに笑う。
「家のお気に入りの場所は、祖父や父が住んでいた家との間にある中庭ですね。庭の木にくる小鳥を、双眼鏡で眺めていた父の姿が目に浮かびます。一番落ち着ける場所は、自宅にあるスタジオかな」
「20代から30代くらいは、映画音楽、CMの作曲の仕事をとにかく多くやりました。演奏者を誰も入れず、パソコンを使って全部一人で音楽を作る、いわゆるデスクトップミュージックですね。新しい機材をどんどん取り入れて、演奏活動はほぼしていない状態でした」と賢作さん。その頃と今とでは、音楽の作り方や向き合い方に違いがあるという。「自然に、そういった形の曲作りから離れてきたんです。50歳を迎えた頃には、機材を全部片づけて、演奏活動を通していろいろな人とコラボしていくようになりました。今は、アコースティック(電気的な装置を使わない楽器自体の音)オンリーでいきたいと思っています」
たくさんの人や楽器とコラボしながら生み出される賢作さんの音楽に、ぜひじかに触れてみてほしい。
インタビュー時、取材用の小さなUSB型ボイスレコーダーに興味を示した賢作さん。そうしたいろいろなものへの好奇心が、多彩な音楽へのアプローチにつながっているように思えた。阿佐谷ジャズストリートでの今後の活躍も楽しみだ。
1960年杉並区生まれ。ジャズピアノを佐藤允彦氏に師事。80年代半ばより作・編曲の仕事を始め、数々の映画およびテレビ作品などの音楽を手掛ける。日本アカデミー賞優秀音楽賞を複数回受賞。演奏家としては、現代詩を歌うバンド「DiVa」、ハーモニカ奏者・続木力とのユニット「パリャーソ」、父である詩人の谷川俊太郎と朗読と音楽のコンサートを全国各地で開催。現在も各地で多様な演奏活動を展開中。阿佐谷ジャズストリートには2021年から4人組ユニット「もこもこ」で出演。
※1 DiVa:谷川賢作(ピアノ)、高瀬麻里子(ボーカル)、大坪寛彦(ベース)によって結成された、現代詩を歌うバンド
※2 2026(令和8)年2月26日に日本科学未来館ドームシアターで行われたイベント「『夜はやさしい』を、見て聴く夜」
https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202602264385.html
※3 歌伴奏:ジャズの歌伴奏は、ボーカリストの歌の旋律に合わせた和音を弾くだけでなく、歌とピアノの相乗効果によって、より表現を深める演奏が求められる
※4 もこもこ:谷川賢作(ピアノ・ボーカル)、寝占友梨絵(ボーカル)、堀江洋賀(ギター)、土谷周平(ベース)によるジャズユニット
「広報すぎなみ(令和7年度)10月15日号」(杉並区総務部広報課)
「コミュかる 令和7年度12月号」(杉並区区民生活部文化・交流課)