
「キューバサンド」はパリッ!とジュワ~の絶妙な食感が癖になる看板メニュー(写真提供:Buena Vista サンドイッチクラブ)
肉を焼いているのだろうか?食欲をくすぐる香りにふらり吸い寄せられると、そこはサンドイッチの店だった。Buena Vista サンドイッチクラブ(ブエナビスタ サンドイッチクラブ)は永福町駅から徒歩約5分、永福町北口商店街沿いにある。
看板メニューは「キューバサンド」。珍しさもさることながら、こんがりきつね色に輝く看板写真があまりにおいしそうなので注文。かぶりつくとパリッと快音、とろけるチーズと肉汁がジュワッと口の中にあふれ、ピクルスの酸味がピリッと引き締める。具材の豚肉は、数種類のスパイスや調味料に漬け込んだ後、3~4時間じっくり煮込んであり、ホロホロとほどけてやわらかい。これにぴったりな飲み物として店から強くすすめられたのは、ロゼワインだった。
「サンドイッチはどんな国にもある。ロゼワインも世界で愛されている。料理を選ばないし、カジュアル、本格的、いずれにも合う」。そう語るのは、遠山店長とアドバイザーのディアスさん(コロンビア出身)。世界中の人が気軽に立ち寄れる空間を夢見て、サンドイッチの店を開くことにした。
数多くのアイデアと試作品から、3種類のサンドイッチをメインに据えた。キューバからの移民がマイアミに持ち込んだもので、今なお人気がある「キューバサンド」。L.A.発祥のディップサンドを元に考案した、ホウレン草入りのホットサンドをポタージュに付けて食べる「ポパイディップサンド」。イスタンブールのソウルフードで、焼いたサバを挟んだスパイシーな「サバサンド」。これら多様な味に応えられるのがロゼワインだといい、ドリンクメニューの大半を占める。そのほか白・赤ワイン、ハイボール、ビール、コーヒーなども用意されている。
店名は、アメリカ人ギタリストのライ・クーダーがキューバ出身の老ミュージシャンと組んだバンド「Buena Vista Social Club」(ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ)にちなんだという。このバンドの音楽を敬愛するディアスさんは、「ソシアル・クラブ」のSCを「サンドイッチ・クラブ」に読み替えて店名にした。1930年頃からキューバのBuenavista(ブエナビスタ)という場所にミュージシャンが集った社交クラブの名前が起源でもあることから、この店も、国境を越えてみんなが居心地の良い空間にしたいとの思いが込められている。
BGMは「気まぐれに好きな音楽を選んでいるだけ」というが、おのずとラテン系の軽快さと陽気さに満ちている。永福町にいながらにして海外旅行気分だ。
遠山店長は2005(平成17)年以来飲食業で活躍しているが、2019(平成31)年のある夜、帰宅途中に傷害事件に巻き込まれ頭部に深い傷を負った。リハビリや就労訓練など懸命な努力を重ねた後、永福町での出店を勧めてくれたのがディアスさん。遠山店長の以前の店の客だったという。まだ障害が残る遠山店長のために小さな店舗を選び、最小限の動きで注文に対応できるよう随所に工夫を施した店づくりに協力。2025(令和7)年4月、開店した。
フレンドリーで温かい雰囲気を醸し出す遠山店長の名刺には「人生を諦めない」と書かれている。障害があってもなくても、困難に遭遇した全ての人に伝えたいという。ディアスさんも感銘を受け、支援を惜しまない。「街の活気を彩る主役は飲食店」と信じ、遠山店長と共に、飲食業で街を元気にしたいと意気込んでいる。