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柴田真光さん

阿佐谷ジャズストリートが終了した翌日、街をきれいにするためスタッフとごみ拾い(写真提供:阿佐谷ジャズストリート実行委員会)

阿佐谷ジャズストリートが終了した翌日、街をきれいにするためスタッフとごみ拾い(写真提供:阿佐谷ジャズストリート実行委員会)

「地域のみんなが主体となるまちづくり」を目指す

グラフィック、ウェブデザインをはじめ、商店街や地域イベントの企画制作などを行うデザイン会社、ネイバーズグッド代表・柴田真光(しばた まさみつ)さん。30代の頃にボランティアに参加したことをきっかけに、現在も地域活動に尽力し、阿佐谷を拠点として「地域のみんなが主体となるまちづくり」を目指している。
阿佐谷ジャズストリート実行委員会事務局長、あさがや能・狂言の会事務局長などを務め、伝統あるイベントを継承しながら、皆で楽しく支え合う新しい地域活動のあり方も模索する柴田さんに話を伺った。

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阿佐谷ジャズストリート30年記念Tシャツ姿の柴田真光さん

阿佐谷ジャズストリート30年記念Tシャツ姿の柴田真光さん

友達を増やしたくて地域ボランティアに参加

柴田さんが地域ボランティアを始めたのは、友達を増やしたいと思ったことがきっかけだった。
2008(平成20)年、25歳の時に音楽プロダクションに入社し、所属アーティストの公式ホームページやグッズデザインなどを制作。小さなライブハウスから全国の各アリーナや東京ドームといったイベントの現場経験にも恵まれ、仕事にやりがいを感じていた。「でも、何のために仕事をしているのか、ちょっと疑問を感じた瞬間があったんです。そこで、同世代の方がどういう働き方をしているのか知りたくて、友達を増やしたいと思いました」と柴田さんは話す。
2014(平成26)年から積極的に杉並のボランティアに参加し、商店街イベントの交通整理などを行った。地域の人たちとの交流も生まれ、そういう仲間が集まれる場所として、阿佐谷に料理教室や勉強会などを行えるシェアハウスを開設した。「今も、例えば食事会をやりたいという要望があれば子供と一緒にワイワイ楽しめる、そんな使い方をしています」

生き方に影響を受けた本『自分の仕事をつくる』。シェアハウスの本棚にあった

生き方に影響を受けた本『自分の仕事をつくる』。シェアハウスの本棚にあった

ネイバーズグッド設立までの道のり

10年間、音楽のデザインの仕事に取り組んだが、スキルをアップデートし続けていかなければならないことに危機感を覚え、2018(平成30)年に退職。オーストラリアに1年間語学留学をした。帰国後も、秋葉原の観光案内所の販売員や、新宿ゴールデン街のバーテンダーなどの仕事を通して、外国人とやりとりすることで英語力を伸ばした。
その間も地域ボランティアは続けていたが、街のことを知れば知るほど、一過性の手伝いではなく恒常的にサポートしていかなければ意味がないと感じるようになる。「お金がないから地域活動ができないという点は打開したかった。そこで、キャリアを生かしてフリーランスのデザイナーになり、地域のことに限らずいろいろな依頼を受けたのですが、それだけでは生活が厳しく日雇いの仕事もやりました」

「生活のため、冷凍食品の仕分けなどの日雇い仕事もやりました」と柴田さん

「生活のため、冷凍食品の仕分けなどの日雇い仕事もやりました」と柴田さん

さらに、シェアハウスで取り組んでいた活動を事業化することも考え、新たに練馬区貫井にコワーキングスペースも立ち上げた。ライターやカメラマンなどのクリエーターが集まって仕事を回していく、地域のハブとなるようなスペースだ(2022年9月閉業)。
同時に、法人としてネイバーズグッド株式会社を設立。名前の由来について、「周りの人(近所=ネイバー)を大切にし、いいね(グッド)を与え合うということ」と、柴田さんは「し合う」という言葉を強調する。とはいうものの、気持ちだけで地域を支えていくことは難しい。「会社設立から2025(令和7)年で5年目になりました。地域活動を仕事化させて僕らの予算をどう作るか、そのための企画をどう投げるかというところが今の課題です」

練馬区に立ち上げた「コワーキングスペース ライブラリー 中村橋」の室内(写真提供:ネイバーズグッド)

練馬区に立ち上げた「コワーキングスペース ライブラリー 中村橋」の室内(写真提供:ネイバーズグッド)

ネイバーズグッドがデザイン、企画・運営をするイベントのチラシや冊子

ネイバーズグッドがデザイン、企画・運営をするイベントのチラシや冊子

阿佐谷七夕まつりで学んだボランティア精神

ボランティアをしていて大変だと感じたときに、柴田さんがいつも思い出すエピソードがある。杉並の夏の風物詩、阿佐谷七夕まつりでごみ収集をした時のことだ。
「当時70代の理事長と知的障害のある仲間と僕、3人でやりました。ごみ収集のために炎天下の商店街を1日に何往復もし、それを5日間繰り返したときに、とてもしんどくて僕は気持ちが折れたんです。“ボランティアってなんだろう”ってすごく思いました。でも、障害のある彼は淡々と頑張っていて、その姿に大きな感銘を受けたんです。“そうだな、見返りを求めちゃだめだな”って気づきました。そこが起点になっている部分です」
柴田さんは今も七夕まつりのごみ収集を続けている。ネイバーズグッドの仕事として60人のボランティアを集め、交代制で取り組めるよう仕組みを整えた。「地域活動きついなって思ってほしくないですよね。ボランティアをやるからには、友達が増えて、楽しかったなで終わるくらいが良いですよね」

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阿佐谷七夕まつりで集まった一日分のごみの一部(写真提供:ネイバーズグッド)

阿佐谷七夕まつりで集まった一日分のごみの一部(写真提供:ネイバーズグッド)

現在は60人のボランティアが交代制でごみを収集するようになった(写真提供:ネイバーズグッド)

現在は60人のボランティアが交代制でごみを収集するようになった(写真提供:ネイバーズグッド)

阿佐谷ジャズストリートの記念誌作り

七夕まつりと同じく、阿佐谷ジャズストリートも阿佐谷の代表的なイベントだ。柴田さんはその公式ホームページのリニューアルを担当したことを機に実行委員になり、2024(令和6)年からは事務局長を務めている。「この年にジャズストリートが30年を迎えたので記念誌を作りました。初期に携わった人たちの言葉を残さなければならないと思ったので」
膨大な資料や写真の整理も大変だったが、一番の問題は製作費だ。そこで寄付を募り、支援者には第1回ジャズストリートの復刻Tシャツを贈る特典などを用意した。「個人だけでなく企業も協力してくださったおかげでまとまったお金ができて、しっかりデザインした記念誌を制作できました。皆さんの思いから資金を得て皆さんが必要だと思うものを作る、そういう一つの形を築けたのではないでしょうか」と柴田さんはほほ笑む。

明るい阿佐谷ジャズストリート実行委員のメンバーと一緒に。中央が柴田さん(写真提供:阿佐谷ジャズストリート実行委員会)

明るい阿佐谷ジャズストリート実行委員のメンバーと一緒に。中央が柴田さん(写真提供:阿佐谷ジャズストリート実行委員会)

多くの支援を受けて完成した「阿佐谷ジャズストリート30周年記念誌」

多くの支援を受けて完成した「阿佐谷ジャズストリート30周年記念誌」

運動会と防災がテーマの新イベントを企画

ネイバーズグッドはデザインだけでなく、商店街・地域イベントの企画制作も行っている。
その一つが、公募で集まった区内在住・在学の30歳以下の世代が中心となって企画・実施する「すぎなみ みんなの大運動会プロジェクト」だ。開催の経緯について「若い子たちの友達作りのきっかけになればと思って。ただ出会うだけでなく、集まったみんなで大きなことを成し遂げることが大事だと思い、誰でも参加できてわかりやすい運動会を企画しました」と柴田さん。2回目の開催となる2024(令和6)年の運動会本番では、地域の老若男女約150名の参加者に楽しんでもらえたそうだ。
また、地域包括支援センターと町会を連携させて「震災に備えてつながるカフェ」という、福祉と防災を交えたイベントも実施。参加者の声を聞き、災害備蓄品を定期的に地域に届ければ見守りが兼ねられるのではないか、という新しいアイデアも生まれたという。

どんな世代の参加者も楽しめる「すぎなみ みんなの大運動会」(写真提供:柴田真光)

どんな世代の参加者も楽しめる「すぎなみ みんなの大運動会」(写真提供:柴田真光)

地域活動を継続していくために

これからも地域活動を続けていくために「“故きを温ねて新しきを知る”ことが大事」と柴田さんは語る。継承していくところは継承しつつ、時代の変化に合わせていくことも必要とのこと。「現場に入ってみるとわかるのですが、華やかな祭りの裏側の見えないところで、誰かに大きな負担がかかってるんですよね。ここにちゃんと目を向けて変えていかないと、次の世代につながらない。まちに欠かせないのは地域のヒーローではなくて、地域を支える裏方。その役目を、できれば職業として成り立たせて、すてきだなと思ってくれる人を増やしていきたい」。今後も、七夕まつりのごみ収集の交代制のように、現代にあった仕組みをデザインしていくことが継続の鍵となりそうだ。
また、「これからは阿佐谷だけではなく、日本全国にネットワークを作って人材や資源などを補完し合いたい」と目を輝かせる。その目標がいつか形になれば、杉並だけでなく日本全国が柴田さんのネイバーになることだろう。

夜間にひっそりと行う商店街の鯉のぼり撤収作業(写真提供:ネイバーズグッド)

夜間にひっそりと行う商店街の鯉のぼり撤収作業(写真提供:ネイバーズグッド)

取材を終えて

「地域の主役をつくるより、地域のみなさんが主役になれるようサポートすることを目指している」と語る柴田さん。今回の取材は、すぎなみ地域大学区民ライター講座の実習だったのだが、インタビュー担当だけでなく、カメラや筆記担当の実習生とも楽しく言葉を交わす姿に、心配りに長けた温かい人柄が感じられた。

柴田真光 プロフィール

1983年7月11日生まれ。
「デザインの力で地域をもっとおもしろく」をモットーに、商店街・地域イベントの企画・制作を手がけるデザイン会社、ネイバーズグッド代表。商店街イベントから能・狂言といった日本伝統芸能、音楽イベントを企画・運営し、まちと人、人と人とをつなぎ、地域での豊かな関係を築く。それぞれが助け合い活躍できる地域社会をつくり、新たな価値の創出を目指す。
阿佐谷ジャズストリート実行委員会事務局長、阿佐谷北一丁目町会第五部部長、地域防災コーディネーター・防災士、練馬区産業振興公社専門相談員、あさがや能・狂言の会事務局長。

活動を発信するウェブマガジン「ネイバーズグッド」を毎月1日に発行(写真提供:ネイバーズグッド)

活動を発信するウェブマガジン「ネイバーズグッド」を毎月1日に発行(写真提供:ネイバーズグッド)

DATA

  • 公式ホームページ(外部リンク):https://neighboursgood.com/
  • 出典・参考文献:

    『自分の仕事をつくる』西村佳哲(ちくま文庫)

  • 取材:横山緋沙子・吉田たま(区民ライター講座)、TFF
  • 撮影:大滝俊則(区民ライター講座)、TFF
    写真提供:ネイバーズグッド、柴田真光、阿佐谷ジャズストリート実行委員会
    取材日2025年06月21日
  • 掲載日:2025年07月21日