綾部庄一さん

綾部庄一さん。西荻みなみの中にて

綾部庄一さん。西荻みなみの中にて

西荻窪のまちを拠点に

綾部庄一(あやべ しょういち)さんは、幅広い年齢層が集まる「まちナカ・コミュニティ 西荻みなみ」(以下、西荻みなみ)の代表であり、立ち上げの原動力になった人だ。西荻みなみは西荻窪駅の南口を出て徒歩約5分、神明通り沿いにある。取材した日は「貯筋体操」の教室が開かれていて、多くの人が和気あいあいと体を動かしていた。

▼関連情報
まちナカ・コミュニティ 西荻みなみ(外部リンク)

西荻みなみの前でほほ笑む綾部庄一さん

西荻みなみの前でほほ笑む綾部庄一さん

地域活動は退職後の民生委員から

西荻窪で生まれた綾部さんは、中学校までを高円寺で過ごし、高校生の時に西荻窪に戻ってきた。「昭和50年頃の杉並で最も大きなイベントは、西荻神明通りのあさ市だった」と話す。あさ市が始まった当時は「都市型の朝市」としてマスコミにも大きく取り上げられ、阿佐谷の七夕まつりや高円寺の阿波おどりよりも「ずっと多くのお客さんが来ていた」のだそうだ。
自動車メーカーに勤めていた綾部さんが退職後に地域に関わるようになったきっかけは、最初は家族に話が来た民生委員だった。家族の勧めで、体力づくりのためにも何かしたほうがよいかなと軽い気持ちで引き受けた。これが、転機になった。

▼関連情報
杉並区>西荻のあさ市(外部リンク)

50代前半の頃。勤務先の取引先協力会で講演(写真提供:綾部庄一さん)

50代前半の頃。勤務先の取引先協力会で講演(写真提供:綾部庄一さん)

春日神社の世話人会を皮切りに

小・中学校時代を高円寺で過ごした綾部さんは、西荻窪では人脈がないところからのスタートだったので、近所にある三ツ矢酒店の店主に「地域のことを知りたい」と相談したところ、春日神社の世話人会を紹介してくれた。祭礼や親睦会を通じて「今までに会ったことのなかった地元の人たちと知り合うことができた」
民生委員として町会に関わるうちに、町会の抱える問題点も見えてきた。中央線の利便性に引かれて若い世代が入ってくる一方、町会に入る人は少ないため、高齢化で町会は担い手不足に陥る。町会が解散してしまうと元には戻らず、衰退が進んでいく様子に、新しい地域の仕組みが必要なのではないかと思うようになった。

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すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>杉並の寺社>春日神社

春日神社はJR中央線西荻窪駅と京王井の頭線富士見ヶ丘駅の間にある神社

春日神社はJR中央線西荻窪駅と京王井の頭線富士見ヶ丘駅の間にある神社

地域区民センターでの活動と「五日市すぎなみ村」

2003(平成15)年には西荻地域区民センター協議会委員になった。地域区民センター協議会とは、地域集会施設を拠点として地域をつなぐ活動をする組織だ。綾部さんは民生委員としての推薦を受けて協議会委員に就任し、他団体の推薦者や一般公募の区民と共に、講演会や「センターまつり」の開催、広報誌の発行などの活動を行った。綾部さんにとってこれは、行政と地域との関わりについて深く考える機会となった。「この時に、自分たちの暮らしに関わる区の仕組みなどがわかってきた」
同じ時期、高校の同窓会での、東京都あきる野市五日市の耕作放棄地を無料で貸すから何かしてくれないかという相談から「五日市すぎなみ村」を始めることになった。畑の土作りから始めた農作業は、近くのお寺を巡るイベントなどにもつながっている。

▼関連情報
西荻地域区民センター協議会(外部リンク)
五日市すぎなみ村(外部リンク)

「五日市すぎなみ村」の畑。最初は4人で立ち上げた活動は大きく広がって今も続いている

「五日市すぎなみ村」の畑。最初は4人で立ち上げた活動は大きく広がって今も続いている

車座委員会の経験を生かす

2011(平成23)年に、すぎなみ大人塾(※1 以下、大人塾)で社会とコミュニケーションについて学んだ。「地域で活躍する人たちと知り合いになれたことが、大きく私の背中を押してくれた」と言う。それが、翌年に地域活性化をテーマに学ぶ社会教育事業推進委員会(通称「車座委員会」)に参加するきっかけになった。「防災やまちおこしをテーマに、講師を呼んで話を聞いたり、議論したりしてね。その時の仲間とは今でも付き合いがあります」
この車座委員会での活動で綾部さんの心に刻まれたのは「地域全体での学び直しが必要」ということだった。「学び直し」とは、学校で学んだことの上に知識を得て地域で実践していくことを指す。地域をもっと良くしようという強い意志を持って仲間を募り、活動を実現していく綾部さんの姿勢が理論に裏打ちされたのがこの時期だ。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>杉並の地域活動>すぎなみ大人塾連

「多くの人と関わり、自分の学びも深まった」と写真を見せてくれた

「多くの人と関わり、自分の学びも深まった」と写真を見せてくれた

きずなサロンから西荻みなみへ

車座委員会で地域の具体的な課題に取り組むことになり、綾部さんが目を留めたのが高齢者の健康だった。以前から温めていた、地域の高齢者がいつまでも元気にいられるように、気軽におしゃべりする場所があればという気持ちが、西荻にきずなサロン(※2)を作ることにつながった。最初は「そんな余力はない」としぶっていた町会や地域の人たちも協力してくれるようになり、仲間を集めて西荻南区民集会所で区内26番目の「きずなサロン西荻南」をスタートした。神明通りのあさ市の日に合わせて開催したこともあって、始めてみると子供連れから高齢者まで毎回50人を超える来訪者があり、楽しみにしてくれる常連もできた。
そのうちに近所の食品スーパー「よねや」が店を畳むことになり、オーナーにその場所を貸してもらえないかと話をしたら「地域のために使ってほしい」と言ってくれたことから、西荻みなみを立ち上げた。きずなサロンも西荻みなみの場所を利用して開かれることになった。

▼関連情報
社会福祉法人 杉並区社会福祉協議会>きずなサロン(外部リンク)

西荻みなみ外観。開いているときは立て看板やパンフレットのラックが出ている

西荻みなみ外観。開いているときは立て看板やパンフレットのラックが出ている

西荻みなみの活動、さらにその先へ

西荻みなみでは、毎週水曜午後の社会福祉協議会の事業「なんでも相談会」をはじめ、自主事業の各種講座や1日カフェ、子供の放課後居場所提供など、曜日や時間によってさまざまな活動が行われている。貸し切りでない時はスタッフが交代で開けているので、誰でもふらっと来ておしゃべりができる。
綾部さんは、大人塾の活動でたくさんの人が地域のために役に立ちたいと願い、人とのつながりを求めていることを知って感動したそうだ。そこで、西荻みなみで活動する傍ら、卒塾生と地域をつなげて大人塾の地域版ができないかと考えた。多くの人の協力を得て、この構想は「西荻学びのカレッジ」として形になり、防災や環境、地域活動をテーマに開催されている。この講座は、東京女子大学の学生などの手も借りて若い世代も交えた学びの場になっている。

「このような活動をするとは妻も思っていなかった」と笑う

「このような活動をするとは妻も思っていなかった」と笑う

あらゆる世代が生き生きと暮らせるまちに

「地元の学びを続けていこう」と綾部さんは地域の人々に呼びかける。学びを通した気付きが地域の活動をするきっかけになる。切り口を変えればそれが学びになる。お金ではないものを大切にして、人や社会の変化を認識しながら、地域の共生力を向上させ、学びを実践していくこと。子供、若者、子育て世代から、働き盛り、中高年、そして高齢者まで、あらゆる世代が生き生きと暮らせるまちになること。ちょっとだけおせっかいで、温かいまちであること。そしてそれには拠点が必要であり、地域区民センターや西荻みなみがその役割を担っていけばよいと綾部さんは考えている。

取材を終えて

綾部さんと話すと元気が出る。やりたいことがたくさんあり、こうあったらいいよねという理想があり、今こんなことをやってるんだ、こんなこともしようと思ってるんだ、一緒にやろうよ、どう思う?と、誰にでもフラットな口調で、心を開いて話してくれる。慕う人が集まって、地域の中で活動が形作られていく。それはやはり綾部さんの魅力なのだと思う。

綾部庄一 プロフィール

1940年、西荻窪生まれ。小中学校時代は高円寺に在住。民生委員、西荻地域区民センター協議会委員などを経て、2018年10月から西荻みなみ代表。趣味はヘラブナ釣り。

※1 すぎなみ大人塾:自分を振り返り、社会とのつながりを見つける大人の放課後をキャッチフレーズとした学びの場。杉並区社会教育センターの事業

※2 きずなサロン:地域の方々が触れ合い、交流する場。みんなで集まり、お茶を飲みながら話をしたり、情報交換をしたり、趣味の活動をしたりする、元気になれる場所。杉並区社会福祉協議会の支援を受けて地域の有志で運営されている活動

管理釣り場でヘラブナ釣りを楽しむ(写真提供:綾部庄一さん)

管理釣り場でヘラブナ釣りを楽しむ(写真提供:綾部庄一さん)

DATA

  • 取材:とりの
  • 撮影:とりの、TFF
    取材日:2022年12月16日
    写真提供:綾部庄一さん
  • 掲載日:2023年03月20日