株式会社リイド社

誰もが知る人気コミック『ゴルゴ13』の出版社

超一流のスナイパー(狙撃手)デューク東郷が活躍する国民的劇画『ゴルゴ13』。映画やアニメにもなった、さいとう・たかを氏の人気作だが、そのコミックが杉並区で出版されていることをご存じだろうか。
高円寺駅から歩いて1分もしないうちに見えてくるスタイリッシュなビル、それが株式会社リイド社(以下、リイド社)の本社ビルである。
リイド社は、『ゴルゴ13』や『鬼平犯科帳』などを制作する「さいとう・プロダクション」(以下、さいとう・プロ)の出版事業部より分離し、1974(昭和49)年に設立された。初代社長は、劇画家・さいとう・たかを氏の兄・齊藤發司(さいとうはつじ)氏。2代目の現社長・哲人(てつひと)氏はその長男である。
中高年向きの時代劇コミックを中心に出版してきたリイド社だが、最近では新分野であるウェブコミックにも力を入れているという。気になるその経緯や、高円寺という街について、広報室室長・石坂氏、ウェブコミック「リイドカフェ」編集長・松井氏、「トーチweb」編集長・関谷氏に話を伺った。

写真左より広報室室長・石坂氏、「リイドカフェ」編集長・松井氏、「トーチweb」編集長・関谷氏

写真左より広報室室長・石坂氏、「リイドカフェ」編集長・松井氏、「トーチweb」編集長・関谷氏

地域に根付き、地域と共に

1991(平成3)年、リイド社は高円寺に新本社ビルを建設して、中野区にあった旧社屋から移転した。石坂氏は、「さいとう・プロから近く、交通の便が良いことが高円寺が選ばれた理由だそうです。東京高円寺阿波おどりが平日開催だった頃は、取引先をその観覧に招待したこともあります」と話す。サブカルの街として人気が高いせいか、都内に多数出版社がある中、担当が高円寺に来たくてリイド社を選ぶ取引先もあるそうだ。「高円寺に愛着を感じている社員も多いので、今後も地域とは何らかの関わりをもっていきたいですね」。高円寺では「高円寺フェス」や「高円寺びっくり大道芸」など、季節ごとにさまざまなイベントが開催されている。そのどれかにデューク東郷や鬼平が登場する日がくるかもしれないと想像するのも楽しい。

高円寺駅北口からすぐの好立地にある本社ビルは、地上8階地下1階建てで、壁面のマルチビジョンで自社の出版物を紹介している

高円寺駅北口からすぐの好立地にある本社ビルは、地上8階地下1階建てで、壁面のマルチビジョンで自社の出版物を紹介している

世代やジャンルにとらわれない面白いコンテンツを

リイド社の経営方針は「ローリスクローリターン」である。石坂氏は、「初代社長がよく言っていた言葉です。堅実な経営によって利益を上げ、それをできるだけ社員に還元するというのが初代社長の方針であり、決して事業に対して消極的な意味ではありません」と説明する。実際にリイド社は、『ゴルゴ13』や定番の時代劇コミックの出版のみにこだわることなく、最近では幅広い年齢層をターゲットにしたウェブコミック部門にも力を入れている。
その一つが、ウェブコミックサイト「リイドカフェ」だ。多彩で魅力的なジャンルの漫画コンテンツを、24時間いつでも無料で読むことができ、年齢も性別もさまざまな読者が集う。「リイドカフェ」編集長の松井氏はサイト誕生の経緯について、「最初は、リイド社ホームページのおまけコーナーでした。2016(平成28)年9月に、マネタイズ(※)を念頭にしたリニューアルを行い、コンテンツを増やしてウェブコミックサイトとして独立しました」と話す。
「リイドカフェ」はSNSを中心に注目を集め、人気のウェブコミックサイトとして成長中だ。「定期的に更新しているコンテンツは月10~15本。連載が終了した後も一定期間掲載しています」と松井氏。自分の好みの漫画を集めていたらこうなったという掲載ジャンルは、グルメ、ファンタジー、サスペンス、ギャグコメディ、ホラー、ラブストーリー、ドラマ、戦国物など多岐にわたる。
だが、ウェブコミックサイトになじみのない人からは、コアな読者向け漫画の集まりと思われていることが目下の悩みであり、改善すべき点だという。「今後は、メジャーになる面白い漫画コンテンツを育てるとともに、さらにその数を増やし、マネタイズの道を模索していきたいですね」。「リイドカフェ」で連載された多くのコンテンツを、紙媒体や電子媒体の書籍として出版もしているそうだ。

▼関連情報
リイドカフェ(外部リンク)

※マネタイズ:無料のネットサービスを収益化させること

リイド社の出版物が美しくディスプレイされた書棚は、書斎をイメージしてしつらえたとのこと

リイド社の出版物が美しくディスプレイされた書棚は、書斎をイメージしてしつらえたとのこと

ビル入り口にも最新の出版物が展示されており、道行く人の目を引いている

ビル入り口にも最新の出版物が展示されており、道行く人の目を引いている

若い世代への発信も目指す

さらに、2014(平成26)年8月には、もう一つのウェブコミックサイトが発足した。中高年向けの時代劇コミックをメインに出版しているリイド社にとって異質にも思える、25~35歳の若い世代をターゲットとした「トーチweb」(以下、「トーチ」)である。編集長は、読者と同世代である30代の関谷氏。「自分と年代が近い人たちにも作品を届けたいという思いを、直接社長にぶつけました」。こうして立ち上がった「トーチ」の運営について、関谷氏は「自分も含め、若い世代は将来に少なからず不安を持っているように感じます。そんな中、老後までずっと付き合いたいと思える仲間と信頼し合いながらサイトを作っていきたいのです」と話す。
「トーチ」には、通勤や通学、休み時間などのちょっとした時間に楽しめる漫画コンテンツのほか、「老後を考える」という随筆コーナーがある。ここでは、曜日ごとの執筆者による随筆の連載と、「トーチ」編集部がおすすめする、著作権切れの作家の名文を紹介。「自分たちの未来を考えていくときに役立つような表現の発信を目指しています」
信頼し合える仲間とウェブの世界や書籍を作っていきたいという、若い編集者たちの熱い鼓動も、リイド社を支える力になっている。

▼関連情報
トーチweb(外部リンク)

人気作品の『ゴルゴ13』や、「トーチweb」に掲載されている『サザンと彗星の少女』のポスター

人気作品の『ゴルゴ13』や、「トーチweb」に掲載されている『サザンと彗星の少女』のポスター

杉並区や高円寺を題材とした作品も視野に

今後、リイド社で杉並区や高円寺を舞台にした作品が作られる可能性について石坂氏に伺ったところ、「いずれやってみたいと考えています」という答えが返ってきた。新しいものとレトロなものが混在する高円寺が、漫画作品としてどう描かれるのか興味深いので、ぜひ実現してほしいところである。また、最近では漫画を原作とした映画やアニメ化が多く見られるが、リイド社も新しい作品の映像化について視野に入れているそうだ。
社員思いだった初代社長の「ローリスクローリターン」のモットーを受け継ぎながら、ウェブコミックサイトという新しい分野にも果敢に取り組むリイド社。厳しい時代にあると言われて久しい出版業界で、持ち前のチームワークと発想力によってどんな漫画を誕生させてくれるのか、ますます目が離せなくなりそうだ。

打ち合わせコーナー。陽当たりが良く明るい室内には、販促品のパネルなどが並ぶ

打ち合わせコーナー。陽当たりが良く明るい室内には、販促品のパネルなどが並ぶ

DATA

  • 住所:杉並区高円寺北2-3-2
  • 電話:03-5373-7001
  • 最寄駅: 高円寺(JR中央線/総武線) 
  • 公式ホームページ(外部リンク):http://www.leed.co.jp
  • 取材:岩崎雅、浦部、田中佳子(地域大学区民ライター講座実習記事)
  • 撮影:岩崎雅、浦部、田中佳子(地域大学区民ライター講座実習記事)
  • 掲載日:2018年09月03日