浴風会 本館・礼拝堂(らいはいどう)

今も残る関東大震災直後の歴史的建造物

浴風会は、関東大震災で被災した高齢者を援護するため、1925(大正14)年に財団法人として設立された(現在は社会福祉法人)。当初、敷地内には54棟もの住居棟と医療施設が作られ、そのほとんどは建て替えられたが、現在も本館と中庭、礼拝堂が当時の面影を残したまま保存活用されている。
浴風会本館及び礼拝堂の設計者は、内田祥三(うちだよしかず)氏と土岐達人(ときたつんど)氏。全体計画を東京大学の建築を手がけた内田氏が行い、実設計は東大を出て間もない土岐氏が担当した。

本館南側の外観

本館南側の外観

ドラマの撮影にも使われるモダンな本館

本館の竣工は1926(大正15)年。設計に際して、土岐氏は1927(昭和2)年発行の『建築新潮』で「事務室、病室、医務室という機能の異なるものをひとまとめにすることが厄介だった。」と明かしている。あれこれ悩んだ末、欧米の療養所の設計図を参考にして、中央に事務室や医務室を固めて置き、男女の病室を左右に並べる配置で設計された。
中央の塔がスッと伸び、鳥のように両翼を広げた形の本館は、よく見るとデザインにも工夫が凝らされている。正面玄関のある北側から見ると、搭の垂直性が強調されて堂々とした印象だが、中庭のある南側から見ると、人々に威圧感を与えないよう水平性を強調し、親しみやすい印象を受ける。
玄関扉には薔薇(ばら)の模様を、階段には唐草模様をあしらうなど、内部デザインの美しさも光る。
本館は2001(平成13)年、東京都の景観条例に基づく「東京都選定歴史的建造物」に選定された。モダンな建物はCF(コマーシャルフィルム)やドラマのロケ地としても度々使用されている。2004(平成16)年には、外壁タイル(縦にひっかき模様のあるスクラッチタイル)の補修が行われた。

本館の玄関ホールと階段

本館の玄関ホールと階段

本館正面のアプローチ

本館正面のアプローチ

多宗教に対応するユニークな礼拝堂

本館から中庭を挟んだ南側には1927(昭和2)年竣工の礼拝堂が建っている。阿弥陀如来を祀(まつ)った祭壇がある仏教の礼拝堂でありながら、祭壇の前のカーテン(昔はシャッターだった)を閉めると、他の宗派や宗教に応じた祭壇を設けられる仕組みになっている。前出の土岐氏の寄稿文を見ると、最初は仏教・神道・キリスト教の祭壇を回り舞台のようにする構想もあったようだ。現在も礼拝堂では、毎週水曜日に法要が行われている。
礼拝堂の外観は、本館に合わせて中央に塔を配した形。建物の両側に張り出したバットレス(控え壁)や、建物内部の列柱などにキリスト教の礼拝堂の要素が見られるが、搭にはキリスト教の鐘楼ではなく、1928(昭和3)年に設置された梵鐘(ぼんしょう)がある。海外の建築デザインを日本風にアレンジしたユニークな建物だ。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 歴史>記録に残したい歴史>高井戸の浴風園-高齢者福祉のさきがけ
すぎなみ学倶楽部 歴史>杉並区に残る戦争のつめ跡>浴風会

礼拝堂の外観

礼拝堂の外観

礼拝堂の内部

礼拝堂の内部

礼拝堂搭屋にある梵鐘。大みそかに除夜の鐘がつかれる

礼拝堂搭屋にある梵鐘。大みそかに除夜の鐘がつかれる

DATA

  • 住所:杉並区高井戸西1-12-1
  • 最寄駅: 富士見ヶ丘(京王井の頭線) 
  • 補足:通常、建物のみの見学は行なっていないが、毎年秋の「東京文化財ウィーク」の建物公開のときに外観を見学できる
    高井戸駅より無料巡回バスを運行(平日のみ)
  • 公式ホームページ:http://www.yokufuukai.or.jp/
  • 取材:石渡玲子
  • 撮影:村山一美
  • 掲載日:2016年04月18日