蘇る杉並の在来種

高井戸節成キュウリに注がれる注目

在来種とは、特定の地域で古くから育成されている、その地域特有の動物や植物のことで、固定種とも呼ばれる。
現在、国としては定義を明確にしてはいないが、ご当地ブランドとして品種の認証をする際に、血統、飼料、育成方法など県や市町村が一定の基準を定めているケースもある。
東京では「江戸東京野菜」の認証をうけた品種を町おこしに活用すべくご当地野菜として栽培に取り組むケースも増えてきた。

江戸・東京にあった”杉並野菜”

杉並区は、平坦な土地が多く、古くから農業地として開拓されていた。
1997(平成9)年、JA東京グループが、農業協同組合法施行50周年記念事業として、東京都内の農業にゆかりのある神社などに「江戸・東京の農業屋外説明板」を50箇所設置。杉並区内にも、3箇所設置された。
上荻の八幡神社には「クリの豊多摩早生」、善福寺の井草八幡宮には「井荻ウド」、下高井戸の八幡神社には「高井戸節成キュウリ」の説明板が立っている。

東京の消費者は、初物を好む。江戸時代には「初物を食べると75日長生きする」と言われ、通常よりも高値で取引されることから、生産者はできるだけ早く収穫できる品種を選び、先を競って栽培した。杉並区ゆかりの三品も、ほかの品種よりも早く収穫できることから重宝されていたという。
しかし、食習慣の変化や栽培設備の充実といった時代の流れの中で、淘汰され、現在は区内のどの農家でも栽培されていない。

高井戸節成キュウリの復活

しかし、近年、育てるのに手間暇はかかるものの、野菜本来の味わいを残す伝統野菜に注目が集まっている。京野菜などと同じく地域ブランドの野菜として、30品目が江戸東京野菜として、JA東京中央会により定められている(2012年8月現在)。一つ一つの野菜に、歴史的背景や物語があるのが魅力で、各区のまちおこしの目玉としても活躍中だ。
杉並区内では、残念ながら、先に挙げた三品についての復活の取り組みはまだ実施されていない。しかし、某所で高井戸節成キュウリの復活プロジェクトが、2012(平成24)年から立ち上がった。種まきの時期が遅かったものの、見事に高井戸節成キュウリが実をつけ、来年に向けて種取りの作業が行なわれている。

※高井戸節成キュウリ
キュウリは、明治になってから大量に消費されるようになった野菜である。かつて豊多摩郡高井戸周辺(現在の杉並区上高井戸・下高井戸など)は、高井戸節成キュウリの名産地だった。豊多摩郡高井戸周辺は、南は馬込半白節成キュウリを栽培していた旧荏原郡馬込周辺(現在の大田区東馬込・西馬込)、北は豊島枝成(さすなり)キュウリを育てる旧豊島郡(現在の練馬区)に隣接していたことから、両地域からそれぞれの品種を導入し、自然交配したものが高井戸節成キュウリとなった。両品種の中間的な性質を持ち、栽培しやすい早生種だったため、昭和の半ばまで盛んに育てられた。

待っているだけじゃなく、自ら行動する

今後の高井戸節成キュウリの栽培について、高井戸で農業を営む鈴木宗孝さんに伺ってみた。
「高井戸節成キュウリのような江戸東京野菜は、タネを通して世代をつないでいく固定種と呼ばれるもの。栽培・収穫をしたあとで、同じくらいの時間をかけて種取りをしなければなりません」
手間がかかることはもちろん、畑のローテーションなどを考えると、簡単には栽培に踏み切れない点も多いようだ。


宗孝さんは、この地で農業を営む11代目。栽培した野菜の7割は、畑の入口で直販をしている。
「法律などいろいろクリアしなくてはならないことはありますが、できれば敷地内に直売所を建て、道の駅やまちの駅のような形態で販売するのが理想です」
杉並区内には、JA東京中央ファームショップ「あぐり~ん」のような直売所もあるが、搬入や引取りを行なう人手が足りず、商品を持っていけない生産者も多いようだ。各地域の生産緑地に、まちの駅のようなハコができれば、生産者にとっても消費者にとってもメリットは大きい。
また、収穫した野菜の2割は、給食用として学校に卸している。
「杉並区の農業ボランティアの講習で来た栄養士の方に声をかけていただいたのが、きっかけです。ちょうど食育が話題になりはじめた時期でもありました」
ほかにも、幼稚園や小学校のイモ掘り用に畑を貸出したり、学校の授業で野菜作りについての講義を行なったりと、地域の中で多彩な活動をしている。
「残りの1割は、フレンチの巨匠・三國清三さんのレストランなどに卸しています。レストランに卸す野菜は、高値をつけていただける一方で、細かいサイズ指定や野菜を収穫する時期など、要求されるレベルが高いのが特徴。リスクもありますが、自分の畑の野菜の商品価値を高めてもくれます」
鈴木さんは、今後は、体験農園として畑を貸出すことにチャレンジしたいと考えている。
「杉並区内では、あまり前例がないので、まだまだ手探り状態ですが、実現したいと思っています。野菜を作ってただお客さんを待っているだけじゃなく、いろいろなことに挑戦して、農業の可能性を広げていきたい」

直売所 上高井戸2丁目8番 営業時間 火・木・土 9時~17時(なくなり次第終了)

DATA

  • 取材:佐竹未希、監修:江戸東京・伝統野菜研究会 大竹 道茂さん
  • 掲載日:2012年10月25日
  • 再取材日:2019年02月26日

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