
ハシビロコウやマヌルネコなど珍しいモチーフも。思い入れのある商品ばかりだ
マンガやイラストを描くデザイナーからの転身という、異色の経歴を経て「文具店タビー」の店主となった吉田真(よしだ まこと)さん。実店舗を通して、隣接する児童館や近隣小学校との関わりや、地元イベントへの参加など、地域とのつながりも深い。個性的な個人経営の店が多い西荻窪でも「ありそうで、なかった」、動物モチーフ限定の文具や雑貨を扱う「文具店タビー」が西荻窪に開店するまでの経緯と、地域との関わりについて伺った。
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文具店タビーインスタグラム(外部リンク)
以前住んでいた練馬区で、コンビニエンスストアの店長をしていた吉田さん。コンビニで働き始めたのは、絵の仕事が少なくなったことがきっかけだったが、接客の仕事を続けているうち、小売業の楽しさを実感するようになる。そこで、本当に自分がやりたいことを探すような気持ちで、練馬区で開かれている起業・創業セミナーに参加してみた。
セミナーでは、今まで何をやってきたか、これから何をやりたいかについて見つめ直し、考える作業に時間が割かれた。「動物の絵を描く仕事が多かったし、画材屋へ行くのも好きでした。それに、祖母が文具店を営んでいたことなどもあって」。自分がやってきたこと・できること、さらに身近にあるものごとを棚卸ししてまとめていった先に、文具店経営という、ひとつの形が見えてきた。
ようやく見えた将来の構想だったが、中小企業診断士でもあるセミナー講師からは、そもそも小売業自体が近年は厳しいと言われた。「確かにその通り」と、吉田さんは振り返る。だが、「物を売る商売がなくなったら、日本は終わる!くらいに思っていて、ちょっとした反発心もありました」。それからは、メーカーが出展する展示会に足しげく通い、色々な話を聞いて勉強した。当初オンラインだけの営業を考えていたが、取り扱いを熱望していたメーカーとの契約は店舗がないとできないと知り、実店舗を持つことを決めた。早速、思い描く店のコンセプトに合う街を探し始め、たどり着いたのが西荻窪。個性的な個人経営の店が多く、オリジナリティを生かす店舗のひとつとして、馴染んでいけそうな印象が決め手になった。
準備を進めて約1年余りが過ぎた2019(令和元)年5月、「文具店タビー」はオープンした。
オープンして間もない頃のことだ。近所の児童館に子供を迎えに来た母親に「ここ、(学校で使う)ノートないの?」と店の外から声をかけられた。「”ないんです”と答えたら、”じゃ、置きなさいよ”と言われまして…」。早速、杉並区教育委員会やノートのメーカーに問い合わせ、杉並区でよく使われる学習ノートのラインアップを揃えたところ、子供たちやその親が来てくれるようになった。
また、吉田さんがデザインするオリジナル商品の中には、散歩でよく通る近所の犬たちをモチーフにしたメモもある。「自分は動物に詳しいわけではないんです。お客さんには、特定の動物に詳しい人や動物園の方もいらして、色々教えてもらったり、アイデアをいただくこともあります」。思わぬ出会いや、お客さんの声に応えながら、店を続けてきた。
吉田さんには、とても楽しみにしていることがある。高井戸第四小学校2年生による「街探検」だ。子供たちが例年、地域学習の一環として、自分たちで行きたい店を選び、自分たちだけで訪問し、聞きたいことを質問する。その「取材」内容は後日、記念写真とともにポスターになり、届けられる。
「小学校2年生の子供たちの発想って、何にもとらわれず、自由で伸び伸びしているんです。そこがいいんですよね」。子供たちから贈られたポスターは店内に掲示され、吉田さんの宝物となっている。「また取材先に選ばれたい。このポスターが、ほしいんです」
日常の店舗経営のかたわら、2026(令和8)年に19回目が開催される「西荻茶散歩(チャサンポー)」や、「ニシオギセカイツアー」など、吉田さんは、様々な地域の取り組みやイベントにも参加している。
参加店が目印として「やかんマーク」を店頭に掲げ、独自の催しやサービスと共に、来客に無料でお茶を振舞う「茶散歩(チャサンポー)」。吉田さんは出店だけでなく、手続きなどを取りまとめる事務方としても協力している。お茶や買い物を楽しみつつ、のんびり西荻散策を楽しんでもらおうというこのイベントは、例年11月中旬に開催される。
「ニシオギセカイツアー」は、それぞれが世界の国々や架空の国をイメージした参加店を巡り、スタンプを集めてプレゼントをもらうイベントで、2025(令和7)年から、参加店として名を連ねている。地域の店や、新たなお客さんとのつながりが生まれるのも、このようなイベントがきっかけとなっている。
「文具店タビー」の買い物袋には、動物スタンプが押される。スタンプは、吉田さんがイラストから描き起こし、丁寧に彫り上げた手製の消しゴムはんこだ。袋を手にした購入者は、そのかわいいスタンプに、オマケをもらったような嬉しい気分になるだろう。今では「あいうえお順」に整理しないと収拾がつかない数の動物たちが、レジ横に控えている。
「お客さんの声を聞きながら探り探りやっている感じで、やりがいもそうですが、お客さんの声がなかったら、何もできなかったと思います」と言う吉田さん。地域のつながりを作っていくのは、大がかりなアクションだけではなく、むしろ、このような日常のコミュニケーションなのかもしれない。
自然体という言葉がぴったりの吉田さん。紆余曲折、大変だったに違いないと思われる事柄も、さらっと、あくまでも淡々と話す様子が印象的だった。吉田さんが併せ持つ「絵を描くクリエイティブな面」と、「小売業が意外と好きで、向いているという面」が、「文具店タビー」に結実しているように思う。これからも日常のつながりが地域との関わりに広がっていくことを、そして何より「街探検」のポスターが、お店の壁に貼り切れない程増えることを願っている。
2013(平成25)年、4コマ漫画やイラスト制作などの絵の仕事から、コンビニの店長へ。2018(平成30)年、練馬の起業塾に通い、起業の構想を練る。2019(令和元)年5月、動物モチーフ限定の商品を扱う「文具店タビー」を西荻窪に開店。消しゴムはんこ作家およびデザイナーとして、他店のロゴやイラストなども手掛けている。
文具店タビー https://tabby.shop-pro.jp/?mode=f1