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杉並野草の会

野草展示会を終えて、達成感にあふれる杉並野草の会の会員(写真提供:杉並野草の会)

野草展示会を終えて、達成感にあふれる杉並野草の会の会員(写真提供:杉並野草の会)

野の花のもとに集う

例年4月に杉並区立大田黒公園の催物広場で行われる「野草展示会」。季節の訪れを感じる野草の展示を楽しみにされている方も多いのではなかろうか。入場者数が3日間で計2,000人を超えるこの人気イベントを主催しているのが杉並野草の会である。
杉並野草の会は野草を中心とした植物の勉強を続けながら自然に親しみ、その保護と回復に力を尽くす団体である。発足は1976(昭和51)年11月と、半世紀にわたり長く活動を続けている。2025(令和7)年12月現在、会員数は86名で、平均年齢は74歳。女性が8割に及ぶ。上は90代から下は10代と年齢幅も広い。

展示される野草鉢が約400。会員が持ち寄る(写真提供:杉並野草の会)

展示される野草鉢が約400。会員が持ち寄る(写真提供:杉並野草の会)

「野草の名を覚える会」発足の提案から始まった

杉並野草の会の立ち上げのきっかけは、初代会長の故澤田正之氏が1976(昭和51)年9月5日号の杉並区広報「声の欄」に投稿したことにある。杉並区にはみどりの条例(※)があるのだから、区民がもっと緑に親しむためには、身近な草の名を知る必要があるという澤田氏の考えから、投稿の内容は「野草の名を覚える会」発足の提案であった。
当時の杉並区からの回答は「組織づくりの呼びかけ、会発足時の会場の手配、緑に関する資料の提供などの側面援助をさせていただくので、ぜひお友達と会をつくってください」ということだった。
さらに同年10月5日号の杉並区広報「声の欄」には、区民から「草木を訪ねて歩く会」を持ちたいという投書が。2つの投書に共感した区民が集まり、打ち合わせを重ねた結果、同年11月に名称を「杉並野草の会」として発足した。

杉並野草の会会報第1号(写真提供:杉並野草の会)

杉並野草の会会報第1号(写真提供:杉並野草の会)

50年前と変わらない思い

では約50年にわたり、どのような活動を続けてきたのか。杉並野草の会の会長、金順一(こん じゅんいち)さんに話を伺った。まずは杉並野草の会が継承している思いについて。「最も大事にしていることは自然に親しむこと。その上で野草を中心に植物の勉強を続けながら、自然の保護と回復に力を尽くすことです。発足当時から変わっておりません」。
そのような思いから、主に観察会、会報の発行、1泊旅行、野草展示会の4つの活動を長年続けている。

杉並野草の会6代目会長の金順一さん

杉並野草の会6代目会長の金順一さん

当日の気分で参加できる観察会

「野草の観察と勉強のため、近郊に出かけています。発足当初からほぼ毎月1回、実施していますね。行先、行程、費用などを事前に会員にお知らせします。事前の予約は不要で、当日参加するかしないかは会員の自由です。観察会当日の都合や体調におまかせしていますが、それでも毎月平均30人ほどの会員が集まります」と金さん。直近では高尾山、都立小山田緑地(町田市)、東京薬科大学薬用植物園(八王子市)、黒川清流公園(日野市)、都立長沼公園(八王子市)、筑波実験植物園(つくば市)などに出かけた。いずれも日帰りの無理のない行程で、季節を楽しめる行き先になっている。杉並区内では、一般公開日に区立井荻公園の一角にある野草園を訪ねた。絶滅危惧種のタマノカンアオイやエヒメアヤメなどが植栽されている。
観察会の案内には歩く距離などを考慮しながら、参加しやすさを星の数で示している。参加のひとつの判断材料になっているようだ。

その日の気分で自由に参加。毎月実施の観察会(写真提供:杉並野草の会)

その日の気分で自由に参加。毎月実施の観察会(写真提供:杉並野草の会)

有意義な情報が満載。杉並野草の会会報の発行

杉並野草の会の会報は1976(昭和51)年11月の第1号から今日まで月1のペースで発行されている。当初1〜2ページ程度であった会報は、いまでは8〜10ページになるほど情報が充実。「郵送かEメールを使って毎月届けています。楽しみに待っている会員が多いのですよ。次回の観察会のお知らせと前回の報告、定例理事会で決定した事柄、また花の姿・花の素顔というコラムなど、会員に必要な情報を共有しています」と金さん。
丁寧に手間をかけて作られた紙面は読み応えがあり、植物の新しい知識を得ることができる。不定期であるが、会員からの投書を掲載している散歩道というコーナーもある。活動の思い出やエピソードが中心に記載されていて、会員の植物への愛情が生き生きと伝わってくる。

イベントのお知らせや植物の知識などを会員に毎月届けている

イベントのお知らせや植物の知識などを会員に毎月届けている

植物とふれあい、仲間と交流を深める1泊旅行

1泊旅行は植物の美しい季節である7月頃に、少し遠出をして花を堪能する旅だ。日中は植物園や花の名所で植物に触れ合い、特色や生態などについて勉強をする。夜は温泉と食事を楽しむ。会員同士の絆も深まる2日間であるようだ。さすがに80名を超える会員全員が参加というわけにはいかないので、先着順で約30人の参加者を募っている。評判が良く、申し込みがすぐに定員を満たすほどだ。直近では日光、霧ヶ峰、駒止湿原、乗鞍高原、白馬などを旅している。
後日、参加者にはそれぞれにアレンジした手作りのアルバムが届く。参加者自身が写っている写真が多く使われており、思い出が鮮やかによみがえる内容だ。この1泊旅行も半世紀にわたる活動である。

全行程から温泉宿の献立まで。1泊の思い出が1冊に(資料提供:杉並野草の会)

全行程から温泉宿の献立まで。1泊の思い出が1冊に(資料提供:杉並野草の会)

活動の集大成である野草展示会

「4月中旬の土日を含む3日間、会員が植物や苗を植えた鉢を持ち寄って大田黒公園で開催しています。これを見て、新たに会員になった方が大勢います。実は私も20年以上も前になりますが、野草展示会に初めて訪れたのが入会のきっかけでした。もともとはカメラが趣味で、この会に入れば植物を撮りにいろんなところに行けると思ったからです」と金さんは語る。
第1回開催は1982(昭和57)年。この様子は杉並区広報のPR協力もあり、各新聞、ラジオでも紹介された。
多くの会員が参加できるように、事前に植え替え講習会などを開いて一人一鉢を推進。今では会員の半数以上が出展するようになった。
野草展示会の準備、実施、後片付けはすべて会員の手によるもの。それだけに終了時の達成感は相当なものである。後日行われる報告・慰労会への参加人数も年々増えている。

お揃いのエプロンで来場者をお迎え(写真提供:杉並野草の会)

お揃いのエプロンで来場者をお迎え(写真提供:杉並野草の会)

これからも変わることなく歩む

杉並野草の会は杉並区認定みどりのボランティア団体(※2)に認定されている。また自然の保護と回復を目指す活動を評価されて杉並区みどりの顕彰・みどりの活動賞を2015(平成27)年に受賞した。
昭和、平成、令和と歩んできた杉並野草の会は、2026(令和8)年11月に満50歳を迎える。50周年の記念事業の企画・準備が着々と進められ、記念誌の発行、記念品の配布、ホームページの開設などが検討されている。
最後に金さんにこれからについて聞いてみた。「50年前の創立からの思いはこれからも変わらないはずです。従って活動内容も変わらないと思います。会員の平均年齢が高いことがありますが、無理に若返りさせる考えはありません。自然に親しみたい方が、楽しく続けていただければ十分です。長く続けていくことが一番大切だと思っています」
次の100周年を迎えても、きっと変わらない団体。それが杉並野草の会なのである。

※1 みどりの条例:1973(昭和48)年10月制定。杉並区でのみどりの保全や育成に必要な事項を定め、区・区民・事業者が協力しながら、みどりの恵みにあふれた都市環境づくりを進めるための条例。現在の区民だけでなく、将来の区民も健康で快適に暮らせるよう、その生活環境を確保することを目的としている
※2 杉並区認定みどりのボランティア団体:地域のみどりの保全及び育成のためのボランティア活動をする団体のうち、杉並区が認定する団体

節目には記念誌。左は30周年を、右は野草展40回開催を記念して作成

節目には記念誌。左は30周年を、右は野草展40回開催を記念して作成

金さんのボタニカルアート。会員による野草を題材とした作品展も企画中

金さんのボタニカルアート。会員による野草を題材とした作品展も企画中

DATA

  • 出典・参考文献:

    『杉並野草の会 三十年の歩み』杉並野草の会
    『杉並野草の会会報』杉並野草の会

  • 取材:野地浩之
  • 撮影:野地浩之、写真提供:杉並野草の会:
    取材日:2025年12月09日
  • 掲載日:2026年03月09日