
「好き」が仕事に。時間があれば、いつでも手を動かし創作を楽しむ(写真提供:アーメルさん)
独自の感性で、ヴィンテージボタンを使ったハンドメイドアクセサリーや、手編みのファッション小物を作るアルティザン(※1)アーメル・マレジャックさん。2019(令和元)年7月、西荻窪に、アクセサリーショップAtelier 12 Bis(アトリエ ドゥーズ ビス)をオープンした。
自然光が差し込む明るい店内には、色鮮やかな商品が並び、その奥にアーメルさんが手を動かす姿が見られる。そこはまさにアーメルさんの「アトリエ」だ。ハンドメイド作家となった背景や、作品へのこだわりと思いについて、アーメルさんに伺った。
アーメルさんは、1973(昭和48)年、フランスのブルターニュ生まれ。小さい頃は絵を描くのが大好きで、いつも学校のノートに絵を描いていた。10代前半で受けた実技・技術教育で、紙や粘土など多様な素材を使ったものづくりや、簡易な電子工作を学び、その面白さを知った。
大学在学中にロンドンへ渡り、卒業後は靴販売会社に就職。その頃、友達がビーズでブレスレットを作るのを見て興味を持ち、ビーズアクセサリーを作り始めた。昼休みや空き時間には、のみの市(※2)で見つけたアンティークのビーズでブレスレットやブローチを作るのに夢中だったという。
1999(平成11)年、初めて旅行で日本を訪れた。印象的だったのは、カラフルな服に鮮やかなメイクで、厚底ブーツを履く女の子たち。「奇抜なファッションを批判する傾向があったフランスと違い、ロンドンと似た自由な雰囲気を感じました」
その後、パリへ移り日本人のパートナーと暮らし始めてから、日本移住を考えるようになった。ある時、趣味で作っていたアクセサリーが、当時のパートナーを通じて出会った「トゥモローランド」(※3)の関係者の目に留まった。「日本で仕事をしてみないか」と誘いを受け、2008(平成20)年に来日して仕事を始めた。
10年後、契約終了を機に独立を決意。新たなステージに選んだのが西荻窪だった。「大型施設がなく、カフェや小さなレストランなど、個人店が集まった街。近所の人が気軽に"ハロー"と店に顔を出し、通りを歩けば声を掛けてくれる。小さな村のような、温かな雰囲気が気に入っています」
独立する前には、有名企業とコラボレーションをする機会にも恵まれた。2014(平成26)年には、スワロフスキーとのコラボレーションで、バッグとドレスを制作。その時の作品は、今もAtelier 12 Bisに飾ってある。
2017(平成29)年の「誕生50周年記念 リカちゃん展」では、スワロフスキー・クリスタルをまとった「50周年お祝いコラボリカちゃん」を制作。リカちゃんが着けているイヤリングとおそろいのピアスを、リカちゃん展限定ピアスとして販売した。
アクセサリーに使うヴィンテージボタンやビーズは、1930年代から1980年代に欧州で作られたものだ。気に入った素材を見つけると、ひとまず手に入れ、アイデアが浮かぶまで寝かせておくこともあるという。「複雑なデザインより、素材を生かしたシンプルなデザインが好き。色の組み合わせやパターンを変えて表現することで、魅力的になります」
アーメルさんは同じものを作らないと決めている。ヴィンテージ素材は一つ一つにストーリーがあり、歴史が詰まった希少なもの。そこに新たなデザインを吹き込めば、その人だけの特別なオンリーワンのものが生まれるのだ。
アーメルさんは、Atelier 12 Bisで予約制のワークショップを開催している。受講者のレベルや作りたいものに合わせて内容をアレンジし、初心者には基礎から教えてくれる。「小さい正方形パーツが編めるようになれば、たくさんつなげてマフラーに。大きな正方形パーツなら、二つに折ってファスナーを付けるとポーチができます」
2022(令和4)年からは、期間限定ストアの出店を始めた。2025(令和7)年には、日本橋三越、東京スクエアガーデンに出店。毎月開催される西荻窪の「神明通りあさ市」(※4)にも時々出店している。
トレンドに流されるのではなく、誰もが自分の感性を大切にし、好きなものを作ったり身に着けたりしてほしい、とアーメルさんは願っている。
「ある時92歳の隣人が、幼少期に祖母が作ってくれたという小さいポーチを手に訪ねてきました。長年愛用して傷んでしまったので、新しい形で再現したいとの願いを受け、ワークショップを行いました」
壊れたら捨てるのではなく、アップサイクル(※5)ですてきに生まれ変わらせる考え方に引かれるという。「祖母がたくさんのボタンを大切に箱にためていたように、私もそんな思いを受け継いでいるのかもしれません」
アクセサリー作りこそが自分の進むべき道。これからも作り続ける、とアーメルさんは語ってくれた。
1973年 フランス、ブルターニュ生まれ
2008年 来日し、アクセサリー製作を始める
2014年 スワロフスキーとのコラボレーションでバッグとドレス制作
2017年 「誕生50周年記念 リカちゃん展」でドレスとアクセサリー制作
2019年 7月に西荻窪にAtelier 12 Bisをオープン
2022年 期間限定ストアの出店を開始(葉山、吉祥寺、三鷹、東京ドーム)
2025年 日本橋三越、東京スクエアガーデン出店。西荻窪「神明通りあさ市」にも不定期で出店
※1 アルティザン:熟練した技術を持ち、加えて独自の創造性を備え、手仕事で作品を作り出す「芸術的な職人」
※2 のみの市:古い家具、古着、アンティーク・ヴィンテージ雑貨などを売る屋外の古物市
※3 トゥモローランド:日本のセレクトショップ及びアパレルメーカー
※4 神明通りあさ市 :毎月第3日曜日(9時~11時)開催。1975(昭和50)年に始まった
※5 アップサイクル:廃棄予定のものにデザインやアイデアを加え、新たな商品価値を生み出すこと