スタジオジブリで、アニメーターとして仕事をした舘野仁美(たての ひとみ)さんによる27年間の回顧録。2015(平成27)年に単行本として刊行、2025(令和7)年に文庫本化、電子書籍化され入手しやすくなった。
単行本は、舘野さんが原文を書き、広報誌「熱風」に連載した原稿を、スタジオジブリ出版部の平林享子(ひらばやし きょうこ)さんが、いくつかのエピソードを加筆してまとめたものだ。平林さんは、2014(平成26)年、広報誌の新連載として「ジブリに結集したユニークかつ優秀なアニメーターが散らばっていく前に、ジブリのメソッドと彼らの言葉をアーカイブとして残しておきたい」という企画を出した。それに宮崎駿監督や鈴木敏夫プロデューサーらの意見が加わり、舘野さんがさまざまな話をつづる連載になった。
文庫本化にあたって、現在は、株式会社ササユリ代表取締役社長を務める舘野さんが単独で書き下ろした、スタジオジブリ退職後の近況報告を収録している。
私がアニメーターを志した昭和の時代とは比べものにならないくらい、アニメーション制作の世界は変貌を遂げました。「アニメーターになりたい!!」という若者が飛躍的に増え、絵を描くレベルも上がってきていると感じています。
私が「エンピツ戦記」に記した事柄は成功譚(せいこうたん)ではなく、むしろ失敗の連続といえるかもしれません。
「絵を描くこと」を「仕事にする」ことは楽しいことばかりとは限らず、他者とのコミュニケーションをとりながら協力して積み上げていくことだと、私はアニメーションの仕事から学びました。日々の小さな失敗から学び、大きな成功にいつかつなげていくことが可能であるという経験もしました。
地味な仕事といわれる動画検査アニメーターの見聞や体験の記憶をつづった本です。どんな仕事でも、小さなドラマがあったんだと思って読んでいただけましたら幸いです。
ジブリ作品のアニメーターとして、27年間裏方に徹した舘野さんの仕事内容や、スタジオのスタッフたちとのリアルなやりとりを読むことができる。文庫本用に書き下ろした「文庫版のための近況報告<ササユリ戦記・短縮版>」では、舘野さんがスタジオジブリを退職後、2014(平成26)年12月に西荻窪にオープンしたササユリカフェでの日々や、カフェを通じてアニメ業界と関わっていく様子が描かれている。
カフェのアニメーション関連の展示ではいろいろな人との出会いがあり、後には本人も予期しない巡り合わせもあったという。
NHK連続テレビ小説「なつぞら」でのアニメーション監修や、2025(令和7)年に放映されたNHK特集アニメ「cocoon〜ある夏の少女たちより〜」を手掛けることになった経緯にも触れている。制作に携わる機会が増えるに伴い、カフェは2020(令和2)年末に休業し、現在はササユリ動画研修所としてアニメーター育成の拠点となっている。舘野さんの後進への思いが描かれているページは、アニメーター志望者には励みになるに違いない。
舘野さんと同時期にスタジオジブリで作画を担当していた大橋実さんによる表紙画や挿絵、直木賞作家である万城目学さんの解説と盛りだくさんな一冊である。