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朝枝晴美さん

NPO活動の支援に力を注ぐ朝枝晴美さん

NPO活動の支援に力を注ぐ朝枝晴美さん

地域と人を緩やかに結ぶ

「巻き込まれていたら、いつの間にか活動の真ん中にいたんです」。そう語るのは、NPO法人サービスフロンティアの代表であり、すぎなみ協働プラザの運営責任者を務める朝枝晴美さんだ。
すぎなみ協働プラザはNPO法人の設立や助成金の活用など、NPOや地域活動の全般をサポートする。すぎなみ協働プラザでは団体や活動者の話を聞き、適切なアドバイスをしてくれる。
人と関わることが得意なわけではなかったという朝枝さん。けれど、多くの人々の活動に巻き込まれていき、気がつけば地域に関わる人生を20年以上歩んでいた。そのきっかけは「PTA」だった。

活動について熱心に話す

活動について熱心に話す

学校での経験が「つなぎ役」の原点に

杉並区で生まれ育ち、今に至るまで住民票を移すことなく住み続けているという朝枝さん。地域活動に深く関わるようになったのは、PTA役員として小学校に関わったことが始まりだった。2人の子供が小学生の間に、役員を2回務めることになった。
その任期中、学校で大きな事故が起こった。事故後に会長に就任した朝枝さんは、保護者、先生方、校長先生との間で、それぞれの思いが複雑に交錯しているように感じた。
「ひとつにならなくてもいい。でも、どうしたらギスギスしないで済むかを考えながら、皆の話を聞いて回りました」。相手の立場や気持ちに寄り添いながら、丁寧に話を聞き、人々をつなぐこと。それが朝枝さんの「原点」となった。

人との縁ができ地域活動に取り組む

PTAでの活動を通じて行政と関わるようになり、その後、杉並区の社会教育センターに勤務。仕事として社会教育に携わる中、「すぎなみ大人塾」に出会った。「面白そうだな」と思い、受講生として参加。それが活動の幅を大きく広げる転機となる。
すぎなみ大人塾は社会教育センターが実施し、「自分を振り返り、社会とのつながりを見つける大人の放課後」を掲げる学びの場だ。卒塾後は卒塾生同士の交流を継続するためのコア団体が立ち上がり、朝枝さんはその代表となった。大人塾で知り合った卒塾生から教わったバルーンアートは、今ではイベント時の得意技になった。
こうした出会いがさらに広がり、税理士・会計士、外資系のコンサルタント、大学教授など、普段の生活では出会わない人々ともつながっていった。「立場も背景も違うけれど、一緒に学び合う中で『社会の一員』としての自分を考える機会になった」と話す。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>杉並の地域活動>すぎなみ大人塾

NPOを支える立場として

大人塾でつながった縁から、NPO法人サービスフロンティアに誘われて「うっかり」入会。読書支援などの地道な活動を続けながら、2018(平成30)年に、杉並区から「すぎなみ協働プラザ」の運営を受託することになった。
朝枝さんは「法人運営の経験がなかったので、契約、労務、会計など全てをきちんと遂行していく大変さを実感してます」と語る。支援する側であるプラザが、まずしっかりとした法人運営を行うことの責任を感じているという。
これまで大変なことも多かったはずだが、「今はもう仕事なのか地域活動なのか、自分でも境目がよく分からないんです」とにこやかに話す朝枝さん。支援する団体の「気持ち」や「やりたいこと」を丁寧にくみ取る。そうした姿勢は、常に「巻き込まれた先で人の気持ちを想像する」経験から培われたものだろう。

すぎなみ協働プラザが入る杉並区立産業商工会館

すぎなみ協働プラザが入る杉並区立産業商工会館

杉並に関心を持って生きるということ

2025(令和7)年現在も朝枝さんは学校運営協議会の委員として活動しており、中学校と地域の橋渡し役を担っている。「学校と地域が共にあるために、外から関わる仕組みを作ることが大切」と語る。地域に深く根差してきたからこそ見える景色もある。
一方で、杉並というまちは着実に変化しており、高齢化の進行や地価の高騰を実感しているという。「若い人が住み続けられなくなっていて、それに誰も気付かないまままちが変わっていくことが、ちょっと怖い」と語る。空き家の増加や住宅の民泊化、土地の所有者の変化など、日常の中で静かに進行する「見えない変化」にも目を向けるべきだと感じている。
「このまちがどうなっていくのか、一人一人が少しずつ意識を持つだけで、未来は変わるかもしれません」。住み慣れたまちだからこそ、その未来を見守り、支えていきたいという思いがにじむ。

利用者の疑問や質問に丁寧に対応する

利用者の疑問や質問に丁寧に対応する

利他と利己の両方を大切にする

朝枝さんは「利他と利己」の両方を大切にしている(※)。「自分のためと、少しだけ他人のことも考える。そのバランスを持てる人が増えるといい。社会課題に目を向けるときも、決して正しさを押し付けず、自分が気になったところからでいい」と話す。
「自分の興味の『ちょっと外側』をのぞいてみると、意外な発見があるんです」という朝枝さん。最近では、娘に誘われて「タフティング(パンチニードル)」という毛糸を使ったアートを体験したという。興味はなかったが、やってみると楽しさが分かってきた。人とのつながりや偶然の出会いの中に、自分でも知らなかった好奇心や可能性が眠っているという。大切なのは、世界を少し広げてみる柔らかさ。その一歩が、地域や社会との新たなつながりを生んでいく。

巻き込まれる力、そして、続ける力

「巻き込まれると、いつの間にか中心にいる。それって洗濯機の真ん中みたいな感じ」と朝枝さんは言う。けれど、それはただの偶然ではない。自ら面白そうと思ったことには足を踏み入れ、誰かの声に耳を傾け、必要とされる場に自分を置いてきた結果だ。
一度始めたことを続けるには、根気もいるし、しんどいこともある。「疲れたら寝るのが一番。丸2日くらい眠れます」と笑うが、その裏には人と関わることの葛藤や繊細さもあるだろう。
真面目にやろうとするほど、視野は狭くなることもある。「だからこそ、少し力を抜いて、興味の枠を超えてみる」。人見知りである自分の性格も受け入れながら、巻き込まれることを楽しむのが、活動を続けていく秘訣といえる。

取材を終えて

朝枝さんは杉並で地域活動を始めると、さまざまな縁を通じて必ず出会う存在だ。数多くの地域活動に関する相談が持ち込まれているようだが、どんな活動にも優しく、親切に対応してくれる。活動していくにあたって心配や悩みを持つ活動者もいるだろうが、困ったら、ぜひ朝枝さんのいる協働プラザを訪れてほしい。ヒントが得られるはずだ。

「補助金についてのチラシもたくさんありますよ」と朝枝さん

「補助金についてのチラシもたくさんありますよ」と朝枝さん

朝枝晴美 プロフィール

杉並生まれ・杉並育ち。2002(平成14)~2003(平成15年)、区内の小学校でPTA会長を務める。2004(平成16)〜2005(平成17年)、杉並区社会教育センターに嘱託職員(会計年度職員)として勤務。社会教育に触れる。2005(平成17)〜〜2006(平成18)年、「すぎなみ大人塾」に受講生として参加。卒塾後、受講生同士のつながりを維持するコア団体の代表となり、現在も継続中。2006(平成18)年からNPO法人サービスフロンティアに入り、のちに代表に就任。2018(平成30)年、杉並区から「すぎなみ協働プラザ」の運営を受託。運営責任者を務める。

※利他:自己の利益を顧みず他人の利益のために行動すること。利己:自身の利益を優先して行動すること。

DATA

  • 取材:本橋結衣・アザラシ・フルイチユリエ(区民ライター講座)、水野二千翔
  • 撮影:水野二千翔
    取材日:2025年06月21日
  • 掲載日:2025年10月06日