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天野ひかりさん

荻外荘の玄関前に立つ天野さん。お気に入りの日傘を差して(撮影:やまかわけんいちさん)

荻外荘の玄関前に立つ天野さん。お気に入りの日傘を差して(撮影:やまかわけんいちさん)

アナウンサーの仕事で得た知識を広めたい

NHK「すくすく子育て」など多くのテレビ番組の司会を務めた、フリーアナウンサーの天野ひかりさん。さまざまな専門家と接し、学んだことを生かして立ち上げたNPO法人「親子コミュニケーションラボ」の代表理事でもある。子育てに関する講演も好評を博し、日々全国を飛び回りながら、執筆活動や区の委員としても活躍する天野さんに、生い立ちや仕事、活動などについて、荻外荘展示棟の1階にあるカフェで話を伺った。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>杉並の景観を彩る建築物>荻外荘展示棟

「1998(平成10)年から杉並に住んでいます」(写真提供:天野ひかりさん)

「1998(平成10)年から杉並に住んでいます」(写真提供:天野ひかりさん)

子供時代は頑張り屋でちょっと変な女の子?!

親が公務員で農業試験場(※1)の仕事をしていたので、農場が近くにあって自然が多い場所で育ちました。真っ黒に日焼けして、みんなを引き連れて野山を駆け巡って。スポーツ大会や運動会が大好きで、書道や絵も入選しなきゃ嫌だって、とにかく頑張り屋さんでいろんな賞をもらうことに命を懸けていましたね。習い事は、ピアノとお習字。塾というものが、この世に存在することすら知らずに生きていました。
小学校1年生の頃から、「私“は”食べる」と「私“が”食べる」ではどんな違いがあるのか、「おいしい」「おいしいわ」「おいしいでしょ」など語尾の使い方について興味を持っていました。母にどうやって学校での出来事を面白おかしく話そうか、お友達にしゃべってみて、どうやったら受けるか、相手の反応を見ながら話し方を試行錯誤していました。学校帰りに一人でブツブツ練習したりして、とっても変な子だったんです。

小学校で出張授業を行う天野さん(写真提供:天野ひかりさん)

小学校で出張授業を行う天野さん(写真提供:天野ひかりさん)

アナウンサーになった動機は、高校時代の悔しい思い出

小学校時代からずっと学校行事の司会と言えば、私でした(笑)。ところが高校生の時、当たり前のように運動会の練習で司会をしたら、ある先生から「お前の声は高すぎて聞き取りにくい」と司会役を降ろされてしまったんです。どうしよう、明日から学校に行けないわ!なんて思うほどすっごくショックでした。一方で「私がアナウンサーになったら、あの先生は認めてくれるだろうか」って考えたんですね。それが、この仕事を目指すきっかけになったんだと思います。負けず嫌いというか、壁にぶつかった時に闘志が湧くというか、若い頃はそんな性格でした。

産後も仕事を続けるつもりが...まさかの大誤算!

フリーアナウンサーになってからは7本のレギュラー番組を抱え、子供を産んでからも当然仕事を頑張っていくんだ!って思っていたんです。でも、生まれてみたら大誤算!もうね、本当にかわいい!「私、こんなにかわいい子がいるのに、どうして仕事しているんだろう」って、子供と離れるのが嫌でワンワン泣きました。
そして、子育てを優先すると仕事ができる時間帯も限られ、どんどん仕事がなくなっていったんです。そんな中、マネジャーさんにNHKの「すくすく子育て」ならやってみたいと言ったところ、すぐに仕事が決まり、ご縁をいただきました。番組を通して、さまざまな専門家の先生とお話しする機会が多くあり、それが私にとって本当に楽しく、充実した時間でした。

NHK「すくすく子育て」。左から、つるの剛士さん、天野さん、小児科医加部一彦さん(写真提供:天野ひかりさん)

NHK「すくすく子育て」。左から、つるの剛士さん、天野さん、小児科医加部一彦さん(写真提供:天野ひかりさん)

成長した娘さんとフランス旅行を楽しむ天野さん(写真提供:天野ひかりさん)

成長した娘さんとフランス旅行を楽しむ天野さん(写真提供:天野ひかりさん)

子育て世代に向けて立ち上げた「おやこみゅ」

「すくすく子育て」を通して、子育ての世界にどっぷりとはまってしまった私は、ここで得た知識を他のお母さんたちにも知ってほしいと、2008(平成20)年に仲間たちとNPO法人「親子コミュニケーションラボ」(通称「おやこみゅ」)を立ち上げました。
当初は子供向けのプログラムが中心だったんですが、3カ月後に変化が顕著に見られる子とそうでない子がいることに気が付いて、講座の内容を、毎日一緒にいる大人向けに作り直してみたんです。すると、あっという間に子供たちの表現方法に変化が表れました。言葉掛けのスキルや表現力を親子で身に付けて、楽しく幸せな子育てをしてほしいという願いで活動しています。
お母さんたちから、「うちの子変なことばっかりやって大丈夫でしょうか」とよく相談を受けますが、「ぜひ子供の好きなことを大事にしてほしい!」と伝えています。私自身がそうであったように、何がどう子供たちの興味関心につながっていくか分からないですから。

▼関連情報
NPO法人「親子コミュニケーションラボ」ホームページ(外部リンク)

アナウンサー時代に培った経験を生かして活動する天野さん(写真提供:天野ひかりさん)

アナウンサー時代に培った経験を生かして活動する天野さん(写真提供:天野ひかりさん)

「おやこみゅ」の様子。杉並区の子育て応援券を利用できる講座がある(写真提供:天野ひかりさん)

「おやこみゅ」の様子。杉並区の子育て応援券を利用できる講座がある(写真提供:天野ひかりさん)

多くの児童館を訪れて得た気付き「人が場をつくる」

私は区内を中心に児童館や図書館、区民センターなど、いろいろな場所で講座を開催するのですが、面白いことに、児童館の館長が変わった瞬間が分かります。内装が変わったとか、誰かとあいさつをした、というわけではなく、足を踏み入れて3、4秒ほどの空気や雰囲気で感じるんです。館長さんやスタッフの皆さんが、いかに来館する親子たちを大切にしているか、温かく迎えているか。そういう居心地の良さを提供する工夫が、それぞれの館長さんで違います。
私が「また行きたい」と思う場所には、「来た人が楽しめる場所にしたい」という人の思いが感じられます。場所をつくるのは、建物や景観もありますが、何よりも「そこにいる人」なんだと、この仕事をしていく中で得た気付きでした。

天野さんは「子供たちとの関わりは楽しくて元気をもらえます」と話す(写真提供:天野ひかりさん)

天野さんは「子供たちとの関わりは楽しくて元気をもらえます」と話す(写真提供:天野ひかりさん)

杉並区民は、杉並区のことが大好き

私が感じた杉並の印象は、人が優しいということと、杉並が好きな人が多いことです。私は杉並区の社会教育委員と郷土博物館運営委員をさせていただいているのですが、委員の方々から、その土地の歴史や成り立ちなどのお話を聞いていくと、杉並区の皆さんが自分たちの町や文化を守りたいという思いや、杉並を好きになっていく理由が分かったんです。私は委員として、そこで得た知識や情報を地域の皆さんにお伝えする橋渡しの役割をさせていただこうと思って活動しています。

カフェの荻窪三庭園(※2)MAP前に立つ天野さん(撮影:やまかわけんいちさん)

カフェの荻窪三庭園(※2)MAP前に立つ天野さん(撮影:やまかわけんいちさん)

大好きな言葉は「人生そんなに甘いよ」

好きな言葉は、絵本作家・五味太郎さんのお言葉で「人生そんなに甘いよ」です。よく「人生そんなに甘くない」という言葉を聞きますが、好きなことを一生懸命やっていたら応援してくれる人が必ずいる、誰かが助けてくれる、そんな社会になっていったらいいな、と思っています。
私は、日本の子供たちの自己肯定感を高めていきたい、と思って活動を続けてきました。自己肯定感というと、誤解する人もいます。「自信満々の人」「偉ぶってる」というイメージを持つ人もいますが、そうじゃない。自分のことをありのまま認めて、自分を好きでいられること。今は、国の調査(※3)で「今の自分に満足している」という項目を肯定する若者を、40%台から80%まで引き上げることが目標です。

「私生活での目標は素早く着物の着付けができるようになることです」(撮影:やまかわけんいちさん)

「私生活での目標は素早く着物の着付けができるようになることです」(撮影:やまかわけんいちさん)

取材を終えて

猛暑の中、美しい着物姿で登場し、取材中は「桜の下を人々がそぞろ歩きする」など美しい情景が思い浮かぶ表現や、ユーモアあふれる思い出話を交えるなど、幼い頃から備えていた日本語への強い興味と天性のホスピタリティーがその人柄に表れており、取材を忘れてしまうほど楽しく時が過ぎた。
取材の最後は、「二度と戦争を起こしてはならないという思いを強くする8月に荻外荘に伺えましたこと、感謝しております」と、丁寧な言葉で締めくくってくださった。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>公園に行こう>杉並区立荻外荘公園

荻外荘公園の芝生広場に立ち「ずっと戦後が続きますように」と語った天野さん(撮影:やまかわけんいちさん)

荻外荘公園の芝生広場に立ち「ずっと戦後が続きますように」と語った天野さん(撮影:やまかわけんいちさん)

天野ひかり プロフィール

1965年6月11日生まれ。愛知県岡崎市出身。上智大学文学部卒業後、アナウンサーとしてNHK「すくすく子育て」など多くの番組の司会を担う。NPO法人「親子コミュニケーションラボ」代表理事。親子のコミュニケーションや子供の自己肯定感に関する講演が人気を博し、聴講者は累計約6万人に上る。著書には、『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版)、『賢い子を育てる夫婦の会話』(あさ出版)、『子どもを伸ばす言葉 実は否定している言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

※1 農業試験場:農業技術や農産物の品種改良、土壌・肥料の分析など、農業に関する研究開発や調査、技術指導を行う機関。国立や都道府県立のものと、財団法人などが有するその他の農業試験場がある

※2 荻窪三庭園:区立大田黒公園、区立角川庭園、区立荻外荘公園

※3 内閣府が実施した「子供・若者の意識に関する調査 (令和元年度)」では、「今の自分に満足している」という項目を肯定した若者(13歳から29歳)は40.8%となっている。当調査は、2023(令和5)年にこども家庭庁へ移管された

リモートでの講演や講座依頼も増えているという(写真提供:天野ひかりさん)

リモートでの講演や講座依頼も増えているという(写真提供:天野ひかりさん)

『子どもを伸ばす言葉 実は否定している言葉』はAmazonのベストセラー(撮影:やまかわけんいちさん)

『子どもを伸ばす言葉 実は否定している言葉』はAmazonのベストセラー(撮影:やまかわけんいちさん)

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