入り口のさまざまな映画のポスターが、映画好きを引き付ける
「地元での日常生活の中でスクリーンで映画を楽しめたら」。そんな願いをかなえてくれるのが阿佐谷にあるミニシアターMorc(モーク)阿佐ヶ谷だ。日に10作品ほどが2スクリーンで上映され、タイムスケジュールは週単位で入れ替わる。阿佐ケ谷駅北口より徒歩約3分と、買い物など普段の外出ついでにふらっと立ち寄れる気軽さは地元の映画館ならではだ。
封切館でない二番館のため、他のミニシアターで上映された作品が多いが、洋画・邦画を問わず上映機会の少ない作品、洋画のリマスター版、アニメーション、B級ホラーなどのマニアックな作品も上映される。監督・俳優等の特集上映も随時企画され、アート作品とエンタメ作品が取り混ざったラインナップが映画好きの心をつかんでいる。難解さで有名なアンドレイ・タルコフスキー監督作品と特撮怪獣映画「ガメラ」、対極にある映画が過去上映リストに並び、支配人の趙子男(チョウ シナン)さんは「カオスな映画館」と笑う。
2021(令和3)年7月に、地下1階に1スクリーン「Morcシタ」(席数41)が開館。2024(令和6)年1月には、1階にスクリーン「Morcウエ」(席数70)が追加され、上映作品の幅が広がった。
「さまざまな年代の人が楽しめるように、作品選びはバランスが大切です。エンタメ要素の強い作品からアート系の作品まで、偏らないように選んでいます。加えて最近はここでしか見られない特集が増えています」と趙さん。2024年9月の、知られざるソビエト連邦の映画監督レオニード・ガイダイ監督特集は、ロシア語関係者から直接企画が持ち込まれて実現し、貴重なソビエト連邦時代のコメディーが日本での劇場初公開となった。「社会性のあるドキュメンタリーに関心が高い観客も多く、要望に応えるような作品も上映してきました。今後も上映作品選びで冒険ができたらよいです」と趙さんは抱負を語る。ますます引き出しの多い映画館になりそうだ。
「Morcウエ」は指定席、「Morcシタ」は整理番号順の自由席だ。タイムスケジュールなどは公式ホームページで確認できる。
時間に余裕があるなら、早めに訪れてロビーでくつろぐのもおすすめだ。中央にはどっしりとした存在感のある切り株形のテーブルが置かれ、周りに椅子が配されている。開場を待つ間、飲食や読書などでゆったりと過ごすことができる。テーブル中央には生花が飾られ、ロビーの心地よさを演出している。「花に一番費用をかけている映画館かもしれないです」と趙さん。インテリアへのこだわりは相当なものだ。
書棚には、過去に上映した作品の関連書籍が並び、閲覧自由だ。観客が寄付した映画のパンフレットも多数置かれ、観客との距離の近さを感じる。ロビーの壁には、上映作品をイメージしたイラストが描かれ、来場者の目を引く。スタッフの自作で、チョークで3日ほどかけて描き上げるとのこと。
「阿佐ヶ谷飲み屋映画」をご存じだろうか。出演者のほとんどが阿佐谷の飲み屋の店主とその客で、スタッフも全員が杉並区民というユニークな自主制作映画だ。2022(令和4)年から1年に1本のペースで制作され、第2作「ファンタ」からはMorc阿佐ヶ谷で上映している。阿佐谷愛が充満する100%杉並メイドの作品だ。
「第2作の完成時に関係者が営業に来ました。画質と音響が大画面に耐えられるか心配しましたが、この映画は地元で上映することにこそ意味があると、公開を決断しました」と趙さんは上映のいきさつを語る。4日間限定の上映だったが、関係者の友人・知人が駆け付けて毎回満席となり、当時の劇場平均動員数記録を樹立した。第4作の「ぼー約聖書」も完成し、2025(令和7)年6月6日から19日まで上映された。