杉並ユネスコ協会

国際交流の場、ユネスコ教室。世界各地からの参加者が集う(撮影:2019年8月 写真提供:杉並ユネスコ協会)

国際交流の場、ユネスコ教室。世界各地からの参加者が集う(撮影:2019年8月 写真提供:杉並ユネスコ協会)

ユネスコの理念の実現を目指して

世界遺産でおなじみのユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は、1946(昭和21)年に設立された国連の専門機関だ。杉並区に「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」というユネスコ憲章の理念にのっとり活動している団体があることをご存じだろうか。1951(昭和26)年9月に、ユネスコに協力する地域民間団体として、東京都内で最も早く結成された杉並ユネスコ協会(以下、杉並ユネスコ)だ。日常の生活の中にユネスコの掲げる平和精神を取り入れ、地域から世界へ平和の文化を広めることを目的としている。成人が対象の一般関連事業と青少年関連事業に分かれ、教育・文化・科学を中心としたさまざまな活動を通して「草の根からの平和」を願うメッセージを発信し続けてきた。

平和を考えるバスツアー。水爆実験で被ばくした第五福竜丸の展示館を訪問(撮影:2020年11月 写真提供:杉並ユネスコ協会)

平和を考えるバスツアー。水爆実験で被ばくした第五福竜丸の展示館を訪問(撮影:2020年11月 写真提供:杉並ユネスコ協会)

ユネスコ料理教室でギリシャ料理に挑戦。講師の話も楽しみ(撮影:2017年2月 写真提供:杉並ユネスコ協会)

ユネスコ料理教室でギリシャ料理に挑戦。講師の話も楽しみ(撮影:2017年2月 写真提供:杉並ユネスコ協会)

世界に目を向け、未来を見据える多彩な活動

一般関連事業には、ユネスコのつどい(※1)、文化講座、ギャラリーツアー(※2)、各国料理教室、親子科学教室などがある。青少年関連事業には、中学生クラブ、ユネスコ教室(※3)、国際交歓会、広島へのスタディーツアーなどがある。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟(※4)が進めるユネスコ世界寺子屋運動(※5)の支援や、小学校へ出向いての平和の授業なども注目したい活動だ。多彩な活動の中には、1963(昭和38)年から始まり、現在まで続いているインターナショナルスクール(当初はアメリカンスクール)訪問のように息の長い事業も多く、杉並ユネスコ副会長の西野裕代さんは「杉並ユネスコは、活動を長年続ける持続性がすごい」と活動を評している。さらにSDGs(持続可能な開発目標)や貧困などにも取り組み、啓発のための講演会を開催している。「目指しているのは、誰もが取りこぼされない平和な社会です」と杉並ユネスコ会長の佐藤直子さんは、理想とする世界像を語る。

大和ハイスクール(アメリカンスクールの学校名)訪問。活動は学校を変え続いている(撮影:1967年11月 写真提供:杉並ユネスコ協会)

大和ハイスクール(アメリカンスクールの学校名)訪問。活動は学校を変え続いている(撮影:1967年11月 写真提供:杉並ユネスコ協会)

セントメリーズ・インターナショナルスクール訪問。記念のTシャツを手に(撮影:2019年4月 写真提供:杉並ユネスコ協会)

セントメリーズ・インターナショナルスクール訪問。記念のTシャツを手に(撮影:2019年4月 写真提供:杉並ユネスコ協会)

活動を支える杉並区との連携

「杉並ユネスコの特徴は、杉並区との協力関係にもあります」と佐藤さん。主な事業は杉並区教育委員会との共催で、教育委員会事務局生涯学習推進課と連携して活動を行っている。杉並区との緊密な結びつきにより70年を超える長きにわたり活動を続けてきたそうだ。
設立の背景には、杉並区からの働きかけがあった。杉並区初代公選区長(※6)の新居格(にいいたる 在職1947.4-1948.4)はユネスコ運動の熱心な推進者であり、公教育を重視していた第2代公選区長の高木敏雄(在職1948.5-1957.10)は設立を後押しし、初代の委員長を務めた。以後2名の区長が同職に就き、1967(昭和42)年に民間会長制に移行(これを機に委員長は会長に変更)した後も、杉並区長と教育長が顧問として名を連ね、パートナーシップが続いている。

講演会「テレジン収容所の若き画家たち」のチラシ。杉並区教育委員会との共催事業(写真提供:杉並ユネスコ協会)

講演会「テレジン収容所の若き画家たち」のチラシ。杉並区教育委員会との共催事業(写真提供:杉並ユネスコ協会)

子供たちが楽しく学ぶ中学生クラブ

杉並区在住・在学の中学生が対象の中学生クラブは、英会話とさまざまなゲストスピーカーによる国際理解講座を通して、異文化理解を深めることが目的だ。高校生と大学生主体の青年部も企画・運営に携わっている。活動期間は1年単位で、希望者は更新継続できる。パーティーや野外活動も企画され、学校の枠を超えた交流の場でもある。
杉並ユネスコの許可を得て活動を見学した。英会話は学年ごとに分かれて行われ、子供たちがリラックスして英語でのコミュニケーションを楽しんでいる様子が伝わってきた。国際理解講座は、インターナショナルスクールの教師による道徳の授業。正解のない問いに対して話し合い、判断を発表する内容だ。参加者の2名に話を聞いてみたところ、共に「活動は楽しく、次年度も参加したい」と意欲を語ってくれた。「中学生クラブの参加者がユネスコ協会に興味を抱き、青年部から一般事業部へと活動を続けることもあります」と西野さん。ユネスコの理念は、楽しく学ぶことを通して、次世代に引き継がれているようだ。

講師の問いかけに、真剣に思索し答えを導き出す子供たち

講師の問いかけに、真剣に思索し答えを導き出す子供たち

広島スタディーツアーで、現地の学生と意見交換(写真提供:杉並ユネスコ協会)

広島スタディーツアーで、現地の学生と意見交換(写真提供:杉並ユネスコ協会)

※記事内、故人は敬称略
※1 ユネスコのつどい:設立翌年の1952(昭和27)年から例年11月に開催している、ユネスコの精神を広く伝え、協力を呼び掛ける事業。講演会・シンポジウム・コンサートなどが催される
※2 ギャラリーツアー:年1~2回、国内の文化遺産や美術館を訪問するツアー
※3 ユネスコ教室:1962(昭和37)年より例年夏休みに開催されている。主に中学生を対象とした外国人とのキャンプを含む約1週間の国際交流プログラム
※4 公益社団法人日本ユネスコ協会連盟:1948(昭和23)年に設立された、全国のユネスコ協会の連合組織
※5 ユネスコ世界寺子屋運動:開発途上国に寺子屋(学びの場)を作り、多くの子供や成人に教育を受ける機会を提供しようという運動
※6 公選区長:1947(昭和22)年に東京23区(特別区)が誕生し、区長は公選になった

年3回発行される会員向けの「杉並ユネスコ協会会報」(写真提供:杉並ユネスコ協会)

年3回発行される会員向けの「杉並ユネスコ協会会報」(写真提供:杉並ユネスコ協会)

DATA

  • 出典・参考文献:

    『70周年記念誌 10年の軌跡(2012-2021年)』(杉並ユネスコ協会70周年記念誌編集委員会編)
    『杉並ユネスコ30年のあゆみ』(杉並ユネスコ協会編)
    「杉並ユネスコ協会「平和の文化」構築への地域からのとりくみ」(林美紀子「平和と社会教育」掲載)

  • 取材:村田理恵
  • 撮影:村田理恵
    写真提供:杉並ユネスコ協会
    取材日:2022年08月05日、2022年11月12日
  • 掲載日:2023年03月27日