中央線ドロップス

著:元町夏央(双葉社)

JR中央線お茶の水駅から高尾駅間のうち6駅が舞台になった短編連作漫画。それぞれの駅で、年齢も性別も異なる人物が中心となり話が展開していく。心がすれ違った夫婦、夜の仕事をする母親と2人で暮らす少女、新興宗教にのめり込む彼女との関係に悩む高校生などの物語だ。彼らの繊細な気持ちや揺れる心、胸に刺さる人間模様が力強いタッチでリアルに描かれている。登場人物の誰かに共感したり、実体験と重なったりする部分が見つかるのではないだろうか。
全話を通して、人物の後ろには中央線沿線のローカルな風景が細かく描かれている。地元の人ならば知っているであろう場所が出てくるので、親しみを持たずにはいられない。カバーを外すと本体の表紙に、登場人物たちの足跡をたどれる地図が書かれている。
著者は杉並区出身で奈良県東吉野村在住の漫画家・元町夏央さん。本書は2009(平成21)年に出版された、人間ドラマの描写を得意とする元町さんの初の単行本である。

著者インタビュー

西荻窪で生まれ育ったので中央線は本当によく利用していました。2話の冒頭に描いた飲み屋さんの通りには、父の行きつけの焼き鳥屋さんがありました。祖母には阿佐谷七夕まつりに連れて行ってもらいましたし、「小ざさ」(吉祥寺)のもなかは今でも母が送ってくれるんですよ。私にとってなじみの光景や子供のころの体験が、漫画の端々に自然と出てきています。
この本は、いろいろな人たちの人間関係を中央線というテーマで1本につなげて書いた漫画です。漫画に出てくるその風景も楽しんでいただけたらうれしいです。

おすすめポイント

舞台となる駅や町の風景、実在する店が登場するのも見どころだ。第2話、西荻南口仲通り商店会のアーケードに立つ高校生れなの頭上にあるのは、地元で愛されているキャラクター「ピンクの象」。第3話では、日向子が同棲中の隼人を誘って「阿佐谷七夕まつり」に出かけるシーンがあり、祭りの風景とともになみすけのはりぼても描かれている。また、本来は入れない中央線の高架だが、漫画の中では隼人がひとりで考え事をするときの特別な場所。初めて一緒にのぼった日向子の肩越しには、阿佐谷パールセンター商店街の入り口が見える。

▼関連情報
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著者もよく目にしていたという、商店街のアーケードに吊るされている「ピンクの象」。第2話「西荻の象」に登場する

著者もよく目にしていたという、商店街のアーケードに吊るされている「ピンクの象」。第2話「西荻の象」に登場する

DATA

  • 取材:山ざきともこ
  • 撮影:たんポポ
  • 掲載日:2022年01月11日