トトロの住む家 増補改訂版

著:宮崎駿(岩波書店)

アニメーション映画監督の宮崎駿さんが、アニメ「となりのトトロ」に登場する森の主、トトロが喜んで住みそうな懐かしい家を訪ねた記録。「古い家が、次々と姿を消す東京にいると、自分たちの少年時代が歴史から消えてしまうような心細さを感じる。せめて記録にとどめられないかと始めた」と本書に記している。
宮崎監督が仕事の合間に散歩していて見つけたという、JR中央線の高円寺駅から吉祥寺駅の間にあった6軒を紹介。各家を訪問して、持ち主から建物とそこで暮らしてきた人々にまつわる思い出を聞き取っている。
写真のほか、美しいスケッチ画が添えられているのも見どころ。大正末期から昭和初期に建てられた趣ある家と、生き生きと育つ庭の草木が、ラフな感じでありながら丁寧に描かれており、本の中に「となりのトトロ」の世界が広がっているようだ。

おすすめポイント

本書は「月刊Asahi」1991(平成3)年2月号~8月号の連載をもとに同年出版された本の改訂版。1軒目の家「東京都・杉並区阿佐谷・Kさん宅」が、後に公園「Aさんの庭」に生まれ変わるまでの詳しい経緯が増補されている。
宮崎監督が「たからもの……、そう表現するのが一番ふさわしい」と述べたKさん宅は、オレンジ色の洋瓦が目を引く1924(大正13)年築の洋風の文化住宅で、クヌギやツツジなど輝くばかりの緑に包まれていた。ところが、この家の保存のため区が敷地を買い上げて公園にする計画が進んでいた矢先、不審火で家が全焼してしまう。宮崎監督は「とても放っておけない」と何回か現地に足を運び、公園のアイデアをイメージスケッチに描いて区に提案した。これが承認され、2010(平成22)年7月25日、「Aさんの庭」の開園に至った。
本書に掲載されているイメージスケッチを見ると、公園の建設に宮崎監督のプランが生かされていることが良く分かる。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>公園に行こう>Aさんの庭

「Aさんの庭」(阿佐谷北5-45-13)には、Kさん宅の間取りを解説する「旧近藤邸概要」が設置されている

「Aさんの庭」(阿佐谷北5-45-13)には、Kさん宅の間取りを解説する「旧近藤邸概要」が設置されている

火災後も残った住宅の土台

火災後も残った住宅の土台

DATA

  • 取材:西永福丸
  • 撮影:西永福丸
    取材日:2021年09月16日
  • 掲載日:2021年12月13日