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耕せど耕せど-久我山農場物語

著:伊藤礼(東海教育研究所)

1933(昭和8)年生まれの英文学者・伊藤礼氏が、久我山の自宅にある農場で奮闘した日々をつづったエッセイ。2011(平成23)年7月から翌12月まで、農作業の様子や実った作物などを月ごとに紹介している。
農場の広さは約13m×約3mで、伊藤氏は「平たく言うと家庭菜園」と記す。そのような規模ながら、6月にはチンゲンサイ、レタス、シュンギクなど約10種類の野菜が育ち、フレッシュな緑の葉が食卓に彩りを添える。朝食時、窓から農場を眺めながら採れたての作物をほおばるシーンは実においしそうだ。3月には手押しの耕運機をダダダと操り土を耕し、9月にはプラスチック箱に土と水を入れて泥田状態にし、クワイの栽培に挑戦するなど、80歳近い年齢を感じさせない行動力に感服する。一方で、サツマイモを育つままにしたため農場全体がツルと葉に覆われる事態にも陥るが、「現在、当家農場はサツマイモに支配されている」とユーモラスに報告する失敗談も楽しい。

おすすめポイント

サツマイモのエピソードにちなみ、父で小説家の伊藤整氏の思い出が語られている。戦後の食糧難の折、執筆が忙しい父に代わり、まだ小・中学生だった礼氏が家族のためにサツマイモを栽培。父の原稿を取りに来る編集者にもふるまい、喜ばれたそうだ。
本書の最後には、父の書斎で「戦時農場の設計」と題された資料を見つけた話があり、来年はこの計画に沿って農場を運営したいと締めくくられている。戦時中に東京都が野菜の自家生産を奨励するために発行した資料で、どのように一年中野菜を絶やさず作れるよう計画されていたか、伊藤氏による熱心な解説が興味深い。杉並で家庭菜園を作る際の参考にもなる。

▼関連情報
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DATA

  • 取材:西永福丸
  • 掲載日:2021年10月04日