無礼講の酒に集う カルヴァドスの会

著:大石よし子 

1949(昭和24)年から1983(昭和58)年まで、西荻窪にある洋菓子とフランス料理の店「こけし屋」を舞台に文化人が交遊を深めた集い「カルヴァドスの会」の記録本。「こけし屋」創業者・大石總一郎(そういちろう)氏の妻よし子氏が、参加者に配られた会誌「カルヴァドス通信」(以下、「通信」)のうち現存する33部と写真約800枚を基にまとめた。区立図書館で閲覧できる。
会の参加者は主に中央線沿線に住む文化人で、初代会長・石黒敬七氏(柔道家)、二代目会長・田辺茂一氏(紀伊國屋書店創業者)をはじめ、小松清氏(仏文学者)、田河水泡氏(漫画家)、林家木久扇氏(落語家)ら、多彩な顔ぶれがそろっていた。本書に掲載されている「通信」や写真を見ると、彼らがいかにこの会を愛していたかがうかがえる。よし子氏もあとがきで「著名人達の偉業は、名前と作品と顔写真とで残されるけれども、そこには生きて動いている姿はない。だからこの貴重な姿を著者は是非残しておきたかったのである」と述べている。

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おすすめポイント

歴代の会の写真には、グラスを掲げて談笑する参加者たちのごきげんな姿があり、文化人の素顔を知る思いだ。「カルヴァドス」はフランスのノルマンディー地方で造られるリンゴのブランデーのこと。戦後間もなく開催された初回の会では、高価だった本物のカルヴァドスの代わりに、焼酎にぶどう酒を混ぜた酒を酌み交わしたという。
1967(昭和42)年頃からはテーマを決めて開催する形式に変わり、今井田勲氏(「装苑」編集長)の協力でファッションショーをしたり、青木一雄氏(NHKアナウンサー)の司会でチャリティーオークションをしたりと、趣向を凝らしてイベントを楽しんでいた様子が紹介されている。
「通信」に寄せられた会員の近況報告も読み応えがある。棟方志功氏(版画家)の制作状況、森繁久彌氏(俳優)の公演情報のほか、旅行の感想、個展のお知らせなど、各人の当時の活動がわかる。それぞれの分野を究めた文化人が書いているだけあって、どの文章も魅力的だ。

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1956(昭和31)年発行の「カルヴァドス通信」(写真提供:中央線あるあるPROJECT)

1956(昭和31)年発行の「カルヴァドス通信」(写真提供:中央線あるあるPROJECT)

DATA

  • 取材:西永福丸
  • 撮影:写真提供:中央線あるあるPROJECT
  • 掲載日:2021年03月22日
  • 情報更新日:2022年12月26日