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西村眞一さん

善福寺公園探鳥会で解説する西村さん(写真提供:西村眞一さん)

善福寺公園探鳥会で解説する西村さん(写真提供:西村眞一さん)

野鳥と古地図の専門知識で地域貢献

日本野鳥の会東京・幹事の西村眞一(にしむら しんいち)さんは、長年、第一線で活動している野鳥観察の専門家だ。特に都立善福寺公園をフィールドとした野鳥写真家として名を知られ、テレビ、ラジオ、書籍など各種メディアに登場しながら、杉並区内の野鳥の魅力を全国に発信している。1982(昭和57)年からは日本野鳥の会東京主催の「善福寺公園探鳥会」で案内人を務め、野鳥を通した自然教育に携わってきた。
また、主に明治から昭和にかけて発行された古地図・古絵葉書の収集家でもあり、自らのコレクションを活用した学習会で講師を務めるなど、地域の歴史研究に協力している。
両分野での西村さんの活躍を紹介したい。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>公園に行こう>都立善福寺公園
日本野鳥の会 東京(外部リンク)

西村眞一さん

西村眞一さん

皇居の門柱工事でキジに出会う

西村さんは1953(昭和28)年、阿佐ヶ谷6丁目(現下井草1丁目)に生まれた。父方も母方も、祖父の代から左官業を営む家系で、高校卒業後は自然に家業を継ぐ道を選んだという。区の技能功労者を親子二代にわたって受賞しており、「僕は左官のサラブレッドだから塗るのがうまいのは当然だよ」と冗談交じりにニッコリほほ笑む。
野鳥に興味を持ったのは、左官の仕事を始めて間もない20代の頃。皇居内の門柱工事をした際にキジを見かけたことが、きっかけだったそうだ。以来、忙しい仕事の合間を縫って各地に出掛けバードウォッチングに没頭してきた。
そんな西村さんが、とりわけ力を入れてきたのが区内の野鳥観察を通した自然教育活動だ。1999(平成11)年、杉並区広報課制作のビデオ「杉並の野鳥」で解説を担当したのをはじめ、2018(平成30)年に東京都の広報番組「東京サイト」、2019(令和元)年に区の広報番組「すぎなみスタイル」に出演するなど、積極的に善福寺公園の野鳥を紹介してきた。また同年、都内全郵便局で販売された「東京の野鳥」切手セットに、区内で撮影したカワセミなど写真7点を提供している。

▼関連情報
すぎなみスタイル令和元年度18号(YouTube杉並区公式チャンネル)「バードウォッチングを楽しもう」(外部サイト)

左官職人として、2018(平成30)年に日本建築仕上学会学会賞・技能賞、(公社)日本建築士会連合会・伝統的技能者表彰、杉並区技能功労者表彰の3賞を受賞

左官職人として、2018(平成30)年に日本建築仕上学会学会賞・技能賞、(公社)日本建築士会連合会・伝統的技能者表彰、杉並区技能功労者表彰の3賞を受賞

「東京の野鳥」切手セットに提供した善福寺公園のカワセミの写真(写真提供:西村眞一さん)

「東京の野鳥」切手セットに提供した善福寺公園のカワセミの写真(写真提供:西村眞一さん)

杉並の野鳥の魅力を写真で伝え続ける

杉並の四季の自然の中で多彩な表情を見せる野鳥の写真撮影は、西村さんのライフワーク。2019(令和元)年10~12月には区立郷土博物館分館にて、野鳥図鑑画家・谷口高司さんと共に区民参加型展示「野鳥」を開催。野鳥の生態や特徴を、長年の撮影作品の中から多数紹介した。「もちろん北海道など大自然に足を運べば、野鳥はたくさん見られます。しかし、その気になって見渡せば、杉並にも約60種の野鳥がいる。まずは遠くの鳥より近所の鳥に興味を持ってほしいのです」
また「すぎなみ学倶楽部」区民ライターとして、区内で観察できる野鳥を紹介した46記事を執筆。野鳥の一瞬の表情をとらえた写真と詳しい解説が好評を得ている。野鳥撮影のコツを尋ねると、「一言でいえば鳥に嫌われないこと。心構えとして巣作り中の鳥にみだりに近づいたりせず、鳥の生活を乱さないことが大切ですね」と、鳥への愛情がにじむコメントが返ってきた。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 自然>野鳥

区民参加型展示「野鳥」のギャラリートーク

区民参加型展示「野鳥」のギャラリートーク

カンザクラの枝にとまるメジロ。善福寺公園にて撮影(写真提供:西村眞一さん)

カンザクラの枝にとまるメジロ。善福寺公園にて撮影(写真提供:西村眞一さん)

野鳥観察と古地図の接点

西村さんは、日本野鳥の会の創設者・中西悟堂(なかにし ごどう 1895-1984)に関する研究の第一人者でもある。「悟堂は戦前、善福寺池のほとりに住み、日本でのバードウォッチングの基礎を作った杉並にゆかりのある人物で、“野鳥の父”と呼ばれています。戦後の野鳥保護運動にも尽力した悟堂の生き方を後世に伝えたい」と熱心に語る。2011(平成23)年には「ラジオ深夜便」(NHKラジオ第1放送)に出演し、4日連続で「野鳥の父と私」と題して講話。また同年、区立郷土博物館分館で開催された「野鳥の父・中西悟堂と善福寺池」にて、悟堂に関わる所蔵品コレクションの提供や基調講演を行うなど、研究・発信に取り組んでいる。
古地図や古絵葉書を集め始めたのは、悟堂の研究が発端だった。戦前の善福寺池周辺の地形を調べたり、悟堂が歩いた都内の足跡をたどったりしているうちに、当時の風景を追体験したいとの思いから、いつの間にか多数の地図や絵葉書を手元に集めていたという。「とにかく僕は好奇心旺盛。一つの興味が四方八方に広がっていくため、仲間からは“七つの顔を持つ男”と呼ばれています」と笑う。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 ゆかりの人々>知られざる偉人>中西悟堂さん

2011年9⽉10⽇〜2012年2⽉5⽇に開催された「野⿃の⽗・中⻄ 悟堂と善福寺池」展のチラシ(2011年12⽉11⽇までの予定だったが 好評につき会期が延⻑された)

2011年9⽉10⽇〜2012年2⽉5⽇に開催された「野⿃の⽗・中⻄ 悟堂と善福寺池」展のチラシ(2011年12⽉11⽇までの予定だったが 好評につき会期が延⻑された)

西村さん所蔵の古絵葉書。1923(⼤正12)年 、東京⼥⼦⼤学東⻄寮建築中の様⼦。後ろに当時の善福寺池周辺が写っている(写真提供:西村眞一さん)

西村さん所蔵の古絵葉書。1923(⼤正12)年 、東京⼥⼦⼤学東⻄寮建築中の様⼦。後ろに当時の善福寺池周辺が写っている(写真提供:西村眞一さん)

面白いことは、みんなと共有したい

「野鳥の珍しい生態を撮影できた瞬間や、貴重な資料を入手した時、まず“みんなに知らせたい”という思いがよぎります。面白いと感じたことは独り占めしないで周りの人と共有したいですね」
自分の知識やコレクションを地域の社会教育にどんどん役立てたいと、古地図・古絵葉書収集家の肩書で地域区民センターの歴史講座の講師を務め、軽妙な語り口で杉並の街並みの変遷を紹介してきた。また2000(平成12)年から、区立郷土博物館の展示に多数の資料を提供。2020(令和2)年6~7月の本館企画展「すぎなみの地域史Ⅲ 井荻」には大正時代の地図「井荻村区画整理予定図」、同年6~8月の分館企画展「杉並の高校野球 春夏熱闘の記憶」には日本大学第二高等学校の歴史紹介資料として所蔵の古絵葉書が展示された。
地域の歴史家として学芸員からも頼りにされる西村さん。「まだまだ区民の皆さんに紹介したい秘蔵の“隠し玉”がありますよ」と、いたずらっぽく目を輝かせた。

取材を終えて
「すぎなみ学倶楽部」で歴史記事を執筆した際に、西村さんの古地図の知識に何度も助けていただいた。私も大正・昭和の杉並の風景を追う記者の一人として、飽くなき探求心を見習いたい。

西村眞一 プロフィール
1953年、杉並区生まれ。元(財)日本野鳥の会理事。日本野鳥の会東京幹事。野鳥写真家として著述、講演、メディア出演多数。中西悟堂研究家。古地図・古絵葉書収集家。一級左官技能士。厚生労働省ものづくりマイスター。二級建築施工管理技士(仕上げ)。ものつくり大学建設学科非常勤講師。東京都左官職組合連合会副会長、同・杉並支部長。1998年、第34回全国左官技能競技大会に東京代表で出場し努力賞受賞。

2019(平成31)年、杉並区役所1階で開催の「善福寺川「水鳥の棲(す)む水辺」創出事業パネル展」に提供した野鳥写真の前で

2019(平成31)年、杉並区役所1階で開催の「善福寺川「水鳥の棲(す)む水辺」創出事業パネル展」に提供した野鳥写真の前で

希少な古地図「井荻村区画整理予定図」(資料提供:西村眞一さん)

希少な古地図「井荻村区画整理予定図」(資料提供:西村眞一さん)

DATA

  • 出典・参考文献:

    「日左連 2018年11月12月号』(一般社団法人 日本左官業組合連合会)
    「ラジオ深夜便 2012年2月号」(NHKサービスセンター)
    「中西悟堂生誕120年 野鳥の父、中西悟堂をめぐる人々」(杉並区立郷土博物館)

  • 取材:内藤じゅん
  • 撮影:内藤じゅん
    写真提供:西村眞一さん
    取材日:2020年07月09日
  • 掲載日:2020年08月11日