岩崎尽真さん

水中でダイナミックに躍動する岩崎さん

水中でダイナミックに躍動する岩崎さん

「ウォーターボーイ」ここにあり

水中で音楽に合わせて身体表現を行い、技の完成度・同調性・技術的表現力などを競うスポーツ、アーティスティックスイミング (※1 以下AS)。2015(平成27)年の世界選手権から、男女がペアで競技を行うミックスデュエットが正式種目になり、男子にも世界で活躍する道が開けた。
男子選手はまだ少数だが、杉並にもASに取り組み、将来を期待されている選手がいる。岩崎尽真(いわさきじんま)さん15歳、杉並区立高南中学校の3年生だ(取材時)。2018(平成30)年7月にハンガリーのブダペストで開かれた「第16回 FINAジュニア世界選手権大会」では、ミックスデュエットのテクニカルルーティーン(※2)、フリールーティーン(※3)ともに銅メダルを獲得している。
この取材に際し、早朝の杉並第十小学校温水プール(以下、杉十小プール)で演技を見せてもらった。まずは準備体操。体をほぐす岩崎さんの関節のやわらかさが目を引く。水中での演技では、ダイナミックな動きに、手足の先端にまで神経を配る繊細な表現が加わり、ASの魅力が伝わってきた。
「ウォーターボーイ」という呼称がふさわしい岩崎さんに話を伺った。

演技前、プールサイドで

演技前、プールサイドで

指先の表現も競技の大切な要素

指先の表現も競技の大切な要素

水中での表現に魅せられて

岩崎さんは小学6年生の時に、杉十小プールで開催された小学生を対象としたAS教室に参加したことがきっかけで、競技を始めた。元々踊ることは好きでヒップホップダンス(※4)をしていたので、面白そうだからやってみようという気持ちで参加したとのこと。小学3年生からスイミングスクールに通い、水には親しんでいたが、ASは初体験だった。
教室は全20回、毎週通ってASの基礎を学んだ。「競泳より移動範囲が広くて、水中で音楽に合わせて身体を動かすことができるのが楽しい」と、次第に競技に夢中になっていった。練習の中で一番難しかったのは、足を垂直に上げる動作だったという。当時は必要な筋力がまだついていなかったため、習得に苦労したそうだ。

ヒップホップ少年岩崎さん、派手な衣装でポーズを決める(写真提供:岩崎さん)

ヒップホップ少年岩崎さん、派手な衣装でポーズを決める(写真提供:岩崎さん)

経験を重ねて成長中

本格的に競技に取り組んだのは、杉十小プールのAS教室終了後に、教室の講師に誘われてASのクラブ「楓心舘」(ふうしんかん)に入ってから。クラブは、当時から現在まで岩崎さんが唯一の男子。女子と一緒にチーム演技の練習から始めて、ソロ、デュエットと少しずつ新しい種目に挑戦し、演技の幅を広げていった。
技を習得する以外の苦労についても話してもらった。「競技を始めた時は、体重を増やし、筋肉をつけるため、たくさん食べなければならないのが苦しかったです。単に増量するのではなく、スッとしたきれいな筋肉が必要なんです」。トップ選手を目指すためには、理想の身体づくりも必要のようだ。また、男子選手が少ないため、競技環境が充実していない部分もあるという。試合会場に更衣室が無く、救護室で着替えることもあったとのこと。トイレでの着替え体験のある男子選手もいるそうだ。そんな苦労はあるが、岩崎さんは自分の成長を楽しみながら競技を続けている。「難しい技ができたり、一曲泳ぎきった時の達成感がたまらなく好き」と、ASで得られる喜びを教えてくれた。

開脚を難なく決める身体の柔らかさ

開脚を難なく決める身体の柔らかさ

水上では表情も大切

水上では表情も大切

選手活動の裏に母親の支えあり

競技を続けるのに欠かせないのが母親の岩崎あずささんのサポートだ。あずささんにも話を伺った。疲れて朝起きられないこともあるという岩崎さんの体調管理に、常に心を配っているとのこと。「食事には気をつけています。筋力をつけるためにタンパク質を多く取れるメニューを考えています」。競技会の衣装も、あずささんの手作りだ。鮮やかな色の生地に、スパンコールをちりばめた飾りが映える。デザインは曲に合わせて考えているという。「男子は衣装が水中に隠れることが多く、細かい柄だと遠くから見えづらいので、大柄で派手なくらいがいいんです」。衣装を身につける息子の岩崎さんが成長期にあることでの悩みもある。「型紙どおりに作っても、できた頃には小さくなっていることもあります」とあずささんは語る。

華やかな衣装には母親の思いが込められている

華やかな衣装には母親の思いが込められている

夢は大きく世界へ

2018(平成30)年、ジュニア世界選手権大会でもミックスデュエットが正式種目になり、岩崎さんの世界への挑戦が始まった。同年3月の選考会で出場選手に選ばれた後、高校2年生の宮内花菜(かな)さんと初めてペアを組んだ。
シニア選手に混じって出場した4月の「第94回 日本選手権水泳競技大会/JAPAN OPEN 2018」では、テクニカルルーティーンで4位と健闘。そして、7月の「第16回 FINAジュニア世界選手権大会」で、見事銅メダルを獲得した。
現在は日本水泳連盟の強化選手に選ばれ、強化合宿にも参加し、レベルアップに取り組む日々が続く。学校の授業より合宿を優先するため、勉強が遅れがちだか、理解ある教師が多く助けられているとのこと。「もっと実力をつけ、世界選手権で成績を残して競技の知名度をあげたいです。将来は、ミックスデュエットがオリンピックの競技種目にもなればいいなと思います」と語る岩崎さん。そのまなざしは、世界を見据えている。

取材を終えて
まだ15才の岩崎さん。うまく話を引き出せるか少々不安だったが、質問に対して丁寧かつよどみなく答えてくれて、ASへの熱い思いが伝わってきた。素顔は、スマートフォンのアプリゲームが好きな中学生だが、ひとたび水に入ると成長中のアスリートに変身し、観客を魅了する。将来が楽しみだ。

岩崎尽真 プロフィール
2003年12月2日杉並区和田に生まれる。杉並区立杉並第十小学校を卒業。2019年1月現在、杉並区立高南中学校の3年に在籍。
小学6年生よりASを始める。2018年7月「第16回 FINAジュニア世界選手権大会」でミックスデュエットのテクニカルルーティーン、フリールーティーンで銅メダルを獲得。

※本記事は、杉並第十小学校温水プールの特別な許可を得て取材・撮影しています
※1 アーティスティックスイミング:2018(平成30)年にシンクロナイズドスイミングから名称変更
※2 テクニカルルーティーン:2分20秒前後の曲に決まった8つの動きを入れる種目。技術力に重点を置いた採点がされる
※3 フリールーティーン:3分半前後の曲の中で自由に演技する種目。構成力や芸術的な表現力が問われる
※4 ヒップホップダンス:アメリカが発祥のストリートダンスの一種

「第16回 FINAジュニア世界選手権大会」で銅メダル2つを獲得

「第16回 FINAジュニア世界選手権大会」で銅メダル2つを獲得

宮内花菜さんと息の合った演技を披露(写真提供:岩崎さん)

宮内花菜さんと息の合った演技を披露(写真提供:岩崎さん)

「第16回FINAジュニア世界選手権大会」の表彰式。金メダルのロシアペア、銀メダルの中国ペアと(写真提供:岩崎さん)

「第16回FINAジュニア世界選手権大会」の表彰式。金メダルのロシアペア、銀メダルの中国ペアと(写真提供:岩崎さん)

DATA

  • 出典・参考文献:

    日本代表選手公式ホームページ「マーメイドジャパン日記」 

  • 取材:村田理恵
  • 撮影:TFF
    写真提供:岩崎さん
  • 掲載日:2019年03月04日