新谷大輔さん

“つながりの達人”新谷大輔さん

株式会社三井物産戦略研究所に勤務し、国際情報分析のエキスパートとしてアジア・中国・オセアニアの政治、経済などの調査研究をしている新谷大輔さん。年間30日余りの海外出張もこなす忙しい身でありながら、杉並の地域活動にも広く貢献している。区との関わりは、「すぎなみ大人塾」(※1)に、2005(平成17)年の立ち上げから学習支援者として参画したことに始まる。ハードな仕事と地域活動を両立しながら、積極的に周りの人々とのつながりを作っていく新谷さんに、その極意を伺った。

※1 すぎなみ大人塾:地域づくりのため、自分を振り返り、社会とのつながりを見つける「大人の放課後」をキャッチフレーズとする学習の場
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すぎなみ大人塾(外部リンク)

「盛り上がることが単純に楽しい」と言う、行動的な新谷大輔さん

「盛り上がることが単純に楽しい」と言う、行動的な新谷大輔さん

香川のうどん文化をシンガポールへ

新谷さんは、2009(平成21)年まで「すぎなみ大人塾」の学習支援者として「社会起業家講座」を開講。 「社会起業家の研究や支援活動をしていたことから講座を担当することなりました。受講生一人一人が地域とつながる“きっかけ”を見つけ、地域で主体的に“動く”人になってもらうことを目的とした大人塾夜コースです」。講座では、ゲスト講演やワークショップ、受講生が自身の事業プランを立案する活動などを行った。「すぎなみ大人塾の受講生は年齢も性別もさまざまですが、地域力の高い人たちが集まっていると思いました。この塾に参加したことがきっかけで、地域で何かを始めた人も多いようです」
2010(平成22)年6月、国際情報の収集にも有利な環境が整っているシンガポールに赴任する。「シンガポールで実感したのは、現地の人々と交流せずに日本人ばかりで固まっていては何も生まれないということです。地元の人たちとコミュニケーションを取るためには、組織に閉じこもるのではなく、自らネットワークを広げていくことが大切だとおもいました」。そこで、香川県出身の新谷さんは、県人会を立ち上げて事務局長として活動すると同時に、香川県のうどん文化をシンガポールの人たちに広め、いずれは香川県にも来てもらおうと考える。そして、地元香川のうどん屋「たも屋」の協力のもと、県人会イベントとして手打ちうどん教室を実施。また、2013(平成25)年の「Oishii Japan」(※2)では、「手打ちうどん体験」イベントを開催し、大成功をおさめた。

※2 Oishii Japan:ASEAN(東南アジア諸国連合)市場最大級の日本の食に特化した見本市。現在の名称は「Food Japan」

「すぎなみ大人塾」で講師を務める

「すぎなみ大人塾」で講師を務める

シンガポールで開催された 「Oishii JAPAN」での「手打ちうどん体験」(写真提供:新谷大輔さん)

シンガポールで開催された 「Oishii JAPAN」での「手打ちうどん体験」(写真提供:新谷大輔さん)

ソーシャルキャピタル(※3)が豊かな人は風邪をひかない!?

新谷さんは、赴任先のシンガポールから日本に戻る際に、杉並に住むことを選んだ。「今暮らしているところは緑が多く、飲食店も充実しているので大変住みやすい。それに、杉並は地域とのつながりを意識した方も多く、活発な印象があり、地域色が豊かなところも魅力です」。「すぎなみ大人塾」での知り合いが多かったことも大きな決め手だった。「知り合い同士で近くに住んでいると一緒に酒を飲んだあとでものんびり歩いて帰ることができるし、電車に乗っても一駅乗る程度で済みます。この距離感が非常に大事で、住んでいる地域が異なる同僚と会社帰りに一杯というのとは、気持ちの面で違う 。それに、地域に飲み友達がいることはソーシャルキャピタルに通じる大切な要素です」と新谷さんは言う。
新谷さんの大学院での研究テーマの一つが、このソーシャルキャピタルである。“つながりの達人”新谷さんの原点だ。「ソーシャルキャピタルが豊かな人は風邪をひかない、という研究結果もあります。外部とのつながりを多く持つ人は、さまざまな情報をキャッチできるので、風邪の流行や予防法を知り、対処できる。逆につながりが少ない人は情報がなく、そのまま風邪をひいてしまうというわけです」。現在、ソーシャルキャピタルは、人との関わり方という点で地域活動や社会組織などでも応用されており 、今後ますます社会活動の重要なキーワードになっていきそうだ。

※3 ソーシャルキャピタル(社会関係資本):人々が持つ信頼関係や人間関係(社会的ネットワーク)を指す。人々の協調行動が活発化することにより、社会の効率性を高めることができるという考え方のもと、近年、地域活動においてもその重要性が指摘されている

「地域活動でのつながりは、緩やかな方がよい」

「地域活動でのつながりは、緩やかな方がよい」

「にしおぎBASE」と「にしおぎ大人塾」

西荻窪駅北口から徒歩約1分、しゃれた佇(ただず)まいのビルの4階に「にしおぎBASE」という秘密基地がある。すぎなみ大人塾の修了生らと共に立ち上げたコミュニティスペースだ。2017(平成29)年から始まった地域版大人塾である「にしおぎ大人塾」とも連動し、2018(平成30)年6月に新たな「つながり」を生み出す場としてスタートさせた。「“にしおぎBASE”を町の集まりや、イベント、ワークショップの開催などを通じて新たな価値を生み出す場とすべく、9人のコアメンバーと一緒に活用し始めています。西荻をもっともっと盛り上げていきたいですね」

▼関連情報
にしおぎBASE(外部リンク)
にしおぎ大人塾(すぎなみ大人塾 西荻コース)(外部リンク)

「にしおぎBASE」にて。新谷さんの後ろの壁は、全面がホワイトボードで移動や片付けが不要。効率的な工夫がされている

「にしおぎBASE」にて。新谷さんの後ろの壁は、全面がホワイトボードで移動や片付けが不要。効率的な工夫がされている

そしてこれから

新谷さんは、杉並区が進める地域運営学校(コミュニティ・スクール)において、学校運営協議会委員としても活動している。会社員としても忙しい毎日を送りながら、なぜこれほどまでに地域活動にも貢献しているのだろうか?そう尋ねると、意外な答えが返ってきた。「地域活動という言い方は、あまり好きじゃありません。僕の場合、地域活動をやっているとは思っていないんです。単に、働いている場所や住んでいる場所を盛り上げたい、それが面白いと思っているだけです」
「にしおぎBASE」と「にしおぎ大人塾」、そして“つながりの達人”新谷大輔さんの活動が、今後、西荻や杉並をどう変えていくのかに注目したい。

取材を終えて
調査研究が本業の方なので、頭の中で問題を次々に整理できるからか、新谷さんはどんな質問にも順を追って丁寧に答えてくれた。会社でも、住んでいる地域でも、はたまた海外赴任先でも、すぐにきっかけを見つけて周りの人とつながっていく、新谷さんの取り組む姿勢にひかれた。

新谷大輔 プロフィール
1972年、香川県坂出市出身。株式会社三井物産戦略研究所 国際情報部アジア・中国・大洋州室室長として、管轄地域の政治、経済、産業等の調査、分析、研究に携わっている。杉並では「すぎなみ大人塾」を皮切りに、学校運営協議会委員としても活動。2018(平成30)年より、 新たな地域活動の場として「にしおぎBASE」をスタート。

DATA

  • 取材:黒岩和信、南聖子(地域大学区民ライター講座実習記事)
  • 撮影:黒岩和信、南聖子(地域大学区民ライター講座実習記事)
    写真提供:新谷大輔さん
  • 掲載日:2018年09月03日