小山訓久さん

杉並の子育て中心地「おやこカフェ ほっくる」の設立者

テレビ番組の南阿佐ケ谷特集で、「子育てしやすい街」のコーナーに取り上げられたこともある「おやこカフェ ほっくる」(以下、「ほっくる」)。杉並区に住む子育て世帯であれば、知っている人も多いのではないだろうか。「ほっくる」の設立者の小山訓久(こやま くにひさ)さんに、これまでの活動や杉並区との関わりなどについて伺った。

「おやこカフェ ほっくる」の設立者、小山訓久さん

「おやこカフェ ほっくる」の設立者、小山訓久さん

シングルママ、パパ支援のための「NPO法人リトルワンズ」

幼少期は渋谷区で過ごしたという小山さん。高校生の頃から杉並区高井戸に住み、高校卒業後はアメリカ留学などを経て、再び杉並区に住んでいる。
アメリカ留学では社会心理学を学んだ。子供の頃から剣道をはじめ複数の武道にいそしんできた経験が、留学中は非言語コミュニケーション(※1)ツールとして、とても役に立ったそうだ。帰国後、テレビ業界への就職を考えていたところ、高校生の頃からアルバイトとしてやっていたライターの経験を買われて、テレビの構成作家となる。2002(平成14)年頃、転機が訪れた。母子家庭の窮状を伝えようとしたが、実現できなかったのだ。「一億総中流と言われていた時代に、母子家庭と子どもたちの困っている状況はテレビのニーズに合わなかったのでしょう」
しかし小山さんは独自に取材を続け、母子家庭のために役立ちたいと強く思うようになった。そして、2004(平成16)年頃から母子家庭のサポート活動を始め、 2010(平成22)年に阿佐谷に「NPO法人リトルワンズ」(以下、「リトルワンズ」)を立ち上げた。「リトルワンズ」では、シングルママ同士の交流会を開催したり、仕事や子供の学校、法律について相談を受けたり、シングルママとパパに対する多岐にわたる支援を、都内を中心に全国的に展開している。

※1 非言語コミュニケーション:言葉以外の手段を用いたコミュニケーション

「NPO法人リトルワンズ」では、クリスマス会やハイキングなど、月ごとにイベントを開催(写真提供:リトルワンズ)

「NPO法人リトルワンズ」では、クリスマス会やハイキングなど、月ごとにイベントを開催(写真提供:リトルワンズ)

行政の課題とシングルママの課題を同時解決

小山さんが阿佐谷に「リトルワンズ」の事務所を構えて以来、杉並区や地域への協力も増えてきた。区内の母子家庭からの相談に応えながら、同時に杉並区との協働事業で「杉並ごみ減量プロジェクト」を地域の母親たちと一緒に実施したり、「杉並もったいない運動推進委員会」や「杉並区NPO支援基金」など公的な委員を歴任。杉並区のさまざまな事業と関わりは深く、行政の課題解決にも貢献している。その1つである空き家対策では、2017(平成29)年に杉並区の推進する「空家等利活用モデル事業」に事業者として協力し、家を探しているシングルママに改修した空き家を紹介することで、家主、行政、シングルママの抱える問題を同時に解決。全国初のモデルとなった。また、2010(平成22)年、教育委員会から「すぎなみ大人塾(※2)」などを記録する業務を受託。そして、この記録作業を、シングルママに在宅ワークとして紹介している。「地域にある強みと行政にある強みを組み合わせているだけ」と話す小山さん。前例のない取り組みを立ち上げたり、支援を継続していくにも、一筋縄ではいかない苦労があるだろう。心理学を学び、海外やテレビの仕事などを通し、多文化の人と付き合ってきた経験がある小山さんだからできる活動だ。

※2 すぎなみ大人塾:地域づくりのため、自分を振り返り、社会とのつながりを見つける「大人の放課後」をキャッチフレーズとする学習の場
▼関連情報
すぎなみ大人塾(外部リンク)

「杉並区は、もっと子育てしやすい地域になれる」と小山さんは話す

「杉並区は、もっと子育てしやすい地域になれる」と小山さんは話す

「ほっくる」を大人と子供たちの中継地点に

地域の母親たちの「杉並区には赤ちゃんとすごせる場所がない」という声に応え、2013(平成25)年、「おやこカフェ ほっくる」を阿佐谷にオープンした。
「ほっくる」は月・火・水・金曜の11時から16時、ランチとカフェの営業をしている。バイオリンの生演奏を聞ける日、身体に優しい食事を出す日と、曜日によって店長が代わる営業形態。「ほっくる」のスタッフは、自分自身の店のように個性を出してくれる人、一人でいろいろな対応ができる柔軟性のある人、ママと子供たちの居場所を作ろうという明確な意識を持ち、地域のことを親身に考えてくれる人を採用しているそうだ。
「ほっくる」は、ランチを食べるだけの場所ではない。行政からのお知らせを置いたり、定期的に子育て講座、親子向けの英語教室、こども書道教室、リトミック(※3)など教室も開いている。今の子育て世帯のニーズに合ったテーマで開講し、プロの講師に依頼するだけではなく、資格のある母親に講座を受け持ってもらうこともある。講師として独立を考えている人や、講座の集客に悩んでいる女性起業家には、ビジネスの方法も教授。毎月200家族以上が来るのも、納得の魅力だ。親子の居場所づくりは、継続して運営するのが難しい業種だが、「ほっくる」の成功を知りたいと、全国はもとより海外からも視察がきている。

※3 リトミック:音楽に合わせて心体を育む教育法

ほのぼのとした「ほっくる」入り口

ほのぼのとした「ほっくる」入り口

取材当日に開催されていた英語教室

取材当日に開催されていた英語教室

親子カフェを10代にも

情報があふれている現代では、体験する場所が不足しているそうだ。「情報は本やネットだけではなく、他人から学ぶ環境が大事」と小山さんは話す。「ほっくる」は、妊娠期の母親から乳幼児の母親までが集っている地域の居場所。その中で、互いに情報交換したり、知らない母親同士も友達になったり、アドバイスし合える貴重な体験の場として役立っている。
今後「ほっくる」は、さらに進化していく。「将来的に、親子だけでなく、赤ちゃんと日常的に触れ合う機会の少ない10代にも利用してもらい、世代の垣根を超えて子育てに対する思いや体験を共有してもらいたい」
全国で活躍するリトルワンズと小山さんが、「杉並区だからこそ、いままでやってこれたし、これからもできる」と話す姿に、地元・杉並区を大切に考えていることが深く伝わってきた。

取材を終えて
取材慣れしていない私たちに、小山さんは自身のライター経験をふまえてアドバイスしつつ、記事に書きやすいようにと理路整然と質問に答えてくれた。クールな一面も垣間見せながら、時折見せる笑顔がキュートな方だった。帰り際には「お芋食べる?」と、差し入れされたというジャガイモをおすそ分けしてくれた。ほっこりした気持ちになれた取材だった。

小山訓久 プロフィール
1977年生まれ。渋谷区出身。オレゴン大学卒。テレビの構成作家を経て、2010年より「NPO法人リトルワンズ」代表理事。2013年に「おやこカフェ ほっくる」を阿佐谷にオープン。著書に『親子カフェのつくりかた』(学芸出版社)がある。

※NPO法人リトルワンズは2024(令和6)年4月に団体を解散、おやこカフェ ほっくるは営業を終了しました

著書『親子カフェのつくりかた』

著書『親子カフェのつくりかた』

DATA

  • 取材:佐生真弓、内田早恵(地域大学区民ライター講座実習記事)
  • 撮影:佐生真弓(地域大学区民ライター講座実習記事)
    写真提供:リトルワンズ
  • 掲載日:2018年09月25日
  • 情報更新日:2024年04月17日