マシュー・チョジックさん

「肩書、なんでもいいですよ!」

「所さん、たけしさ~ん」と、テレビ番組「世界まる見え!テレビ特捜部」(※1)で、日本の大物タレントに呼びかける姿がおなじみのマシュー・チョジックさん。眼鏡の奥からのぞく大きな瞳が印象的だ。テレビコメンテーターのみならず、俳優、脚本家、ライター、出版社経営と、その活動は幅広い。「すぎなみ学倶楽部」に記事を載せるときの肩書を相談すると、「肩書?いらないです。なんでもいいですよ︕」といたずらっぽく微笑んだ。そこに、あまりこだわりはないようだ。
アメリカで生まれ育ったマシューさんは、「もともとはナボコフ(※2)やヘミングウェイのように世界を旅する⼩説家になりたかった」という。しかし今では、すっかり阿佐谷に住み着いてしまった。しかも「ここに一度住んだら、他のところに⾏けません︕」と断言する。マシューさんに日本に来たきっかけや杉並の魅力などを聞いた。

※1 「世界まる見え!テレビ特捜部」:日本テレビ系列で、毎週月曜日20時から放送されているドキュメンタリーバラエティ番組
※2 ナボコフ:ウラジミール・ナボコフ。ロシア出身、ヨーロッパやアメリカで活躍した作家

テレビをはじめ、マルチに活躍中のマシュー・チョジックさん

テレビをはじめ、マルチに活躍中のマシュー・チョジックさん

来日のきっかけは、蕎麦、「Shall we ダンス?」、村上春樹

マシューさんは、幼いころに食べた蕎麦の味が忘れられないそうだ。「僕の祖⽗はマクロビアン(※3)で、まだアメリカに⽇本⾷が浸透する前から蕎⻨や寿司を⾷べていました。4歳の時に、祖⺟と蕎⻨を食べようとしてパッケージの裏を見たけど、日本語だったからなんて書いてあるかわからなかった。あの読めない字は何だったのか、ずっと気になっていました。トマトソースをかけて食べたら、本当においしかった。」
日本の文化に興味をもったのは高校生のときだったという。「ガールフレンドとデートで観に⾏った⽇本映画「Shall we ダンス︖」(※4)。この映画で彼⼥と⼿をつなごうと思ったけど、僕はシャイだったので、なかなかつなげないでいました。その時、映画のテロップに、“男⼥で⼿をつないだり、「愛してるよ」などと⾔ったりすることのない⽇本では、社交ダンスはあまりなじみのないものなのだ”と出てきて、ああ⽇本⼈も僕のようにシャイなんだな、と思いました」
その後、日本文学にも触れるようになったマシューさん。「大学院では、村上春樹(※5)をテーマに修士論文を書いていました。これを理由に、ついに初来日を果たしたわけです」

※3 マクロビアン:穀物菜食主義者
※4 「Shall we ダンス?」:1996年に公開された日本映画。主演は役所広司と草刈民代
※5 村上春樹:日本の小説家。代表作『ノルウェイの森』他

マシューさんの幼少時代(写真提供:マシュー・チョジックさん)

マシューさんの幼少時代(写真提供:マシュー・チョジックさん)

イギリスで博士号を取得 (写真提供:マシュー・チョジックさん)

イギリスで博士号を取得 (写真提供:マシュー・チョジックさん)

「阿佐⾕は宇宙⼀好きな街」

来日から10年、まさかこんなに日本にいるとはマシューさん自身も思っていなかったそうだ。「僕は、初め⾼⽥⾺場に住んでいました。その後、中野、⾼円寺と移り、阿佐⾕にたどり着きました。吉祥寺に引っ越そうかなとも思ったけど、阿佐⾕に一度住んでしまったらもう離れられません。ここはいい意味で、変わっている⼈が多い街。杉並の⼈はぜんぜんシャイじゃなかったね。『Shall we ダンス︖』での日本人像は、ここでくずれました」。 杉並の店やイベント会場で知り合った人たちと、一緒に仕事をする機会も少なくない。「僕の周りには今、脚本家、映像作家、⼩説家といったクリエーターがたくさんいます。僕はそんなクリエイティブな仲間たちと、よく朝まで語り明かします。話すうちにいいアイディアがドンドン出てくるんです。そういうひとときは楽しいですね。この街から毎⽇刺激をもらって、それが⼈⽣の栄養になっているのを感じます」
杉並ゆかりの劇作家、寺⼭修司(※6)も大好きだという。「彼の映画作品はほとんど観ました。ボストンの⼤学で初めて観たとき、その世界観に引き込まれました。どれも必⾒ですので、ぜひ観てください。彼の聖地である阿佐谷は、そういう意味でも僕にとっては特別、宇宙一好きな街です」

※6 寺山修司:日本の歌人、詩人、劇作家、映画監督

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 ゆかりの人々>杉並を駆け抜けた人々>寺山修司さん

マシューさんがよく散歩している阿佐谷パールセンター商店街

マシューさんがよく散歩している阿佐谷パールセンター商店街

海外からの旅行者へのおすすめ

こんなに阿佐谷が大好きなマシューさんだが、初めはとまどいもあったと話す。「僕はベジタリアンで、日本は菜食主義だから食事が合うかなと期待していた部分があったけれど、実際そうではなかった。それにアメリカでは、メニューがあっても見ない人もいるんですが、日本はメニューありきですよね。でも最近では、なじみの店のコックさんにお肉を抜いてもらったり、オリジナルオーダーするようになりました。思い切って相談してみることが大切ですね」
また、海外からの友人たちには「街歩き」をすすめている。「中央線は遅くまで走っているし、街中は深夜でも散歩できる。これは場所にもよりますが、アメリカではありえないことです。気ままにどんどん街歩きしてほしい。いろんな発見があると思います」

▼バーミィー アジア料理
住所:杉並区高円寺南3-58-18山本B2F
営業時間:18:00-02:00(年中無休)
電話:03-3318-2621

▼藍書店
住所:杉並区高円寺北3-69-1
電話:03-3330-6314

なじみの店「バーミィー アジア料理 」の店主と。ロックを中心に所蔵する20,000枚のレコードとアジア各地の料理が名物

なじみの店「バーミィー アジア料理 」の店主と。ロックを中心に所蔵する20,000枚のレコードとアジア各地の料理が名物

高円寺の「藍書店」の前で

高円寺の「藍書店」の前で

スカウトからテレビの世界へ

マシューさんにテレビ出演について伺うと、「もともと⽇本のテレビに出ることは、全く考えていなかった」との返事があった。「日本では最初の頃、新聞記者をやったり、お芝居の脚本の一部を手がけ出演したり、その活動をウェブにアップしたりしていました。そんなことを続けていたある日、たまたまテレビ局のプロデューサーから連絡が来て、番組にスカウトされました。⽇本語の⽂章が書けるアメリカ人ライターを探していたみたいで。それが『世界まる⾒え︕テレビ特捜部』でのデビューにつながりました。ラッキーだったと思います」
これからも、肩書にはこだわらず「面白いと思うことには何でも挑戦していきたい」と語るマシューさん。その瞳は、杉並から世界を捉えようとしているようだった。

取材を終えて
どんなことも飾らずに答えてくれて、インタビューは始終、和やかに進んだ。マシューさんおすすめの店を一緒に訪ねている途中、珍しい建物や看板などを見つけると、すかさず近寄って観察。何気ない街並みも、マシューさんと歩けば、発見の連続であった。どこの店に立ち寄っても店主と気さくに話し、自然体で楽しんでいるようだった。

マシュー・チョジック プロフィール
1980年、アメリカ・コネチカット州生まれ。2007年来日。
ハーバード大学で修士課程、バーミンガム大学で博士課程の学位を取得。その後も村上春樹の作品や日本文化を研究している。
またNYを拠点に立ち上げた出版社「Awai Books」の経営者、兼編集者でありながら、日本語と英語による執筆や翻訳、メディア出演、大学講師、ライターとして、その活動は国内外に及ぶ。

2017(平成29)年7月に公開された日本の青春映画「獣道」に出演 。監督は内田英治 (写真提供:Third Window Films)

2017(平成29)年7月に公開された日本の青春映画「獣道」に出演 。監督は内田英治 (写真提供:Third Window Films)

テンプル大学で講義するマシューさん(写真提供:テンプル大学ジャパンキャンパス)

テンプル大学で講義するマシューさん(写真提供:テンプル大学ジャパンキャンパス)

DATA

  • 取材:伊藤美穂
  • 撮影:嘉屋本 暁
  • 掲載日:2017年12月18日