角川庭園の創設者で俳人の故角川源義(げんよし)氏の邸宅は、源義氏の俳句仲間だった建築家、加倉井昭夫氏による設計で、1955(昭和30)年に竣工した。2005(平成17)年に角川家から杉並区に寄贈された後、改修し、2009(平成21)年より幻戯山房(すぎなみ詩歌館)として一般開放。源義氏の書斎兼応接間だった部屋に、ゆかりの品や俳句などを展示し公開しているほか、句会等を催せる詩歌室や茶室を貸し出している。
建物は近代数寄屋建築(※)という様式で、現代のモダン住宅の先駆けともいえるシンプルで粋な建築。どの部屋も庭を望む南側の開口部を大きくとり、四季折々の植物を楽しめる。また、建具(障子、ガラス戸、網戸、雨戸)は全て壁の中に引き込める形に設計されている。
1階にある「詩歌室1」は、もともと洋風の食堂と和風の居間だったところを、改修で1つの広い部屋にした。この部屋の全ての建具を壁に引き込むと、庭と部屋とが一体化したような開放的な大空間が生まれる。
同じ階にある四畳半の茶室は、床柱と天井の桟に竹を使って、しゃれた庵(いおり)の雰囲気を演出している。茶道具の貸し出しサービスもあり、利用者に人気の茶室だ。詩歌室や展示室の天井も、よく見るとその部屋に合わせたデザインで木材がきれいに加工されているのがわかる。
現在、公開していない2階には、座敷と寝室だった和室と子ども部屋がある。和室はふた間続きで、欄間の上部を少し開け、中央を鉄筋で吊って軽やかに見せている(一番下の写真参照)。欄間の透かし彫りは、裏と表の絵柄を変えて彫ったもので、近代的な造りの中に昔ながらの伝統の技がいかされている。
幻戯山房は、近代数寄屋建築の好例として2009(平成21)年に国の登録有形文化財に登録された。
※近代数寄屋(すきや)建築 :昭和初期に建築家、吉田五十八(いそや)氏によって確立された建築様式。茶室の考え方や手法である「数寄屋」を近代の生活様式に合わせて住宅に取り入れたもの
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