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松井啓十郎さん

公園で父親とバスケの練習

小学1年生の時に父の勧めでバスケを始めました。父が1992(平成4)年のバルセロナオリンピックでマイケル・ジョーダン(※1)率いるアメリカのドリームチームの活躍を見て感動したことがきっかけです。
実家が高円寺にあり、中央線で東京学芸大学附属小金井小学校に通っていました。だから阿佐谷や荻窪に友達が多いんですよ。小学校では卓球部に入っていて、市の大会で優勝したこともあるんです。背が大きかったので腕が長くて有利だったのかも。ミニバス(※2)の癖がつくと直しづらいから、ミニバス部には入っていません。当時、阿佐谷にしはら公園のバスケットボールリングが高さが3メートル5センチの公式サイズで、大人と同じ7号のボールを使って部活の後に父と2人で練習をしていました。そこのリングが撤去されてからは梅里中央公園まで自転車で通うようになりました。公園に行けない日は家の前の電信柱に3メートル5センチのしるしをつけてシュートの練習をしていました。電信柱って丸いじゃないですか。だからボールをまっすぐ当てると返ってくるけどズレると跳ね返って、坂道だったから転がっていっちゃうんですよ。そのおかげで正確に打つ練習ができました。
小学5年生の時にスポーツメーカーのイベントで、来日中のマイケル・ジョーダンと子供たちが1対1の対戦をやる企画があり、僕も参加させてもらえたんですが、そこでバスケの本場アメリカに行きたいという気持ちが強まりました。

※1 マイケル・ジョーダン:アメリカのバスケットボール選手。オリンピックで2度金メダルを獲得したバスケットボールの神様と言われる存在

※2 ミニバス:ミニバスケットボールの略。小学生が行うバスケットボール。中学生以上が行う公式バスケットボールとはコートやボールの大きさ、リングの高さやルールなどが異なる

松井啓十郎選手

松井啓十郎選手

子供のころの練習場所だった梅里中央公園

子供のころの練習場所だった梅里中央公園

バスケの本場、アメリカへ

中学校からは英語を勉強するために二子玉川にあるインターナショナルスクールに入り、2年後に渡米しました。14歳でバスケが強く毎年全米25位には入るような学校にポーンと行ったので全然レベルが違ってついていけませんでした。先輩にも後輩にも今NBA(※3)で活躍している選手がいるような環境で、自分の何が通用するのか何ができないのかを体験的に学びながら、僕はシュートの腕を磨いていこうと思いました。みんなハングリー精神が強く常に自分を出す姿勢を持っていたので、僕もそれに倣いました。
英語を習得して行ったので周りとのコミュニケーションはすぐに取れました。ただ名前はなかなか覚えてもらえず、父が「けいじゅうろう」から「KJ」というニックネームを作ってくれて覚えてもらえるようになりました。シンプルで短いほうがアメリカ向きですね。
高校のヘッドコーチ(監督)が学校のそばに家を建てて寮にしていたので、そこで暮らしていたこともあります。ナイジェリアやハンガリー、南米の人など、さまざまな国の生徒が住んでおり、いろんな事を話しながら一緒にバスケをしていました。

※3 NBA:The National Basketball Associationの略。アメリカやカナダを本拠地とするチームが参加する男子プロバスケットボールリーグ

高校時代。友達と(写真提供:松井啓十郎さん)

高校時代。友達と(写真提供:松井啓十郎さん)

学生時代は理系の科目が得意だった

学生時代は理系の科目が得意だった

文武両道の大学生活

バスケも勉強もちゃんとやれという家庭だったので高校ではどちらも頑張りました。いろんな大学からバスケのオファー(※4)がきましたが、その中のコロンビア大学は、ある程度成績が良くないと授業についていけず、バスケがうまいだけでは入れない学校です。大変だろうなと思ったけれども将来的なメリットや、東京出身なので都会に行きたかったことなどから、ニューヨークにキャンパスがあるコロンビアを選びました。
大学には高校時代に活躍した選手が絞られて行くのでレベルが高く、体つきも新入生と先輩では全然違う。そんなハードな環境でプレーできたのは良い経験でした。勉強は厳しくて、13時~16時のバスケの練習前後に授業があり、宿題の量もすごく多かったです。学校が家庭教師をつけてくれたり、先輩にノートを借してもらったり、工夫しながらやっていました。学部は経済です。お金や数字のことなどを勉強するのが好きだからいいかなって。元チームメイトでウォール・ストリートで働いている人もいます。就職してニューヨークに残っている友達が多いので、年に1回くらい遊びに行きたいですね。

※4 オファー:大学からバスケの特待制度で入学を誘われること

大学時代はシューティング・ガードのポジションで活躍(写真提供:松井啓十郎さん)

大学時代はシューティング・ガードのポジションで活躍(写真提供:松井啓十郎さん)

大学の卒業式(写真提供:松井啓十郎さん)

大学の卒業式(写真提供:松井啓十郎さん)

日本代表でプレーすること

日本代表に入りたい、という気持ちから大学卒業後に日本に帰ってバスケをやろうと決めました。高校のウィンターカップ(※5)にも出ていないし日本での実績がない。自分がこれだけできるんだぞっていうのをアピールしたかったし証明したかった。僕の確率の高いシュート力がチームにエネルギーを与えられることなどを評価していただいて日本代表に選ばれましたが、生き残るのは必至ですよね。同じポジションの人より少しでもいいプレーをしてアピールしないといけない。かといってアピールしすぎるとチームワークを乱したりする。そこが難しいけれども、代表メンバーと和気あいあいと楽しくやっています。日本のベストな選手が集まっているので、そこでプレーできるのはいい刺激になっていますね。
2016(平成28)年開催のリオデジャネイロオリンピックは出たいです。実力で行けたら名誉なことだし、国民も日本の出場を期待しているだろうから。それに、日本代表が盛り上がらないと国内のリーグも盛り上がりません。2015(平成27年)にアジア選手権で4位に入ったのは、代表選手12人が団結した結果です。世界最終予選に行けるっていうのがファーストステップだったので、次のステップはリオオリンピックに向けてどこまでできるのか、ですね。

※5 ウィンターカップ:インターハイ、国体とともに高校バスケットボール界の三大タイトルの1つ

3ポイントシュートを得意としている

3ポイントシュートを得意としている

試合はスピード感にあふれている

試合はスピード感にあふれている

プロ選手としての生活

今所属しているアルバルクはアメリカンな感じのチームです。ヘッドコーチは日本人ですが、アメリカでコーチングの経験があるのでずっと英語でしゃべってるんですよ。僕や同じ高校だった伊藤大司選手は英語ができるので、日本人と外国人の中継役というか通訳をしています。みんな仲良くて、そういういい雰囲気が試合にも出るんですよね。
練習の日は12時半くらいに練習場に行って、テーピング巻いたりストレッチしたりなどを個人でやっています。14時からはチーム練習。16時に終わったら、また個人でシュート練習やランニングなどをして自分でコンディションをつくっていきます。睡眠や食事をしっかりとることも大切ですね。休みの日はマッサージに行ったり土日の試合の疲れを取ったり。あと、長距離を歩くことはしないなど、あまり足を使わないようにしていますね。日々のストレッチやアイシングなど、体をケアしなければならないのが学生との違いかな。プロになると毎日の積み重ねだし試合数も多いし、体調管理は大事ですね。
僕はバスケットの世界で夢をもって一生懸命頑張ってきて、プロになり、日本代表にも選ばれました。若い人たちにも、夢を持って一生懸命やるのは大事なことで、それに向かっていく努力は将来の仕事や人間関係に絶対生きてくると伝えたいですね。厳しい練習や勉強に挫折しないで頑張ってほしいです。


取材を終えて
インタビュー前に、「トヨタ自動車アルバルク東京VSレバンガ北海道」の試合を観戦。プロのバスケの試合を初めて見ましたが、チアリーダーのショーや、BGM、DJが試合中でも入ること、お客さんがスティックバルーンを使って試合を盛り上げる様子など、とても華やかで驚きました。選手は常に全力で走りプレーしていて目が離せず、あっという間に時間が過ぎました。松井選手も3ポイントシュートを決めるなどの活躍でチームの勝利に貢献。試合後は選手とファンがハイタッチで交流をしていて、1つのゲームの中で楽しめるポイントがたくさんありました。松井選手はスポーツマンらしく明るくて爽やか。お話を聞くと相当な努力をされたことがわかりましたが、ご本人はひょうひょうと「こんなことあったんですよ~」となんでもないことのよう。プロのバスケットボール選手になるという夢にぶれることなく真っすぐに向かって行った信念の強さを尊敬しました。


松井啓十郎 プロフィール
1985年10月16日生まれ。高円寺出身。
小学1年生の時にバスケを始める。14歳で渡米し、モントロス・クリスチャン高校に入学。コロンビア大学卒業後、2009年に帰国し、レラカムイ北海道(現レバンガ北海道)に入団。2013年からトヨタ自動車アルバルク東京に所属。身長188cm。ポジションはガード。ニックネームは「KJ」。

ベンチで試合を見守るアルバルクの選手たち

ベンチで試合を見守るアルバルクの選手たち

試合前のウォームアップ

試合前のウォームアップ

高円寺は今もたまに訪れるそう

高円寺は今もたまに訪れるそう

DATA

  • 公式ホームページ(外部リンク):http://sports.gazoo.com/alvark/
  • 取材:みやうちえいこ
  • 撮影:嘉屋本 暁、TFF 写真提供:松井啓十郎さん
  • 掲載日:2016年03月14日