木下利信さん 百合子さん

ワクワク感満載のコミュニティスペース

高井戸駅から徒歩3分の場所に、「こちらは何のお店ですか?」と尋ねたくなるユニークな店「私のおはこ」がある。10坪ほどの店内には、右側に貸し棚があり、左側にはバッグや食器、着物などが並んでいる。奥の一角はファイナンシャルプランニング(FP)事務所だ。中央のテーブルのあるスペースでは、英会話や健康麻雀、着付けなどのカルチャー教室のほかに、映画上映会なども開催される。近所の人がひっきりなしに訪れてワイワイガヤガヤ賑わう。ここはとても一言では言い表せない出会いの場なのだ。
経営者の木下夫妻は同い年。店長であり妻の百合子さんを、夫の利信さんはFPをやりながら優しく見守っている。
店のコンセプトについて百合子さんは、「ここは趣味の手作り品や身につけた技術・知識などの十八番(おはこ)を、必要としている人に届けられる場所です。貸し棚に出品する人やカルチャー教室を開く人にとっては、趣味の世界から一歩踏み出すきっかけになると思います。場所を提供することで“背中を押す”お手伝いをしたいという想いで開業しました。」と語る。

木下夫妻(百合子さん、利信さん)

木下夫妻(百合子さん、利信さん)

バッグや着物などが並ぶ店内。テーブルスペースでは、パソコン指導やマッサージなども行われる

バッグや着物などが並ぶ店内。テーブルスペースでは、パソコン指導やマッサージなども行われる

人生の第二ステージの在り方

「私のおはこ」はどのようなきっかけで誕生したのだろうか?
利信さんは元々、外資系事務機器メーカーで順調なサラリーマン生活を送り、60歳定年まで勤めることに疑問の余地はなかった。しかし52歳の時、「人生80年とすると、体力・知力共にまだまだ現役続行可能」と考え、まず70歳まで働くためのプランを立てた。「会社にしがみつくばかりが仕事ではない。長く働きたいからこそ、早めに決断して自分なりの働き方をすることも一つの選択肢だ。」利信さんのプランは、60~70歳の自分の人生の第二ステージで百合子さんの店舗経営の夢を実現し、それを手伝う計画だった。
しかしそのような折、利信さんの母が要介護状態になる。百合子さんは介護者の一人としてがんばり、夫婦の夢は後回しにした。そこで利信さんは54歳の時に、まずは1人でできるビジネスとしてFPを始めることにし、2年後に資格を取得する。FPを選んだのは、今までの経験が活かせること、開業資金の負担が少ないこと、自分で仕事のペースを決められるため百合子さんの仕事を応援しやすいことが理由だった。そして、「60歳の定年後にFPの修業をしたのでは、事業のスタートが遅くなる」と考え、百合子さんが背中を押してくれたこともあり、57歳で早期退職をした。

ファイナンシャルプランナー独立後の利信さん

ファイナンシャルプランナー独立後の利信さん

夢の実現と介護の両立 

FPとして独立後、利信さんは事務所を借り、仕事は5年ほど順調に推移した。だが利信さんの母の介護は続いており、百合子さんの負担は一向に減らなかった。そこで利信さんは、介護から解放されるのを待つのではなく、介護を続けながら百合子さんのやりたいことを始めてもらおうと決断をする。そこで、高井戸にあった母の住まいを1階は店舗、2階は母のスペースに改造して、店舗経営と介護を両立できるようにしたのである。こうして「私のおはこ」は2010(平成22)年8月5日にオープンした。
事業は百合子さんのアイデアで、棚貸しと着物のリユース・リメイク品の販売からスタート。プロ並みの作品を作れる人が「売れるのがうれしい」と言っていたことから発想し、作品の展示、販売ができる場所を提供する棚貸し。古くなった着物の処分に困っている人が多く、リメイク(作りなおした)品のニーズもあることから思いついた古い着物の販売。利信さんは当時を振り返り、「開店した時は、棚は半分くらいしか埋まっていないし、着物も店長(百合子さん)の物を並べて何とかかっこをつけましたが、売るものがなくて困りました。でも半年くらいで棚も埋まり、"用事がなくても店長と話がしたいから来る"とか、訪れるお客さまの数は増えました。」と語った。

オープン前の準備の様子

オープン前の準備の様子

地域のつながり-聞き上手が出会いの場を作る

店は木下夫妻の想像を超えて、地域に根ざす広がりを見せた。「人は雇っていませんが、サポーターは一杯いますよ。例えば、着物の値付けが分からない人にアドバイスをしてくれる人や、店内のディスプレイをやってくれる人とか。初めて来られたお客さまに対し、常連の方が商品の説明をしてくれたり、皆さんそれぞれ楽しんでやっています。また棚貸しのお客さまはご近所の方が多いのですが、宣伝してくれるおかげで、出品者が千葉、埼玉、京都など遠方まで広がっています。最近では外国の方もよく見えますね。お客さま同士で、あれが似合うとか片言の英語でお話しされています。」人気の理由を利信さんに伺うと、「ここでの楽しみ方はお客さまそれぞれにあり、このユニークなお店を知り合いに紹介したくなるんじゃないでしょうか。さらに、財産管理や相続に悩んでいる方がFPの相談に来られる例も増えていて、シナジー(相乗)効果も大きいです。」と言う。単にモノを買うだけでなく、そこに行けば話ができる人がいて、居心地もいい、そしてそこからまた何かが生まれるといった不思議な空間。それが「私のおはこ」に人々がひかれる理由なのだろう。百合子さんの「聞き上手」という「十八番(おはこ)」も一役買っているのかもしれない。

パソコン教室

パソコン教室

FPのスペース

FPのスペース

人生の第三ステージへ 

定年退職後の在り方や親の介護について悩んでいる人は多いのではないだろうか。最近では介護離職という事例も耳にする。そのような中、「私のおはこ」はこれらの問題を解決して見事に両立。しかも利用する人々が、楽しみながら生きがいを見つけられる地域のコミュニティスペースとして役立っている。
今後の展望について利信さんは次のように語る。「70歳までを目標に店を続けるつもりです。今は80歳までの第三ステージのライフプランも作り始めてるんですよ。ですが、ここまで皆さんに愛されてきたこのお店をいきなり止めるわけにもいきませんから、我々が一歩下がったあとも店が回る仕組みを考えたり、同じようなことをやりたい人にシステムを教えたりしています。」
そのような将来の構想を語りながら、「退職後にやることがなくて、毎日が日曜日という状態の方もいるようですが、私達の60歳代は介護も含めて働きづめで、自分たちの時間がほとんどなかったんですね。70歳代は人の世話にならないでやっていける最後のゴールデンエイジだと思うんですよ。だから第三ステージでは自分たちのためにお金を使って、時間を楽しみたいと思っています。そう思うだけでも楽しいじゃないですか。人生三毛作ですね。」と利信さんは柔和な笑顔を見せた。

木下利信さん 百合子さん プロフィール
2010(平成22)年8月5日に「しぇあ~どぷれいす高井戸 私のおはこ」をオープン。“十八番(おはこ)を持っている人を応援します”というコンセプトでスペースを貸し出している。現在は下記のようなサービスメニューを行い、今後はさらに拡大予定。
(サービスメニュー)
1.棚貸し:個人が趣味で作ったものを自分で値付けして販売できる
2.テーブル貸し(営業時間内):パソコン・着付け他カルチャー教室、ジュエリーリフォーム他
3.スペース貸し(営業時間外):セミナー、英会話、映画上映会、グループ打合せ他
4.着物のリユース・リメイク作品販売
5.バッグ・アクセサリー、食器他のリユース販売
6.ファイナンシャルプランニング(FP)事務所

<追記>
2015(平成27)年12月末をもって、店長の百合子さんが担当していた物品販売(棚貸し、着物のリユース・リメイク作品販売、バッグ・アクセサリー、食器他のリユース販売)の営業を終了した。客から惜しまれつつも百合子さんは第三ステージの準備に取りかかるため決断。利信さんのFPや健康麻雀、マーサージ等のスペース貸しは引き続き継続し、新たなアイデアも募集していく予定だ。
-2015年12月24日 加筆-

店舗外観

店舗外観

DATA

  • 住所:杉並区高井戸東2-25-16
  • FAX:020-4665-3847
  • 営業時間:10:30-17:00
  • 休業:日曜・月曜・木曜
  • 公式ホームページ:http://watashinoohako.com/
  • 取材:すぎなみ呑み助
  • 撮影:すぎなみ呑み助 写真提供:私のおはこ
  • 掲載日:2015年07月06日
  • 情報更新日:2015年12月24日