津田大介さん

高円寺の魅力

僕の出身は東京北区の滝野川なんです。02年まで住んでいました。大学時代に付き合っている彼女が99年から高円寺に住んでいたから頻繁に来ていたんです。「高円寺っておもしろい街だなぁ」とはずっと思っていましたね。その彼女と02年に結婚することになり、どこに住むのか話したところ“高円寺だね”と自然に決まりました。
高円寺に決めた理由の一つとしてあったのが、中野も好きだったから。中野、高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪。それぞれの駅ごとにカルチャーがあり、独自の文化圏を形成しているのが魅力的でした。中央線沿線に住んだら「楽しいだろうな」とは思っていましたね。
高円寺でのおもてなしは、ガード下の高円寺っぽいところに連れて行くこと。「馬力」とか「四文屋」ですね。あんま小洒落たお店がないこともあって、ガード下の飲み屋に外から来た客を連れて行くと喜びますね。高円寺は、信じられないほど旨いモノはないですけど、「安くて値段の割には旨い」ものが多い。

高円寺駅南口

高円寺駅南口

雑誌ライターから始まった仕事

元々は、『別冊宝島』などの雑誌が好きでマスコミ志望でした。雑誌を作るなら出版社へ行こうと考え、就職活動をしたが結局全滅。ライターのアルバイトから始めました。当時は、ウィンドウズ98が出るような時代でパソコン雑誌が元気だった。書き手不足でライターの需要が多い状況でした。パソコン雑誌のライターから業界に潜り込むことができました。
現在は、インターネットの情報はインターネットで知るのが当たり前です。しかし、当時は違った。使う時だけ電話で接続して、電話代とプロバイダー代の両方が必要というエラい時代。ネットの情報を得る為に雑誌が必要でした。その後に、ADSLや光の登場でインターネットの情報はインターネットで完結するようになり雑誌が売れなくなった。どんどんと僕の書く場所がなくなっていったので、デジタルがビジネスを変えていくことを取材しようと思い、02年から『音楽配信メモ』というブログを始めました。
ニッチなジャンルを扱うブログをやることによって、専門家としての自分の名前を売って他の仕事に繋がればいいなとも考えてましたね。

ツイッターとの出会い

07年に『ナタリー』を作った時でした。当時の開発プログラマーが「ツイッターが熱い」と教えてくれたことが出会いです。最初はおもしろさがわからなかったけど、一ヶ月もするとハマっていた。仕事にも使えるなと思い、ツイートで実況することも始めましたね。
ツイッターはメディアだなと思いはじめたのはフォロアーが2000人を超え始めたあたりからかな。ツイッターは、もうSNSではないと思います。SNSだったころは、ユーザー同士が繋がりやすく、コミュニケーションもあった。今フォロアー数を伸ばすのは、いかに有益な情報を発信できているかが重要。ニュース提供者としての価値がどれだけあるのかがフォロアー数に結びつきますね。

SNSで杉並区を面白く!

杉並区はやりやすいと思いますよ。
例えば高円寺。こんなに頻繁に街で多くのイベントをやっている場所なかなかないでしょう。阿波おどり、高円寺フェス、さらに大道芸もある。月一回イベントがあるくらいだから、祭好きが集まっている場所じゃないですか。けど、高円寺に住んでいる僕ですらイベントの全貌が分かっていない。発信すべきものが多過ぎて、それを広めてくれるような人にあんまり届いていないのが問題だと思います。
イベントの情報を知るために、高円寺情報メールマガジンを登録しようとはしないけど、偶然ツイッターとかを見ていて、イベントに行く人は多いと思う。高円寺広報担当みたいな人がいて、ツイッターで情報発信をすると良いですね。

現在の興味

ネットと政治ですね。たくさんの人に読まれるおもしろいメディアを作ることに、興味が戻っています。
最近よく考えるのは、サスティナビリティとは何かということなんです。サスティナビリティって「変わること」なんですね。大きな枠は変えずに、中身はどんどんと変えていく人が生き残れる。自分のやってきていることも2~3年おきに変化しているんです。07年にツイッターで有名になり、09年に本が出版され、そこで震災が起きる。震災の情報を発信する人で2年半が経過した。今は、次のことを始める時期に来ている。ここから2~3年はまた新しいことをやりますよ。

情報を発信したい若者へ
好奇心の強さと楽天的になること、あとは試行錯誤をどのくらいできるか。そして情報を発信するという段階になった時に、誰もがそれなりに満足するものを作るのではなく、 ある人には反発も生むかもしれないが、ある人にとっては響くものを作る。情報を生み出すことや作品を制作することは、賛否両論が必ず出ます。それを怖れずに自分のやりたいことをやる。それが世間と適合して売れるか売れないかは、たんなる時の運ですから。けど、それを呼び込めるのも含めて才能なんだろうなと。
一番大事なのはDIY精神じゃないかな。何かをやりたかったら、人やモノ、お金だったりを頼りたくなるけど、それをなるべく頼らずにやる。いざとなったら”全部自分でやるよ”って覚悟として持っておくことが大事です。

取材を終えて
非常に個人的な話であるが、大学時代に津田さんが出演されていたラジオ番組そのものを招致し、公開放送イベントを行ったことがあった。私のことを覚えていてくれたのが嬉しかった。取材でも1つ1つの質問に丁寧に対応してくれた姿が印象的だった。語る言葉に経験に基づく強さと、優しさが垣間見えた。

津田大介 プロフィール
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト
1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。 大阪経済大学客員教授。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。東京工業大学リベラルアーツセンター非常勤講師。J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター。 NHKラジオ第1「すっぴん!」パーソナリティー。テレ朝チャンネル2「ニュースの深層」キャスター。
メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」の創業・運営にも携わる。 世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。
主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。

DATA

  • 取材:ヨシムラヒロム
  • 撮影:syaeidou
  • 掲載日:2014年01月14日