ラジオぱちぱちさん

善福寺のアジト

「ウハハハハハハハハー」
空高く響く笑い声。マントをひるがえし、どこからともなく現れる。昭和のヒーロー黄金バットがいまだ健在との情報を入手。多くの目撃情報がある杉並区善福寺周辺を捜索し、遂にアジトを発見。なんとそこは、子どもたちが集まる善福寺北児童館の一室だった!

児童館の奥にある図工室は月に一度、ラジオ局に変身する。「ぱちぱち」の公開生放送が行われているのだ。
放送10分前、出演者らしき中年の男女が集まってくる。緊張感もなく、健康話で盛り上がっているが大丈夫なのだろうか。何の打合せもないまま音声担当マリアンヌさんの合図で番組がスタート。
「こんにちは~ラジオぱちぱちで~す」
雑談の延長のように始まってしまった。まずは近況報告も兼ねた自己紹介から。本日の出演者は、貴公子マッチ、サステナ、スカイ、テリーヌ、ともぞー、マグー、マリアンヌあさみ、ヤス・アントニオの8名だ。

変身したラジオ局

変身したラジオ局

雑談に次ぐ雑談

番組が始まって30分過ぎるも、まだまだ自己紹介が続く。そこへ、かわいい飛び入りゲストが登場。部屋をのぞきにきた小学4年生の女の子だ。大人たちに囲まれ、矢継ぎ早の質問に少々緊張気味だが、学校の出来事などを話していく。飛び入り大歓迎の生放送。遊びに来る子には優しく声をかけ、マイクを向ける。照れて逃げてしまう子もいるが、最後まで参加していく子もいるそうだ。
放送中盤、ようやくレギュラーコーナーが始まる。コーナーはその日の出演者で決まる。初めに「テリーヌとマッチとさわらの善福寺公園だより」。公園に飛来してきた冬鳥の様子が語られる。マグーさんの「イチお詩、読みた詩、読ませた詩」では、ともぞーさんが作ってきた詩を朗読。みんなで講評する。「ざけんなよ!」では熱いサッカー談義が繰り広げられる。
どのコーナーも担当者がメインで喋るものの、まわりから自由に話しかけるので、雑談をしている雰囲気は変わらない。このまったりとした感じがだんだん心地よくなってくる。

雑談?ではなく放送中

雑談?ではなく放送中

ぱちぱち名物「黄金バット」

「ぱちぱち」は、01年、善福寺北学童クラブで知り合った親子仲間が、みんなで集まれる場所を作ろうと始めたのがきっかけだ。80年代に粉川哲夫が提唱した「自由ラジオ」(※)に共感したメンバーがいたことから、ミニFMの開局となった。当初は子どもたちが主役の番組だったが、レギュラーメンバーが大学生や社会人になり、今は大人たちがメインとなっている。プロは一人もおらず、ホテルマンや編集者、小学校教諭、クイズ作家など職業もバラバラだ。

人気コーナーであるラジオ・ドラマ「黄金バット」は、第80作をむかえた。第1作『ドラマ黄金バット ナゾーの巻』は加太こうじ原作の紙芝居をもとにしたが、その後は貴公子マッチ氏によるオリジナル台本である。
「思いついたらなんでもやる。ヒントはそこら中にある」というマッチ氏。ワールドカップやオリンピックなどの時事ネタから、第47作『博士の愛したソウジキの巻』(06年)、第73作『謎解きはイッパイやったあとでの巻』(12年)などベストセラーのパロディー、果ては家族旅行の思い出まで取り入れる、その貪欲さが作品を生み続けているようだ。
バット、宿敵ナゾー、ヒロイン・マサエ役は当初から変わらぬメンバー。毎回、ナゾーがマサエをさらい、バットが助けるパターンも同じ。なじみのセリフや展開を楽しめる安心感、マンネリズムが最大の魅力でもある。

「トロールの森2013」でのバット上演の様子

「トロールの森2013」でのバット上演の様子

ぱちぱちにとって「バット」とは

バットの収録は主にメンバーの自宅で行う。当初は効果音も自作したいと様々な音作りに挑戦。川の音はトイレを流し、舟を漕ぐ音はギシギシ鳴る食器棚、マサエが滝壺に落ちる音は子どもが風呂に飛び込むところを録音した。大学院生になったサステナさんの息子Tくんは「みんなで遊んでいたという感じ」という。カラオケ店やキャンプ場での収録。新年会でおでんをつつきながらの収録。試行錯誤しながら、子どもも大人も遊びの延長のようにバットを楽しんできた。

メンバーにとって「バット」とは何か。ヤス・アントニオさん曰く「のみ会のネタ」。放送日の夜には反省会という名の飲み会が開かれる。彼らにとってそれこそが本番であり、長続きの秘訣なのかもしれない。目標は100作。これからも楽しみだ。
「おつかれさまでした~」
放送が終了すると、ものすごい勢いで片付けが始まる。ものの3分もかからぬうちに、ラジオ局から図工室へ。そして夜の反省会に向け、メンバーは散ってゆく。どこからともなく現れ去ってゆくバットのように。
放送開始から13年、「ぱちぱち」は地域の人々に親しまれてきた。これからもバットと共に、善福寺のアジトで子どもたちと遊び続けてゆくに違いない。

※ 粉川哲夫『これが自由ラジオだ!』(1983年 昭文社):70年代にヨーロッパで広まった「自由ラジオ運動」に学び、国や企業にたよらない自身の電波ネットワーク「自由ラジオ」を提唱。80年代、日本でも全国的にミニFMがブームになった。ミニFMとは、電波法で許可が要らない、微弱電波を発信するラジオ局。
▼ラジオぱちぱち
▼ラジオぱちぱち(U-Stream)
※放送時間 毎月第2土曜日10時~12時(再放送 同日19時~)放送時のみ視聴可能

ラジオぱちぱち プロフィール
2001年4月14日、ミニFM「ラジオ善北こどもネットワーク」を開局。周波数88.0MHzだったことから愛称「ラジオぱちぱち」(以降「ぱちぱち」)に。12年よりネット放送に移行。毎月第2土曜日10時~12時に、善福寺北児童館の特設スタジオから公開生放送している。また、「トロールの森」など地域イベントや、学校行事にも参加している。

ただいま放送中!

ただいま放送中!

DATA

  • 最寄駅: 西荻窪(JR中央線/総武線) 
  • 取材:坂田
  • 掲載日:2013年12月12日