城戸かれんさん

4歳の誕生日、ヴァイオリンが両親からのプレゼント

インタビュー場所である杉並公会堂にヴァイオリンケースを抱え、さっそうと現れた城戸かれんさん。ピンと伸びた背筋、長い黒髪、きりっとした瞳が意志の強さを感じさせる。とても姿勢の良い人である。彼女の分身ともいえるヴァイオリンが納められているケース。よく見ると、かわいらしいマスコットがいくつもぶら下がっている。これから世界に花開いていく有望なヴァイオリニスト、と聞くとちょっぴり近寄りがたい雰囲気が漂うかもしれないが、城戸さんは普通の女子大生となんら変わりない。

城戸さんがヴァイオリンに出会ったのはいつのことだろう。「3歳くらいの頃でしょうか。後に母から聞いた話なので私は残念ながら覚えていないのですが、テレビなどからヴァイオリンに興味を持ったのだと思います。4歳の誕生日のプレゼントは何が欲しいかと両親に聞かれ、突然『ヴァイオリンが欲しい』と。」早速ご両親から誕生日にヴァイオリンがプレゼントされた。
しかしヴァイオリンはすぐに音が出る楽器ではない。きちんとした音を出すためには姿勢、正しい弓の持ち方、動かし方等、基礎から教えてくれる先生が必須だ。お母様は早速かれんさんのためにヴァイオリンの先生を探し、ご自身も素人ながら一緒に勉強されたそうである。
「物心ついた時にはもうヴァイオリンのレッスンを受けていた」という城戸さん。この当時はまだ普通の習い事ではあったものの、その時以来、日々の練習を欠かさなかったという。「毎日リビングで練習していましたが、とにかく母も一生懸命で。『そこ違うでしょ!』って、怖かったです(笑)」

楽しく過ごした幼稚園、小学校時代

城戸さんは1994(平成6)年に東京で生まれた。お父様の転勤で生まれてすぐ1年ほど関西に住んだが、幼稚園(井荻聖母幼稚園)、小学校(桃井第五小)ともに杉並だ。現在も杉並区在住である。
今の可憐な姿から想像しがたいが、小学4年生までは競泳もやっていたという。ヴァイオリンと競泳、どちらも毎日練習がある。さぞかし忙しい小学生時代だったに違いない。「友達ともよく遊んでいましたよ。競泳とヴァイオリン以外には習い事は特にしていませんでしたし。どこにでもよくいる小学生でした」と城戸さんは謙遜するが、競泳、ヴァイオリンともに全力で力を注ぐというのは、並大抵ではできないと想像する。ヴァイオリンも競泳も好きだったが、競泳の方は本人曰く「同世代の子たちと毎日タイムを測り、競うことがつらくなって」小4でやめてしまったそうだ。以来ヴァイオリン一筋だという。

夢はいろいろな地、人々の前で自分の「音楽」を演奏すること

城戸さんの名前を世に知らしめたのは、なんといっても第79回日本音楽コンクール(※)で2位に入賞したことだろう。
クラシックの音楽コンクールは課題曲、自由曲がある。日本音楽コンクールのような大規模なコンクールを受けるとなれば、これにオーケストラと演奏する協奏曲も曲目に加えられる。予選、本選と勝ち進むためには大変な努力が必要なことはもちろん、当日にベストコンディションで演奏ができるよう、体調管理にも気を遣わなければならない。それでも本選まで進み、協奏曲を演奏することができるのはごくわずか。
城戸さんのコンクール初体験は小学校1年生の時だという。「鎌倉の音楽コンクールを受けて落選してしまったのです。それで駅のホームで悔しくてワンワン泣いてしまいました。」当時の泣いた瞬間の気持ちは今でもはっきりと覚えているという。城戸さんにとってその頃はもうヴァイオリンは単なる習い事ではなく、生活の一部になり、この道で頑張っていきたいと将来を意識し始めた頃でもある。
コンクールでは緊張感を持ち、自分に負荷をかけることが必要とされる。これは大変なことではないだろうか。それでもコンクールを受けることが好きだという。
「コンクールは名前を知ってもらう手段として、いろいろな曲を勉強する機会、舞台経験として、大事にしておきたいと思っています。」
決して人と競うことが好きなのではなく、沢山の曲を演奏する機会としてコンクールが好きなのだときっぱりと答えてくれた。
現在は漆原朝子氏に師事しているという城戸さん。「漆原先生に出会って今までになかった様々な方向から自分の演奏と向き合うようになりました。だいぶ良い方向に変わってきていると感じていますが、まだ頭の中の音と耳から聴こえてくる音の違いに悩む日々です。」
自分の伝えたいことを100%出すために、研鑽を積む毎日だという。

杉並から世界に羽ばたく

城戸さんに杉並の好きなところを聞くと、「静かなところ、緑が多いところ」だという。杉並公会堂で開催される演奏会には、機会があるたびに足を運んでいたそうだ。
現在は杉並区役所のロビーコンサート、杉並公会堂で日本フィルと共演するなど、杉並区でも精力的に活動中。特に2013年9月26日に杉並公会堂で小林研一郎指揮、日本フィルと共演したブルッフの演奏は聴衆を魅了した。「私が初めてオーケストラ演奏を聴いたのが幼稚園の時、杉並公会堂でした。しかも小林研一郎先生の指揮で。本当にすばらしくて、演奏会後、荻窪から帰るバスの中で母と興奮して帰ったことを今でも覚えています。」そんな憧れの小林研一郎氏と、杉並公会堂で協奏曲を演奏。「これってすごく幸せなことですよね。」という城戸さん。しかしそれは誰もができることではなく、選ばれた人だけなのである。
最近は「ラ・ルーチェ弦楽八重奏団」という室内楽団の活動もしている。これは、東京藝術大学・桐朋学園大学のメンバーによって、室内楽の楽しみを共有したいという思いから2013年6月に結成。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの弦楽器を専攻する8名がいる。「常に質の高い演奏」を求め、その時々「今だからできる演奏」を全力で表現すること、をモットーに活動しているという。「東京藝術大学・桐朋学園大学の個性的な同世代が集まって結成にいたりました。弦楽八重奏団ってあまりないのではないかと思います(笑)。『質』と『若さ』の共存がモットーです。」一人で弾くのも楽しいけれど室内楽はその何倍も楽しいという城戸さん。「お互いの刺激にもなるし、とても楽しいんですよね。」
近い将来には留学も考えているので、そちらの準備も進めていきたいと、夢はつきない。
城戸かれん、可能性を無限に秘めた19歳。ここ杉並から世界に羽ばたく日はそう遠くないだろう。

- 取材を終えて -

どちらかというと可愛いというよりもシックなイメージの強い城戸さん。インタビュー当日は、4日前に東京藝術大学とジュネーヴ音楽大学の交流プロジェクトを終えてスイスから帰国したばかり。インタビュー後も室内楽の合わせが大学であるそうで上野まで行くという。このパワフルさはどこから来るのだろう、やはり若さか、と感心することしきり。これからの活躍がますます楽しみだ。

※毎日新聞社と日本放送協会(NHK)が主催するクラシック音楽のコンクール。審査員は日本国内の著名な音楽家・演奏家が名を連ね、本選の模様はNHK教育、NHK-FMで放送される。また審査結果は毎日新聞の紙面上において後日、公表される。

城戸かれん プロフィール
1994年東京生まれ。4歳よりヴァイオリンを始める。小学生のころより様々な音楽コンクールで上位の成績を収める。 東京藝術大学音楽学部附属音楽高校1年生の時、新進音楽家の登竜門ともいわれる第79回(2010年)日本音楽コンクールヴァイオリンの部で2位を受賞。2013年9月には日本フィル杉並公会堂シリーズ(第3回)で小林研一郎氏(日本フィル桂冠指揮者)の指揮と日本フィルハーモニー交響楽団と共演。 現在、東京藝術大学在学中。ヤマハ音楽振興会2011年度音楽奨学生。ヴァイオリニストの漆原朝子氏に師事。日々研鑽をつんでいる。

DATA

  • 取材:高橋貴子
  • 撮影:syaeidou
  • 掲載日:2013年12月24日

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