阿佐ヶ谷文士村

著:村上護 (春陽堂書店)

明治中期から昭和40年代まで、阿佐ヶ谷界隈に住んだ文士たちの交友録が、当時の時代背景と共に綴られている。そこには「阿佐ヶ谷会」という文士の集まりがあり、井伏鱒二、太宰治を始めとした錚々たる顔ぶれが名を連ねていた。彼らは連日連夜酒を酌み交わし、文学談義にいそしんでいた。暮らしぶりは想像を絶するほど貧しく、病に伏す者や思想弾圧に遭う者などがいた。しかしそれでも、彼らは文壇から退くことなく、超然と近現代文学の発展に腐心した。
作者インタビュー
執筆当時の1970年代、作者の村上さんは杉並区和泉在住で、新宿を拠点とする作家たちとも交流があり、高円寺や阿佐ヶ谷の酒場によく出掛けていたそうだ。『大正12年の関東大震災後、新興の住宅地として開発されたのが高円寺、阿佐ヶ谷などの中央線沿線の街であった。当時は雑多ではあったが活気に満ち、昭和の文化が醸成されていった。それを担った中心の人々で、多くのエピソードを残したのが文士らであり、個性的で魅力ある存在だった。今に遺された作品を読んでいけば、杉並の文化風土の由来も理解できるだろう』とメッセージを頂いた。
おすすめポイント
数々の文豪が登場し、交友の相関関係がつかめる。日本文学好きにはたまらない内容だ。先述の作家作品を読んだことのある人はもちろん、これからの人にも、付属する関係略年譜を頼りに読み進めるのがおすすめ。居住者も一度は読んでおきたい。
「阿佐ヶ谷文士村」は1993年に発行されているが、それ以前の1976年に発行された講談社版「文壇資料 阿佐ヶ谷界隈」では、文士や当時の風景など写真資料が見られる。

※本書は2016(平成28)年現在、入手困難となっているが、中央図書館ほか区内図書館に蔵書あり。

DATA

  • 取材:里村芙有子
  • 掲載日:2011年11月03日
  • 情報更新日:2016年04月05日