マツの運命

区内で見られるマツ

杉並区で平成19年に行われた、緑の実態調査によれば、直径30cm以上の樹木の中でマツは6番目に多い1841本でした。区内で目にすることができるマツは主にアカマツとクロマツ、そして庭木として植えられているゴヨウマツなどです。クロマツは海辺を好むために区内で見られることは珍しく、古来より日本人に親しまれる海岸景観であった白砂青松(はくしゃせいしょう)の松とはクロマツのことをさします。余談ですが、一見、杉の仲間と思われるヒマラヤスギもマツの仲間です。

柏の宮公園のマツ

柏の宮公園のマツ

マツってどんな木?

マツはもともと荒れた土地や乾燥したところに最初に入り込んでくる樹木です。他の樹木が生長できない場所にいち早く入り込み、すばやく成長してわが世の春を謳歌する。これがマツの生き残り作戦なのです。そのためにマツは菌根菌(きんこんきん)という、生きた根に寄生する菌と仲良くしています。この菌はマツがそのままでは吸収できない土中の栄養素を、マツが利用できる形に変えることができ、この栄養をマツに与える代わりに自分もマツから栄養の供給を受けるという共生関係にあります。この菌根菌のおかげでマツはやせ地でも栄養不足にならず成長を続けることができるのです。そしてこの菌根菌の子実体(しじつたい=胞子を作るために形成するもので、いわゆる「キノコ」のこと)が高級食材のマツタケです!ちなみに、マツタケ以外に植物の根に寄生する「菌根菌」のキノコと言えば、こちらも高級食材として有名なトリュフなどがあります。
昔から人間が住む場所の周辺は、樹木が燃料や建築材として常に利用されてきたため、人が木を使い続けている間は、結果としてマツにとって居心地がよく、生き続けることができました。杉並区に今でもマツが多いのは古くから人の活動が盛んだったという証でもあります。
高度成長期以降、樹木が燃料や建築材として使われることも少なくなり、土地がだんだん肥えてくると、やせ地を好むマツは元気がなくなってきます。前回の「鎮守の森」でお話しました遷移(せんい)が進んできて、マツは次の植物に場所を譲り渡さなくてはならないのです。そのためマツはだんだん弱っていき、その枯れた枝葉や幹は次世代の動植物の栄養となっていくのです。

マツタケ

マツタケ

マツ枯れの下手人は?

今まで見てきたように大きな遷移の流れの中でマツは枯れていく運命にあります。では、その直接の下手人(げしゅにん)は誰なのでしょうか?
マツの枝葉や材を食害して枯らす虫を総称して「松くい虫」といいますが、その中でも横綱級の加害力を持つのがマツノザイセンチュウです。明治時代に北米から入り込んだこの体長わずか0.6~1mmの線虫は実に巧みな生活形態をしています。立枯れしたマツの中にいる線虫の幼虫は5月頃羽化するマツノマダラカミキリに寄生して他の健全なマツまで運ばれます。樹体内に侵入した線虫は移動分散を繰り返し、やわらかい細胞(形成層)を食害すると考えられています。そして、その過程で水分を送る管(仮道管)が傷つき、そこに空気が入ることによって水が枝葉まで送られなくなり、全身が赤茶色になって枯死します。宿主を枯死させた線虫は再びマツノマダラカミキリに寄生して新たな宿主を探します…。

カミキリ虫とセンチュウ

カミキリ虫とセンチュウ

懐かしい風景としてのマツ

これは私見ですが、もしかすると線虫によるマツの枯死は、大きな自然の流れの中では使命を終えたマツを枯らすために作られたメカニズムなのかもしれません。
平安時代から近代に到るまで、和歌や美術の題材として数多く登場するマツは日本人にとって非常に身近な樹木であり、長年親しんできたマツのある風景がなくなっていくことを惜しみ、各地で松林を残すための努力が続けられています。具体的には、ボランティアが落ち葉を掃き、定期的に間引きをして、人工的に土地を肥沃にしない工夫をしているそうです。しかしながら、今まで人が普通に生活することによって保たれていた風景を現代に守り、残していくことは大変に手間のかかることです。
さて…、杉並区の中に皆さんが残したいマツの風景はあるでしょうか?

DATA

  • 掲載日:2009年02月20日