古書かいた

実用書や日本文学、サブカルチャーなどさまざまなジャンルの本が並ぶ店内

実用書や日本文学、サブカルチャーなどさまざまなジャンルの本が並ぶ店内

紙の本を守りたい。若い店主の営む古書店

古書かいたは、荻窪駅北口方面のことぶき通り商店街を北に100mほど進んだところにある古書店だ。かつて理髪店だった物件を改修した店内には、店主の和田健(わだ たけし)さんが選んだ文学書や写真集などが棚に収まりきらないほどにあふれ返っている。
吉祥寺の古書店・よみた屋での数年の勤務を経て、和田さんが古書かいたを開業したのは2022(令和4)年7月、28歳の時だった。「時代が急速に紙離れしていく中、このままでは紙の本が無くなってしまうのでは?と危機感を持ち、紙の本を守っていきたいと感じたのが古書業界に飛び込んだきっかけです」と和田さん。

青いひさしが目印の外観。本棚の隙間から店内の明かりがこぼれる

青いひさしが目印の外観。本棚の隙間から店内の明かりがこぼれる

ゆっくりと言葉を選びながら古本への思いを話す和田さん

ゆっくりと言葉を選びながら古本への思いを話す和田さん

作家・開高健にちなみ、荻窪で開業

店名の由来は、杉並ゆかりの作家・開高健(かいこう たけし)が、自身が遅筆であることに掛けて自虐的に名乗った「かいた、かけん」=「書いた、書けん」(名前の別の読み方をもじったもの)から。
父親が開高健のファンだったことから鳥取県米子市の実家には著作が数多く並び、和田さん本人の名前も開高健に由来するのだという。開業にあたっては、旧開高宅(杉並区井草の現開高健記念文庫)からなるべく近くがよいからと、荻窪での出店を決めたのだそうだ。
開高健ら日本の近・現代作家のラインナップが充実しているのは当然のことながら、現在和田さんが最も力を入れているのがアート関連本の品ぞろえだ。店内に入ると真っ先に、平積みされた大判のアートブックや写真集が目に飛び込んでくる。「アート作品はスマホやパソコンの画面で見るより、紙の本で見た方が圧倒的に見応えがありますよ」と和田さん。最近では古書の販売だけでなく、小規模な個展の開催やアート作品の販売なども行なっている。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 杉並の文士たち>開高健さん

大判の写真集やアートブックは店内の最も目立つスペースに展示されている

大判の写真集やアートブックは店内の最も目立つスペースに展示されている

2023(令和5)年9月に開催した絵描き屋・田村ミホさんの個展「draw a line」(写真提供:古書かいた)

2023(令和5)年9月に開催した絵描き屋・田村ミホさんの個展「draw a line」(写真提供:古書かいた)

みなさんの帰り道を豊かにしたい

「本は読んでいる間だけでなく、読む前にも楽しみがありますよね」。そう語る和田さんの表情は明るい。「お気に入りの本を買った日の帰り道は、早くその本を読みたくてわくわくしませんか?この店は立地柄、駅から自宅への帰り道に寄ってくれるお客様が多くいらっしゃいます。帰り道にふらりと寄って、その人にとっての運命の一冊を見つけてくれたらうれしいですね」
そのような願いを込めて、古書かいたの公式SNSには「みなさんの帰り道を豊かにしたい」との一文が添えられている。

壁面に飾られたアート作品の購入も可能

壁面に飾られたアート作品の購入も可能

わざわざ行きたいと思える古書店へ

最近は実店舗を持たずにネット販売だけを行う古書店も増えているが、和田さんが実店舗を持つのには理由がある。「古本には凝った装丁や特有の甘い匂い、古い紙をめくるときの音など、手に触れて初めてわかる魅力があると思います。当店もネット販売には対応していますが、いずれはネットで当店を知ったお客様がわざわざ足を運んで、本たちに触れたくなるようなお店にできれば」と和田さん。静かな口調に古本への情熱と、この古書店の秘めた可能性を感じた。

ショップカードと包装紙。店のロゴには開高健を思わせる男性が描かれている

ショップカードと包装紙。店のロゴには開高健を思わせる男性が描かれている

DATA

  • 住所:杉並区天沼3-30-42 1F
  • 電話:03-6279-9182
  • 最寄駅: 荻窪(東京メトロ丸ノ内線)  荻窪(JR中央線/総武線) 
  • 営業時間:12:00-21:00
  • 休業:水曜
  • 補足:土曜・日曜・祝日は11:00-20:00
  • 公式ホームページ(外部リンク):https://koshokaita.shopselect.net
  • 取材:今川いくら
  • 撮影:今川いくら
    取材日:2023年09月17日
  • 掲載日:2023年11月13日