山下英子さん

幼少期に食べたドライフルーツ

ドライフルーツの輸入販売を行う株式会社イーワイトレーディング代表取締役の山下英子さんは、善福寺で生まれ育った生粋の杉並っ子。
1960(昭和35)年生まれの山下さんは、幼い頃から当時、まだ珍しい海外のドライフルーツを食べる習慣があった。そのきっかけは、山下さんの祖母の義兄にあたる長田孝さんにある。長田さんは1906(明治39)年、15歳の時にアメリカで一旗揚げたいと単身、米国カリフォルニア州のスースンバレーに渡り、果樹園経営で成功した。長田さんは、晩年帰国のたびに隣人の農園で売られていたドライフルーツを、山下さんら幼い子供たちへの土産に持ち帰っていた。甘くてみずみずしいドライフルーツの味は、まだ見ぬ異国の地への淡い憧れとともに、山下さんの幼い頃の忘れられない思い出となった。

株式会社イーワイトレーディング代表取締役・山下英子さん

株式会社イーワイトレーディング代表取締役・山下英子さん

アメリカに留学

山下さんは40歳を迎えた2000(平成12)年、アメリカに留学する機会を得る。行先は、長田さんの渡米先でもあったカリフォルニア州。語学学校で学んだ後、大学へ入学してアジア系アメリカ研究を専攻した。「共に学ぶ10代、20代の学生と私との年齢差よりも、教授と私との年齢差の方が小さいこともあったが、皆が親しみを持って接してくれた。」と山下さん。アメリカの視点からアジアを学ぶことにしたのは、単身渡米した長田さんのことや、同じ時期に移民としてこの地に渡った人たちのことを知りたいということもあった。
そんな山下さんは、長田さんが暮らしていた場所にも足を運んだ。経営していた果樹園はすでになくなっていたが、隣の農園はまだ残っており、嬉しいことに長田さんが土産にしたドライフルーツの販売も続いていた。今度は山下さんがこのドライフルーツを購入して帰国し、友人たちに食べてもらった。すると「こんなに美味しいドライフルーツは今まで食べたことがない」と誰もが驚いたという。思い出の味は、日本ではまだ販売されていなかったのだ。

大伯父・大伯母ファミリー、日系3世のはとこたちとの親族会(写真提供:山下さん)

大伯父・大伯母ファミリー、日系3世のはとこたちとの親族会(写真提供:山下さん)

現地農園(写真提供:山下さん)

現地農園(写真提供:山下さん)

ドライフルーツの輸入販売で起業を決意

帰国後、山下さんは起業塾に通い、2009(平成21)年、善福寺でドライフルーツの輸入販売会社を立ち上げた。40代後半、一からの起業であった。仕入れから梱包、ラベルづくりまで、すべての作業において周囲の助言を得ながら試行錯誤を重ねていった。
最初に販売したのは、山下さんが幼い頃に食べていたスースンバレー(カリフォルニア)産の洋なしとピーチ。留学中に足を運んで顔見知りになった農園主と交渉して契約締結に成功した。以後はスースンバレー産のみならず、山下さんが実際に食しておいしいと感じたドライフルーツを販売するために、生産者らとの交渉を重ねた。
現在はカリフォルニア産のネクタリン、黒いちじく、オレゴン産のモイヤープルーン、ブルキナファソ(アフリカ)産のマンゴー、イラン産のジュエリーレーズン、ゴールデンレーズン、グリーンレーズンなども販売している。初めは飲食店など事業者向けの卸売りであったが、今は消費者向けに小分けにした通信販売も行っている。商品はフルーツを天日干しした、砂糖不使用の“フレッシュドライフルーツ”だ。砂糖を使わなくても甘みがあるということは、完熟するまで待って手摘みで収穫しているということ。「どれも自信を持って販売しているものばかり。」と山下さんは話す。

イーワイトレーディングで販売しているドライフルーツ

イーワイトレーディングで販売しているドライフルーツ

輸入元のサンフランシスコ郊外Suisun Valley(スースンバレー)(写真提供:山下さん)

輸入元のサンフランシスコ郊外Suisun Valley(スースンバレー)(写真提供:山下さん)

行動することで夢はかなう

山下さんの魅力は明るく素直な人柄と行動力。笑顔が絶えない前向きな性格で、出会った人との縁を大きな輪に広げていく。
創業時、善福寺にあった会社は2015(平成27)年12月に西荻窪に移転した。西荻界隈をはじめ杉並在住の人たちとの交流も多く、2016年に初開催された「西荻ラバーズフェス」への出店、座・高円寺「座の市」やルミネ荻窪店「なみイチ」での販売も行っている。イベント出店時には、お客様に少しでも本場の雰囲気を感じてもらえたらとカウボーイハットをかぶって販売するのも山下さんのこだわりだ。また、現在は販売だけでなく、「おいしいドライフルーツのある暮らし」講座の講師も務めている。これまでに朝日テレビカルチャー(静岡県)や湘南蔦屋書店(神奈川県)のイベントなどで教えてきたが、今後は飲食店や雑貨店などで、受講者の希望に合わせた内容での開講も検討している。
「何かを始めるのに遅すぎることはない」と山下さん。留学中にマイノリティー(少数派)であることを経験したことから、ないものを嘆くことよりも自分にある個性を大切にすることが大事だと実感したという。自身の経験から湧き上がる「本場のドライフルーツを知ってもらいたい」という思いは、山下さんの行動によってたくさんの人に広まりつつある。

山下英子 プロフィール
1960年東京都杉並区生まれ。株式会社イーワイトレーディング代表取締役 インポーター ドライフルーツエヴァンジェリスト
ドライフルーツの輸入販売を行うほかドライフルーツ講座の講師、NPO法人ツナグバヅクリの監事を務める。

販売時はカウボーイハットを着用している。店頭販売はイベント・催事のみ(写真提供:山下さん)

販売時はカウボーイハットを着用している。店頭販売はイベント・催事のみ(写真提供:山下さん)

ドライフルーツ講座の講師を務める山下さん(写真提供:山下さん)

ドライフルーツ講座の講師を務める山下さん(写真提供:山下さん)

DATA

  • 公式ホームページ(外部リンク):http://www.eytrading.co.jp
  • 取材:高田 文乃
  • 撮影:佐藤 睦美
  • 掲載日:2017年01月10日