キャベツの新生活

著:有吉玉青 (講談社文庫)

都会暮らしの青年の切なさを描いた、有吉玉青さんの恋愛小説。拓人(通称キャベツ)は、入社数年目の文具メーカーの営業マン。夏の長期出張からやっとの思いで帰宅すると、住まいの東高円寺のアパートみどり荘は跡形もなくなり、更地になっていた。茫然とするキャベツだが、この際、何一つままならなかった人生をリセットしようと決意。ベイエリアの洒落たデザイナーズ・マンションに導かれ、何もない部屋で新生活を始めるが、次第に失なってしまったものへの想いが募っていく。
作者の有吉さんは、『渋谷の神様』『車掌さんの恋』『南下せよと彼女は言う』等々、数々の話題作を発表。優しく細やかな文章の中に深いメッセージを込める作風で読者を魅了している。この物語には、都会で生活する現代の若者たちの、さまよえる魂へのメッセージが込められており、同じような立場の多くの人々の共感を呼ぶ作品だ。
作者メッセージ
「杉並のまちをはじめ、これまで見たこと、聞いたことが、しぜんと小説になった作品でした。書くことの苦労以上に、楽しさを知った作品です」(有吉玉青さん)
おすすめポイント
キャベツと幼馴染みで恋人だった夏帆と、新生活に突然現れたキウイ(妙子)。二人の女性の切なさも絡み合い、物語は日常から心の深層へ深層へとミステリアスに展開していく。また、情景描写には、杉並育ちの有吉さんならではの設定も。「白石サニーハイツで右、東高円寺コートハウスで左、それから二本目のヴィラ・スズキを右に曲がる…。」読み進めば、その先のみどり荘で、キャベツと一緒に、大切なものを取り戻せるかもしれない。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 ゆかりの人々>有吉玉青さん

DATA

  • 取材:井上直
  • 掲載日:2015年02月23日