続・蘇る杉並の在来種

高井戸節成キュウリの栽培に挑戦!

「江戸東京野菜」の認証を受けた高井戸節成キュウリ。どのように成長するのか、どんな食感、味なのかを検証するために栽培を試みた。
高井戸節成キュウリの種子は、2022(令和4)年現在、一般向けには販売されておらず、試験研究や教育目的の場合のみ「農研機構 農業生物資源ジーンバンク」から入手できる。配布されている種類は、「高井戸」と「高井戸半白節成(※以降、半白)」の2種類だ。
栽培場所は、阿佐谷のマンションの4階ベランダで、プランター8台での栽培となった。4階ベランダでの栽培は、畑で栽培するよりも害虫の被害を受けにくく、また別の種が混ざる可能性が低いというメリットがある。しかしながら、日ごろスズメやヒヨドリ、カラスなど野鳥が多く飛来しており、その影響がないか懸念された。そのため、ネットを張った中で栽培した。

▼関連情報
農業生物資源ジーンバンク(外部リンク)

高井戸節成キュウリ

高井戸節成キュウリ

栽培記録1 -種蒔き~開花まで-

種子のパッケージに書かれた発芽率は、96%、100%とどちらも高い。だが、種子の個数は「高井戸」が13粒、「半白」が14粒と少量である。果たして素人がちゃんと発芽させられるのか、プレッシャーがかかった。
種子の大きさは、約9ミリ×3ミリ。水を含ませたコットンに数日浸し、ポットに1つずつ種子を蒔いた。気温がまだ低かったため、本葉が10センチほどになるまでは室内で成長を見守った。

■4月13日 観察開始から11日目
やきもきしながら待つこと約10日。一番早い種子がようやく発芽した。

■4月18日 16日目
22個が発芽。残りの5つは発芽の兆しがなく諦めた。今回の発芽率は、「高井戸」が13粒中10粒で77%、「半白」は14粒中12粒で85%という結果になった。

■4月23日 21日目
本葉が出る。その後約1週間で、本葉は大きいもので10センチほどの大きさに生育した。

■5月6日 34日目
プランターに移植した。この時点で苗の数は22株。
今年の東京の気候は平年と比較して少雨で、ほぼ毎日、水やりをしている。苗は5月の強い日光を浴びて、すくすくと成長。

■5月13日 41日目
プランター移植から1週間。弦が出始めた。

■5月29日 57日目
高さ150センチほどに成長。とうとう開花した。

ジーンバンクから送られてきた種子のパッケージ

ジーンバンクから送られてきた種子のパッケージ

上:発芽の様子<br>下:本葉(4月23日)

上:発芽の様子
下:本葉(4月23日)

プランター移植後の様子(5月7日)

プランター移植後の様子(5月7日)

栽培記録2 -開花後~収穫まで-

次々と開花したが、どれも雄花ばかりで雌花がない。東大大学院生態調和農学機構(※)の技術専門職員である手島英敏先生に見てもらうと、次のような指摘があった。

・葉の直径が25センチ以上あるものがあり、育ち過ぎである(適正は約20センチ)
・主枝の節の間隔が標準より長いものが見られる(標準は12センチ~13センチ)
・害虫(ミナミキイロアザミウマ)が葉の裏に発生している
・プランターの下のコンクリートが、日中かなりの高温になることが気にかかる

これらが雌花が咲かない事象と直接関連があるかどうかは不明だが、「キュウリがストレスを感じていることは確かだ」と言う。また、害虫駆除の方法を先生に伺うと、「ミナミキイロアザミウマのような難防除害虫に対しては農薬が効きにくい」とのことで、このまま様子を見ることにした。
やがて雌花もちらほらと開花し、手島先生の指導に従い人工受粉させた結果、実がつき始めた。1つでも実ったことに一安心した。

■6月12日 71日目
原因は不明だが、成長したキュウリの株自体が枯れてしまう現象が起こる。この時点で、残った株の数は18株。大量の収穫は難しそうだ。
一番成長が早い「半白」の1本が15センチほどの長さになった。このキュウリを種取り用と定め、収穫せずに成長させることにした。

■6月22日 81日目
初収穫。実の長さが20センチほどに成長した5本を取った。「高井戸」が1本、「半白」が4本。少量でも収穫できたことが嬉しい。
「高井戸」と「半白」では若干色味が異なっているが、どちらも“半分が緑色で半分が白っぽい”という高井戸半白キュウリの特徴が見られる。表面のブツブツしているイボは、市販のキュウリと比較して黒っぽく、尖がって鋭い。
キュウリの株が枯れてしまう現象は、その後も頻発した。まったく実をつけずに枯れてしまった株、実をつけても成長せずに枯れるものもあった。栽培の難しさを実感する。
種取り用と定めた「半白」の実は、やや黄色みがかり長さも25センチほどになった。

■6月26日 85日目
2回目の収穫。「高井戸」1本、「半白」1本を取った。

■6月27日 86日目
「高井戸」1本、「半白」1本を収穫。

■6月29日 88日目
「半白」2本を収穫。

■7月4日 93日目
「半白」1本を収穫。

■7月6日 95日目
「半白」1本を収穫。

■7月8日 97日目
遅れがちの「高井戸」が2本収穫できた。

■7月11日 100日目
「高井戸」1本、「半白」1本を収穫。

■7月16日 105日目
「高井戸」1本を収穫。これで種取り用の「高井戸」1本を残して、収穫がすべて完了した。合計収穫本数は20本。内訳は「高井戸」8本、「半白」12本だった。

※正式名称は東京大学大学院 農学生命科学研究所附属生態調和農学機構

▼関連情報
東京大学大学院 農学生命科学研究科附属生態調和農学機構(外部リンク)

生育した苗(5月21日)

生育した苗(5月21日)

雌花(6月8日)

雌花(6月8日)

上:初回収穫の5本。一番左のみ「高井戸」の種子から収穫<br>下:ボツボツが黒く、大きく鋭い

上:初回収穫の5本。一番左のみ「高井戸」の種子から収穫
下:ボツボツが黒く、大きく鋭い

「半白」の種取り用キュウリ(6月22日)

「半白」の種取り用キュウリ(6月22日)

高井戸節成キュウリを食す

塩漬けとオイキムチを作り、区民ライター数名に試食してもらった。市販のキュウリと比較しての感想は、次のようなものである。

・「皮が固い」
・「種の部分が少なく実が詰まっている」
・「種の部分の模様がはっきりしている」
・「シャキシャキした歯ごたえがある」
・「全般にエグ味や苦みが少ない」
・「キュウリというよりウリに近い気がする」

試食した皆から「おいしい」と言う声があがる。今はもう栽培されていないのが残念だ。高井戸節成キュウリは苦味が強いと聞いていたが、今回の試食では苦さを指摘するコメントはあまりなかった。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部>食>その他>荻窪キムチ

オイキムチは、「荻窪キムチ」で材料を調達し、漬け方のアドバイスをもらった

オイキムチは、「荻窪キムチ」で材料を調達し、漬け方のアドバイスをもらった

種の部分が少ない

種の部分が少ない

来年に向けて採種する

参考文献に従って採種を試みた。
7月3日に完熟して枝から自然と落ちた黄褐色の「半白」を、日陰の風通しの良い場所で追熟させた。10日ほど経った7月14日、縦に割ってみる。だが、十分な大きさに育てたにも関わらず、中に種らしい物体はほとんど見られず、かろうじて1粒の種があるのみだった。
続いて7月22日、「高井戸」の種取り用キュウリを収穫した。同様に追熟後、縦に割ってみたところ、こちらは20粒ほど種らしきものがあった。水に入れて発芽の可能性がある種かどうかを確認する。水に浮かぶ物は発芽しないので、それを除くと26粒を採種できた。

栽培を終えて
今回の栽培では、一般に流通しているキュウリとの成長比較をしなかったが、高井戸節成キュウリは1本の苗より収穫できるキュウリの本数が少ないように感じた。それは、今年の気候が猛暑続きであったことや、ベランダ栽培という環境によるものかもしれない。一般的なキュウリと同時に育ててみることで、さらにこの品種の特徴がわかると思われる。
味に関しては、キムチなどに加工しない生のままを味わうと多少の苦味を感じた。
今年の夏は暑い日が続いたが、キュウリが青々と茂るベランダは、見た目にはとても涼やかだった。

採種用の「半白」(上)と食用(下)との比較

採種用の「半白」(上)と食用(下)との比較

「半白」を縦割りした様子

「半白」を縦割りした様子

「高井戸」の採取用キュウリ。種がいくつか見られる

「高井戸」の採取用キュウリ。種がいくつか見られる

DATA

  • 出典・参考文献:

    『おいしい野菜づくり大図鑑』(成美堂出版)
    『自家採種入門』 中川原敏雄 石綿薫(農山漁村文化協会)
    『自家採種ハンドブック』 ミシェル・ファントン ジュード・ファントン著 自家採種ハンドブック出版委員会訳(現代書館)

  • 取材:小泉ステファニー
  • 撮影:小泉ステファニー
  • 掲載日:2015年08月31日
  • 情報更新日:2022年03月07日

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