田中共子さん

田中流読書のすすめ

図書館に行って向かう先が毎回同じ棚ばかりなのはもったいない!もし絵が好きだとしたら、美術の棚以外にも図書館のいろんな場所にちらばっています。旅行の本のページをめくると、画家さんが描いた挿絵や焼き物の写真があったりします。
絵本も子ども向けと思わないで手にとってみてください。正式な絵を勉強した画家さんが描いた絵や日本の印刷技術の素晴らしさなど大人ならではの楽しみ方があります。例えばキーツのコラージュ絵本の『ゆきのひ』は絵が良いだけでなく文章が詩的で美しいのです。
子どもの時にダイジェスト版や抄訳もので読んだ本を、完全版の大人の文学で読み返すのもおすすめです。ドレの挿し絵の『ああ無情』は私のおすすめ。『ロビンソン・クルーソー』は、お金がないときの経済の動きが読みとれますし、元々大人の本が子どもの読み物になっています。意外と読んだ気になっているだけで、もう一度本を読み返すことで再び物語りの現実が動きだすのを感じられるはずです。
図書館員になった時に「どんな本を読んだら情緒が豊かになりますか」「こんな子になって欲しいから、どんな本を読ませれば良いですか」とよく質問されました。本は読む子どもによって、それぞれ受け取り方が違います。この本を読んだら、こんな風に子どもが変わる、という事ではなく、本はその子の本来の性質に働きかけていろんな面を引き出してくれるのだと思います。
読書によって何を得られるのかといえば、次の読書に役に立つ。より深く本を楽しめる、おもしろい、もっと読みたいという欲求につながっていくと思います。

杉並区の図書館

杉並区は30年くらい前には図書館が4つしかなかったのですが、宮前図書館が5つめの図書館として建ち、そこへ私は異動してきました。
杉並区内でも地域の特徴があり、それぞれ図書館へ来る人の様子も違いました。宮前図書館は近所に子ども達の家々があったので、当時は今ほど物騒でなかった事もあり学齢前の子も一人で来ていました。小学校も近くにあったので、子どもが学校帰りに水を飲みに寄るのです。用務の方に踏み台をつくってもらって置いておくと、そこに乗って水を飲んで行っては、しばらくするとまた戻ってくるのが見えたり。子ども達が成績表をもらう日を私達は楽しみにしていて、みんな図書館に一回寄り道してから帰っていました。ぐずぐずとしている子には「お母さん怒らないから帰ろう」と行って家へ帰すと、次の日「怒られなかった」と教えてくれました。その頃は家庭のなかの様子が私達図書館職員にも手にとるようにわかる時代でした。そのくらい宮前では子どもと図書館が身近な関係にあったのです。高円寺は大人の利用が多くて子供も中学生が多く、小さな子どもが一人で図書館にくる雰囲気ではなかった気がします。とは言え、勉強する子がたくさんいて勉強室はいつも満員。成田は宮前に似ていましたね。お父さん達が土曜日に幼児を連れてくるのですが、小さな子どもはお父さんの膝にすっぽり入って後ろから見ると隠れてしまうので、私がお話しをしていると、まるでお父さんたちを並べて説教しているみたいだと言われました。柿木は緑に囲まれ竹藪があるので、七夕には近所の人が竹を届けてくれた、そんな思い出があります。

取材を終えて

「道で中学生を見ると、この子は図書館へ行っているかな?と思うのです。図書館という知の宝庫の鍵を、ひとりでも多くの人に持って活用してほしい」と温かい笑顔で言う田中さん。図書館勤務の頃にお見かけした田中さんは図書館のお母さんのような存在だった。現在の職場では「学校の図書室は私にとって本との出会いの場所だったので、杉並の学校図書室の充実のお手伝いができたら」と言われる。今回、本と図書館への思い、特に田中さんがどんな子ども時代をすごされていたのか話を聞くことができ嬉しく思った。

田中共子 プロフィール
東京都生まれ。國學院大學文学部日本文学科卒業。司書。 杉並区立地域図書館(宮前、高円寺、成田、下井草)、中央図書館を経て、現在杉並区立済美教育センター学校図書館支援担当。1988年から94年は杉並区立社会教育センター(セシオン杉並)で生涯教育にたずさわる。日本図書館協会会員。 児童文学の紹介、書評などを執筆。著書に『図書館へ行こう』『図書館で出会える100冊』(岩波ジュニア新書)がある。

物心つく頃から父が寝る前に本を読んでくれたり、読書好きの母が本を読んでいる時間は、一緒にあてがわれた本を読んでいました。小学校に入り「岩波の子どもの本」という絵本シリーズを毎月新刊が出る度に買ってもらったのが、とても嬉しかった覚えがあります。昭和30年代は岩波文庫や講談社文庫など、いろいろな出版社から海外の翻訳物シリーズや少年少女名作文学が出版され、当時の私は学校の図書館の本棚の端から読んでいきました。誰かが借りて揃っていない全集を3種類くらい見ていてて、返却されるのを待って借りました。妹と一緒に3冊ずつ借りて一週間で6冊読むという小学生時代でした。
長期の休みも図書館に行って、読んでも読んでもつきないのが嬉しかったです。学齢よりも上の本を読むのが好きでした。難しい漢字がちりばめられていて、長く楽しめるから。最後の方に近づくとがっかりした気分になってしまうので必ず次に読む本を用意したり。その感じは大人になった今考えると「至福の時」だったと思います。

DATA

  • 取材:小泉とうこ 
  • 撮影:みっこ
  • 掲載日:2011年10月06日